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ゴブリンキングの脅威
第497話 ドルトンと旋斧
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――討伐隊が山に向かう前に各自で準備を整えている中、ナイは久々にドルトンの屋敷に訪れる。殆どの使用人は残念ながら逃げ出してしまい、現在の屋敷はドルトンとイーシャンしか暮らしていない。
イーシャンは元々は街の外れにある家に暮らしていたが、不在の時に街中に入り込んできたゴブリンによって家を荒らされてからはこの屋敷に移り住んでいる。現在はイーシャンは今は陽光教会の元で治療を手伝っていた。
久々にナイはドルトンと二人きりで過ごし、これまでの旅で何があったのかを語る度にドルトンには驚かれた。そして彼に変わり果てた旋斧を見せると、ドルトンは信じられない表情を浮かべる。
「なっ……こ、これがあの旋斧だというのか!?」
「はい、ドルトンさんなら爺ちゃんから旋斧の事を何か聞いていると思ったんですけど……」
「いや……あいつは自分の武器の事は殆ど語らなかったからな」
ドルトンに対してナイは火竜との戦闘の後から変化した旋斧を見せると、彼は心底驚いた表情を浮かべる。以前にドルトンはナイが旋斧を持ち込んだ時、若かりし頃のアルが所持していた時よりも刃が大きくなっていた事に気付いた。
アルとドルトンは数十年来の付き合いであり、旋斧に関してはドルトンが冒険者時代の時から相棒の武器として常日頃からよく見かけていた。しかし、現在のナイが持ち込んだ旋斧は昔の面影は殆ど残っておらず、大剣へと変貌して刃まで変色している事に戸惑う。
「火竜の肉体を突き刺した時、このような状態になったと言っておったな」
「はい……王都で一番の鍛冶師さんにも調べて貰ったんですけど、どうして旋斧がここまで変化したのかはよく分からないらしくて……でも、この魔剣がまるで生き物よのようだと言っていました」
「生き物……」
「火竜の魔力を喰らう事で成長し、より大きくなったみたいなんです。それで今までも魔物を倒した時、もしかしたら気づかないうちに旋斧は変化していたのかも……」
「ううむ……」
かつてドルトンはナイからこの旋斧を預かった時は酷い状態だった。刃毀れが酷く、もう武器としてまともに扱える状態ではなく、結局は倉庫に預けたまま放置していた。
親友の形見でナイにとっては養父の唯一の形見なので、処分できずにドルトンはナイが戻ってくるまで保管するつもりだった。あまりにも酷い状態だったのでドルトンは街の鍛冶師に修復を頼んだ事がある。
だが、結果から言えばこの街の鍛冶師では旋斧は手に負えず、刃を研ごうとしても砥石の方が駄目になる程に硬いという。刃毀れだらけの刃でありながら砥石でさえもどうしようも出来なかった事から諦めていたのだが、ある時に異変が生じた。
――ナイから旋斧を預かってから一か月ほどたった後、ドルトンは倉庫に保管していた旋斧を確認すると、何故か旋斧の刃が元の状態に戻り、まるで名工に鍛え上げられたように美しき磨き上げられていた。
自分が不在の間に何者かが旋斧を打ち直したのかと思ったドルトンだったが、誰が何の目的で旋斧を修復したのか分からず、そもそも倉庫に旋斧が保管されている事を知っているのはドルトンだけであった。
最初は内部の人間の仕業かと思ったが、使用人に問い質しても誰も旋斧の存在すら知らず、そもそも主人に内緒で勝手に倉庫に入るはずがない。結局は誰が旋斧を直したのか分からず、ドルトンは不気味に思う。
(ナイはこの旋斧が儂が鍛冶師に頼んで直したと思い込んでいるようだが……まさか、この旋斧は本当生きておるのか?)
