貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第507話 エルの居所

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「――兄貴、あいつ戻ってきましたぜ」
「おう、どうやら警備兵はいなかったようだな……だが、随分と帰りが遅かったな。何をしてやがった?」


路地裏に待っていた盗賊二人は戻って来たを見て特に怪しまず、遅れて戻って来た理由を問う。


「おい、遅いじゃねえか!!いったい何をしてやがった!!」
「そうだぞ、兄貴に心配かけるな!!」
「……すいません」


盗賊の男に変装したシノビは店の中に入って来た時の男の声色を真似て話す。この時にシノビは「変声」という技能を利用して完璧に男の声を真似た。

忍者であるシノビは隠密だけではなく、変装の際に役立つ擬態や変声の技能も習得しており、これらの技能を駆使して完璧に男を演じていた。しかし、盗賊の男と他の二人の関係性が分からぬ以上は言葉遣いにも気を付けないといけない。


「それで首尾はどうだった?」
「……店の中にはニエルの野郎が倒れたままでした。どうやらもう死んでいた様で……」
「そ、そうか……あいつ、やっぱり死んでいたのか」
「ちっ……面倒な事になったな」


ニエルが死んでいたとシノビが報告すると兄貴分の盗賊は舌打ちを行い、もう一人の男は自分がニエルを殺めた事に顔色を青くする。どうやら盗賊といってもニエルを襲った男はまだ碌に人殺しの経験がないらしい。

兄貴分の盗賊はニエルが死んだと聞いても顔色を変えず、相当な悪党だと判断した。シノビは二人の顔を確認してどちらも指名手配犯だと気付く。


(この男は確か金貨15枚の賞金首……名前はガルソンだ。確か、ガルスとは義兄弟だったな)


ガルソンという名前の盗賊はガルスと義兄弟の契りを結んでおり、盗賊団の中でも高い地位に居る事は間違いない。そこでシノビはこの男から情報を引き出そうとした。


「兄貴、ニエルが死んだ以上は魔剣の居場所は分かりません。一応、俺も家の中を探し回ったんですけど……」
「何だと?だから帰りが遅かったのか……だが、勝手な行動をするんじゃねえ。もしも他の客や警備兵が訪れていたらどうするつもりだ」
「す、すいません……」


シノビはガルソンという男の態度から自分が化けた男は盗賊の下っ端だと判断し、小物を演じながらこれからの事を尋ねる。


「でも、兄貴……ニエルの奴が死んだらあいつらの家の魔剣はどうします?」
「……仕方ねえ、捕まえたあの爺さんから吐き出させるしかねえな」
「あ、あの爺さんですか……でも、かなり痛めつけていたからもう死んでるんじゃないですか?」
「大丈夫だ、殺しはしねえ。あいつに死なれたら魔剣の在処が分からないからな」
「……そういえばあの爺さん、今は何処に居るんでしたっけ?」
「ああ?何言ってんだ、また忘れたのか!?捕まえた連中は宿の倉庫に閉じ込めてるって言っただろうがっ!!」


ガルソンの言葉を聞いてシノビは宿屋にエルが拘束されている事を知り、内心で笑みを浮かべる。その一方でガルソンの方はシノビの言葉を聞いて訝しむ。


「おい、ちょっと待て……お前、確か昨日は爺さんの飯係だったはずだろ。なのに爺さんの居場所を忘れただと?」
「え?いや、その……」
「……てめえ、合言葉を言え」
「え、兄貴?」


シノビが演じた男の態度に不信感を抱いたのか、盗賊の男は腰に差していた短剣に手を伸ばし、警戒気味に答える。その行動にもう一人の男は戸惑うが、シノビは限界だと判断して行動に移る。

二人の前でシノビは顔面に掌を覆い隠すと、その行動に二人は呆気に取られるが、次の瞬間に驚愕の表情を浮かべる。ほんの数秒でシノビの顔が盗賊の男から元の端正な顔立ちへと戻り、彼は笑みを浮かべた。

