貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第472話 最後の踏ん張り

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「さあ、皆……もうひと踏ん張りだ。ここまで来たら死ぬまで抗おうじゃないか」
「王子様……いえ、王女様。死ぬときは一緒ですよ」
「へへっ……こんな美人の王女様と一緒に死ねるのなら本望だな」
「ここまで色々と大変な目に遭ったが……王女様を守って死ぬなんて格好いいじゃないか」
「お前達……」


リノが女性だと知っても冒険者も民兵も士気は下がらず、むしろ真実を伝えてくれた彼女に好感を抱く。シノビとクノは王女に戻ったリノに対し、自分達はどうするべきかを考える。


(兄者、これからどうするのでござる?)
(我々だけならばいつでも逃げ出せる……の気が変わるまで説得を続けるぞ)
(それは本心から言っているのでござるか?兄者も王女様を助けたいと思っているのでは?)
(……黙れ)


クノはシノビが残る理由は彼自身も王女を守りたいと思ったからではないかと指摘するが、シノビはあくまでも自分の目的のためには王女が必要だと言い張り、認めようとしない。

どちらにせよシノビもクノも王女を見捨てる事は出来ず、最後まで彼女に付き合う事にした。そして遠方からゴブリンの軍勢の鳴き声が響き渡り、遂に最後の攻撃を仕掛けてきた。



――グギィイイイッ!!



街のあちこちからホブゴブリンの鳴き声が響き渡り、それを聞いたリノは重い鎧兜を脱いだことで身軽になって生き残った者達に命じた。


「来るぞ、第二防衛陣を発火させろ……これが最後の戦いとなる!!」
「リノ王女、火を点ける役目は拙者達が!!」
「仕方あるまい……王女はここから離れないように」
「お前達……ああ、任せたぞ」


シノビとクノの言葉にリノは驚き、てっきり彼女は二人が自分達を置いて立ち去ると思っていた。だが、二人の言葉を聞いて彼女は任せると、二人は目にも止まらぬ速度で駆け出す。

第二防衛陣は第一防衛陣の際にりようされた建物よりも燃やす数は少なく、屋根の畝を自由に駆け巡る事が出来るシノビとクノならば二人だけで建物を燃やす事は出来た。ゴブリンの軍勢が押し寄せる前に二人は建物に向けて次々と火矢を放ち、燃やしていく。


「グギギッ……!?」
「グギィイッ……!!」


燃え盛る建物のせいでホブゴブリンの軍勢は街の中心部に簡単には近づく事が出来ず、炎が恐れて近付けない。だが、これは一時しのぎにしか過ぎず、炎が消えた時は街の中心部にホブゴブリンの大群が殺到する。


(ここまで、か……)


街中に入り込んだホブゴブリンの軍勢は少なくとも1000は超え、しかも大半がホブゴブリンと進化を果たして武装までしている。連日に人間達と戦い続けた事で個々の戦闘技術も高められ、他の地方に存在するホブゴブリンとは桁違いに戦闘力は高い。

この場に集まったのは世界最強のホブゴブリンの軍隊といっても過言ではなく、シノビはもうここに残った人間は助からないと判断した。リノも説得して連れ戻す事は不可能に近く、彼は夜空を見上げた。


(もうすぐ夜が明ける……日が照らすまでにが尽きるかもしれんな)


シノビは死ぬ覚悟は出来ており、ここでリノを見捨てればもう自分達には後は無い事を理解していた。ならば彼女と共に運命を共にしようかと考えた時、クノが声を上げる。


「兄者、一か八か……あの建物に逃げ込むのはどうでござる?」
「建物、だと……?」
「陽光教会でござる」


クノの言葉にシノビは目を見開き、彼女が指差す方向に視線を向ける。そこにはホブゴブリンの軍勢が唯一近寄れない場所が存在し、陽光教会の建物だけは未だに健在だった。



――陽光教会が作り出した建物は特殊な素材が使用され、何故か魔物は寄り付く事が出来ない。それはホブゴブリンも例外ではないらしく、半年前に魔物の襲撃を受けた時も教会は無事だった。



今更ながらに教会に逃げ込めば助かる可能性を失念していた事にシノビは頭を抑え、諦めるのが少し早過ぎた。教会へ逃げ込めば全員が助かる可能性もあり、どうしてもっと早く伝えなかったのかとクノを責め立てる。


「クノ、何故もっと早く教えなかった!?」
「い、いや……拙者も今あの建物に気づいたので……」
「くっ……すぐに戻るぞ!!」


クノも先ほど陽光教会の建物が視界に入ったのでその存在を思い出し、今の今まで二人とも陽光教会の存在を忘れていた。だからこそシノビはクノを責める事は出来ず、急いで王女の元へ戻ろうとした――





――同時刻、陽光教会の方ではヨウが祈りを捧げ、彼女以外の修道女も怪我人たちさえも祈りを捧げる。陽光教会が進行する陽光神に祈り続け、奇跡が起こるのを待つ。


(陽光神様……どうか、どうか彼等をお救い下さい。そして、あの子も……)


ヨウは先ほどから嫌な予感を感じており、自分の身はどうなってもいいので街の住民が助かる事と、そしてがこの地に戻らぬ事を祈る――
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