ドルトンが旋斧を返却した時はナイは彼が武器を直して貰ったと思い込んでいるが、実際には旋斧が直った理由は鍛冶師が打ち直したわけではなく、他の理由だと判明する。
旋斧は敵を切りつける度に生命力を奪い、その生命力を糧にしてより強く、硬く、大きくなる魔剣なのだ。だが、その事実は旋斧を所有していたアルでさえも知らない。
「……ナイよ、すまんが儂も旋斧の事はアルから詳しくは聞いておらん」
「そうですか……」
「だが、もしかしたらアルの家族ならば知っているかもしれん」
「えっ!?」
アルの家族という言葉にナイは驚き、ずっとアルと暮らしてきたナイだが、彼は父親と決別して家を出て行ったとしか聞いていない。まだアルの両親は健在なのかとナイは思ったが、ドルトンは難しい表情を浮かべる。
「アルの両親は残念ながら大分前に亡くなってはいるが……確か、アルには弟が一人おったはずじゃ」
「弟!?そんな話、初めて聞いた……」
「まあ、お世辞にも仲が良いとは言えんかったからな。儂も何度か顔を合わせたが、アルに負けず劣らずの頑固な男でな、確かアルの代わりに稼業を継いで鍛冶師になったらしいが……」
「えっ……でも、この旋斧は爺ちゃんの家の家宝なんですよね?」
弟がアルの代わりに家を継いだのならばナイの旋斧の所有権は弟の方にあると思われるが、ドルトンによるとアルは複雑な家庭らしく、アルと弟は実の兄弟ではなく、血の繋がっていない事を説明した。
イーシャンは元々は街の外れにある家に暮らしていたが、不在の時に街中に入り込んできたゴブリンによって家を荒らされてからはこの屋敷に移り住んでいる。現在はイーシャンは今は陽光教会の元で治療を手伝っていた。
久々にナイはドルトンと二人きりで過ごし、これまでの旅で何があったのかを語る度にドルトンには驚かれた。そして彼に変わり果てた旋斧を見せると、ドルトンは信じられない表情を浮かべる。
「なっ……こ、これがあの旋斧だというのか!?」
「はい、ドルトンさんなら爺ちゃんから旋斧の事を何か聞いていると思ったんですけど……」
「いや……あいつは自分の武器の事は殆ど語らなかったからな」
ドルトンに対してナイは火竜との戦闘の後から変化した旋斧を見せると、彼は心底驚いた表情を浮かべる。以前にドルトンはナイが旋斧を持ち込んだ時、若かりし頃のアルが所持していた時よりも刃が大きくなっていた事に気付いた。
アルとドルトンは数十年来の付き合いであり、旋斧に関してはドルトンが冒険者時代の時から相棒の武器として常日頃からよく見かけていた。しかし、現在のナイが持ち込んだ旋斧は昔の面影は殆ど残っておらず、大剣へと変貌して刃まで変色している事に戸惑う。
「火竜の肉体を突き刺した時、このような状態になったと言っておったな」
「はい……王都で一番の鍛冶師さんにも調べて貰ったんですけど、どうして旋斧がここまで変化したのかはよく分からないらしくて……でも、この魔剣がまるで生き物よのようだと言っていました」
「生き物……」
「火竜の魔力を喰らう事で成長し、より大きくなったみたいなんです。それで今までも魔物を倒した時、もしかしたら気づかないうちに旋斧は変化していたのかも……」
「ううむ……」
かつてドルトンはナイからこの旋斧を預かった時は酷い状態だった。刃毀れが酷く、もう武器としてまともに扱える状態ではなく、結局は倉庫に預けたまま放置していた。
親友の形見でナイにとっては養父の唯一の形見なので、処分できずにドルトンはナイが戻ってくるまで保管するつもりだった。あまりにも酷い状態だったのでドルトンは街の鍛冶師に修復を頼んだ事がある。
だが、結果から言えばこの街の鍛冶師では旋斧は手に負えず、刃を研ごうとしても砥石の方が駄目になる程に硬いという。刃毀れだらけの刃でありながら砥石でさえもどうしようも出来なかった事から諦めていたのだが、ある時に異変が生じた。
――ナイから旋斧を預かってから一か月ほどたった後、ドルトンは倉庫に保管していた旋斧を確認すると、何故か旋斧の刃が元の状態に戻り、まるで名工に鍛え上げられたように美しき磨き上げられていた。
自分が不在の間に何者かが旋斧を打ち直したのかと思ったドルトンだったが、誰が何の目的で旋斧を修復したのか分からず、そもそも倉庫に旋斧が保管されている事を知っているのはドルトンだけであった。
最初は内部の人間の仕業かと思ったが、使用人に問い質しても誰も旋斧の存在すら知らず、そもそも主人に内緒で勝手に倉庫に入るはずがない。結局は誰が旋斧を直したのか分からず、ドルトンは不気味に思う。
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ドルトンが旋斧を返却した時はナイは彼が武器を直して貰ったと思い込んでいるが、実際には旋斧が直った理由は鍛冶師が打ち直したわけではなく、他の理由だと判明する。
旋斧は敵を切りつける度に生命力を奪い、その生命力を糧にしてより強く、硬く、大きくなる魔剣なのだ。だが、その事実は旋斧を所有していたアルでさえも知らない。
「……ナイよ、すまんが儂も旋斧の事はアルから詳しくは聞いておらん」
「そうですか……」
「だが、もしかしたらアルの家族ならば知っているかもしれん」
「えっ!?」
アルの家族という言葉にナイは驚き、ずっとアルと暮らしてきたナイだが、彼は父親と決別して家を出て行ったとしか聞いていない。まだアルの両親は健在なのかとナイは思ったが、ドルトンは難しい表情を浮かべる。
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「まあ、お世辞にも仲が良いとは言えんかったからな。儂も何度か顔を合わせたが、アルに負けず劣らずの頑固な男でな、確かアルの代わりに稼業を継いで鍛冶師になったらしいが……」
「えっ……でも、この旋斧は爺ちゃんの家の家宝なんですよね?」
弟がアルの代わりに家を継いだのならばナイの旋斧の所有権は弟の方にあると思われるが、ドルトンによるとアルは複雑な家庭らしく、アルと弟は実の兄弟ではなく、血の繋がっていない事を説明した。
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