貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第481話 観察

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「――呆けている場合か!!早く、動かんかっ!!」
『っ……!?』


マホの怒鳴り声が甲板に広がり、ずっと彼女と共に生きてきたエルマでさえも初めて見るほどに彼女は激高していた。マホの言葉を聞いて身体を硬直させていた者達は動き出す。

即座にハマーンは船内へ向けて駆け込み、彼の弟子たちも後に続く。この飛行船を動かせるのはハマーンだけであるため、他の者は巨人の動向を伺う。


「エルマ、ゴンザレス……決して儂の傍から離れるでないぞ」
「は、はい……」
「な、何という威圧感だ……!!」


弟子であるゴンザレスとエルマをマホは傍に寄せると、彼女は杖を構えて準備を行う。この時にマホはイリアに視線を向け、彼女の力を借りることにした。


「イリアよ!!お主の付与魔法で儂を強化しろ!!」
「えっ!?本気ですか!?」
「いいから早くせいっ……あちらはもう気付いておるぞ」


マホに呼び寄せられたイリアは慌てて彼女の元に駆けつけると、地中から現れた緑の巨人は身体にこびり付いた土砂を振り払い、改めて飛行船の方向に視線を向けた。距離は離れているが、決して安心はできない。

最初の内は飛行船を見て巨人は首を傾げるが、やがて自分よりも巨大な飛行船を「敵」だと捉えたのか、おぞましい咆哮を放つ。



『ウオオオオッ――!!』



その咆哮を耳にしただけで鼓膜が敗れそうになり、特に聴覚が鋭い森人族のマホやイリア、獣人族のガオウは耐え切れずに耳元を抑え込む。


「ぐっ……なんて声を出しやがる!?」
「どうやらこちらを敵と認識したようじゃな……エルマ、少しでも時間を稼げ!!」
「は、はい!!」


エルマはマホの指示を受けて弓矢を構えると、この時に矢に風属性の魔力を付与させて狙いを定めた。距離は離れていようとエルマの風属性の付与魔法ならば狙いを外さない。

彼女は最初に狙ったのは巨人の顔面であり、風属性の魔力を付与させた矢を放つ。放たれた矢は風属性の魔力によって真っ直ぐに巨人の顔面へと向かう。


(当たった!!)


放たれた矢は巨人の右目に目掛けて突っ込み、確実に的中するとエルマは確信した。しかし、巨人は右腕を伸ばすと信じられない事に指先で矢を摘まみ、止めてしまう。


「えっ……嘘、止められた……!?」
「ば、馬鹿な……あの巨体で、何と俊敏な……!?」
「おいおい、マジかよ……」


信じられない事に巨人はエルマの矢を意図も容易く摘まみ取り、しかも矢を程度の力加減で指先に摘まむ。それどころか巨人は摘まんだ矢を確認するように覗き込む。

エルマの放った矢は鏃の部分に風属性の魔力を纏い、その魔力を利用して軌道を自由自在に変化させる事ができる。しかし、この矢の魔力は時間経過と共に消えるため、やがて風の魔力が切れて元の矢に戻ると巨人は興味を失せた様に捨て去る。


「あの野郎……そこの嬢ちゃんの矢をしてやがったぞ」
「くっ……そんなはずはありません、これならばっ!!」


ガオウの言葉を聞いてエルマは歯を食いしばり、自分の矢が止められたという事実が認められず、彼女は今度は一度に三本の矢を番えて放つ。

今度は直線に放つのではなく、不規則な軌道でそれぞれの矢を操作し、三つの矢が別々の方向から巨人の顔面へと向かう。しかし、それに対して巨人は冷静に顔面に掌を構えて矢を受け止めた。

エルマの放つ矢は風属性の魔力を宿している事から威力も高く、鋼鉄であろうと貫ける力は持つ。だが、巨人の掌に矢は突き刺さるが、この際に鏃の風属性の魔力が消散し、矢の方が逆に壊れてしまう。


『フンッ……』


ごみでも捨てるかのように巨人は腕を振り払うと、矢の残骸が地面に散らばる。その光景を目にしてエルマは膝を突き、自分の攻撃が通じない事を悟る。


(そんな……私の、魔弓術が通じないなんて!?)


何十年もの時を費やして作り上げた自分の魔弓術が破られた、否、通じなかった事にエルマの心は折れかけるが、マホはエルマを叱咤した。


「エルマ!!儂の前で諦めるつもりか!?」
「っ……!!」


尊敬する師の言葉を聞いてエルマは正気を取り戻し、彼女は新しい矢を番える。ガオウはこの時にもう矢など通じないだろうと思ったが、エルマの狙いは別だった。

巨人に直接攻撃を仕掛けようと通じない可能性が高く、だからこそエルマは狙いを巨人本隊ではなく、別の場所を狙う。彼女の狙いは巨人が起き上がった時に盛り上がった大量の土砂であり、そこに目掛けてエルマは矢を放つ。


「これなら!!」
『ッ……!?』


土砂に向けて複数の矢が放たれた瞬間、大量の土砂が吹き飛び散って土煙と化す。それによって巨人は土煙によって視界を奪われ、顔面を覆い込む。その隙を逃さずにマホはイリアに指示を出す。
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