顔面を変化させたシノビを見て他の二人は唖然とする中、その隙を逃さずにシノビは二人に目掛けて腰に差していた短刀を抜く。


「斬っ!!」
「うぎゃあっ!?」
「ぐうっ!?」


二人の悲鳴が響き渡り、路地裏に血が飛び散る。下っ端の盗賊はシノビの攻撃を受けて地面に倒れ込み、もう片方の高額賞金首の盗賊は辛うじて短剣を抜いて防ごうとしたが、シノビの短刀を受けた瞬間に刃が折れてしまう。

武器を失った盗賊は慌てて下がろうとしたが、それをシノビが逃すはずもなく彼は両手の短刀を振りかざし、お互いに向き合う。盗賊の男はシノビの顔を見てすぐに思い出したように告げた。


「お、お前……まさか、シノビ兄妹か!?」
「そうだ、俺達の事を知っていたか」
「光栄でござるな!!」
「何ぃっ!?」


盗賊の男は背後から聞こえてきた声に振り返ると、そこには何時の間にかクノの姿が存在し、彼女は男に向けて駆け込むと跳び膝蹴りを顔面に食らわせる。


「ふんっ!!」
「ぶふぅっ!?」


クノの攻撃を受けた盗賊は派手に鼻血を噴き出しながら地面に倒れ込み、そのまま意識を失った――





――その頃、王都ではテンはある人物を呼び出すための手紙をしたためていた。だが、彼女は思うように筆が動かず。何度も頭を悩ませる。彼女が手紙を送ろうとしている人物は再結成する聖女騎士団の要に成りうる人物のため、どうしても彼女だけは呼び寄せる必要があった。


「はあっ……」
「いつまでそういしてるつもりだ。もう一時間近くも筆が止まっているぞ」
「あんたね……一時間もあたしの事を眺めていたのかい?」


同期であるレイラが語り掛けると、テンは呆れた表情を浮かべながらも手紙を覗き込む。そんな彼女にレイラは少し呆れながらも自分が代わりに手紙を書く事を提案する。


「お前が書けないというのなら私が書いてもいいんだぞ」
「いや、それだと意味はないんだよ……あいつだけはあたしが呼び出さないと絶対に納得しないだろうからね」
「……確かにあの子は強い、だけどどうしても呼ばないといけないのか?下手をしたらお前は殺されるかもしれないぞ」
「仕方ないさ……あいつの居場所を奪ったのはあたしだからね」


レイラは真剣な表情を浮かべ、本気でテンの身を案じていた。何しろ彼女が手紙を送り出そうとする人物は聖女騎士団の現役時代ではテンと渡り合えるほどの実力を持ち、一時期はエルマ以上にテンと組んでいた事が多い相手だった。

現役時代の二人は実の姉妹のように仲が良かった。しかし、テンが聖女騎士団を解散させた事を切っ掛けに二人は仲違いし、相手は未だに憎んでいるのは明白だった。


「もしもルナが……お前を許さなかったどうする?」
「その時は力ずくで従わせるだけさ」
「そんな事、出来るのか?」
「……無理かもしれないね」


これから呼び出す相手はテンが現役の時代の頃から張り合っていた相手であり、しかも現役を引退してからは実戦に立つ事が少なくなったテンに対し、相手は毎日鍛錬を欠かさず、時には傭兵や冒険者などの職に就いて腕を磨いているという。

もしかしたら今のテンよりも実力は上である可能性が高く、もうテンが手に負える相手ではないかもしれない。それでもテンは諦めるわけには行かず、彼女の宛ての手紙を書き始めた。




――テンが呼び出そうとしている相手は当時の聖女騎士団の中で一番の問題児であり、渾名は「聖女騎士団の狂犬」と恐れられた少女だった。現在は年月も経過したので少女と呼べる年齢ではないが、僅か10才で入団を果たし、11才の頃にはテンと渡り合える力を持つ最強の騎士だった。
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