477 / 1,110
ゴブリンキングの脅威
第464話 リノの苦悩
しおりを挟む
(――すまない、こんな騙す様な真似をして……本当にすまない)
住民達が力を合わせて自分の指示通りに動く姿を見てリノは内心、涙を流したい気分だった。彼が考えた作戦は確かに大勢の住民を生かせる可能性があるが、同時に大勢の人間を確実に死なせてしまう策でもあった。
街中にゴブリンの軍勢を引き寄せるという事は、誰かが軍勢を食い止める必要があり、当然だがその役目は兵士が行う。兵士達はゴブリンの軍勢を足止めしている間に住民を下水道に逃がす必要があり、当然だが彼等だけは逃げる事は許されない。
もしも戦闘の際中に兵士が下水道に逃げ出したら、ゴブリンの軍勢にも下水道の存在が知られ、その場合は下水道に先に逃げた住民の命が危険に晒される。下水道までゴブリンの軍勢が追いかけてきた場合、戦う力を持たない街の住民は一方的に蹂躙されるだろう。
それを避けるためには地上で誰かがゴブリンの軍勢を注意を引く必要があり、その役目を担えるのは戦う力を持つ者だけである。つまり、地上の兵士がゴブリンの軍勢の囮役を担い、その間に街の住民だけは避難させる。
(他に方法はない……皆が生き残る方法などない)
リノとしてもこの作戦を思いついた時は実行するのに非常に悩んだ。しかし、もっと早く行動に移していれば被害を今よりも減らせたかもしれない。ゴブリンの軍勢が街から退去している間に街に防衛網を形成していれば、確実に被害を最小限に抑える事ができた。
(他に本当に方法なかったのか?今からでも作戦を立てなおすか?いや、そんな暇はもうない……やるしかないんだ!!)
自分を言い聞かせる様にリノは頭を抑え、その様子を見ていた民兵の一人が彼の元に近寄る。民兵は思い悩む表情を浮かべるリノに対し、はっきりと告げた。
「王子様、あんたは間違ってない」
「えっ……」
「俺には家族がいる、その家族を守れるのなら俺の命なんてくれてやる……あんたのお陰で家族が助かるんだ。なら、俺はあんたのする事が間違いだとは思わないよ」
リノに話しかけた民兵は昨日の時点では外に出る事を訴えていた兵士だった。少し前まではリノに対して反感を抱いていたにも関わらず、今の兵士は家族を守るために命を捨てる覚悟を決めていた。
「この街が今日まで無事だったのはあんたのお陰だ……だから、これだけは言わせてくれ。ありがとう……王子様、あんたは良い人だ」
「あ、うっ……」
「俺からも言わせてくれ、最後に俺の愛する人を守れる機会をくれてありがとう」
「王子様も危なくなったら逃げてくれ……後の事は俺達に任せてくれよ」
続々と民兵がリノの元に集まり、自分達が死ぬ前に礼を告げる。そんな彼等に対してリノは涙を浮かべ、申し訳なさそうに告げる。
「すまない、本当にすまない……」
「何を謝ってんだよ。悪いのは王子様じゃないべ」
「そうだそうだ、あんたはよくやってくれたよ……俺達の事を見捨てないでくれてありがとよ」
「本当に、すまない……」
今までは騎士や正規の兵士と比べれば民兵はリノと距離を置いていたが、この作戦を告げられた時に彼女が街の住民の事をどれほど大切に思っているのかを思い知り、彼等はリノに心を許した。
これから死ぬかもしれないというのに民兵はリノの事を誰も責めず、むしろ愛する人が生き残る機会を与えてくれた事に感謝した。だが、その様子を遠目で見つめる人物がいた。
「…………」
屋根の上からリノの様子をシノビは長め、彼は意味深な表情を浮かべると黙ってその場を立ち去った――
――それから時は流れ、夕方を迎えてもゴブリンの軍勢は襲撃を仕掛けず、その間に着々と街の中では防衛網が築かれていた。街道には大量の家具が置かれ、更には建物を跳び越えてやってくる魔物の対策のために罠も設置する。
ホブゴブリンなどの魔物は身体能力が高いため、屋根を飛び移る事で封鎖した街道を無視して侵入する可能性を考慮し、街の中心部に存在する建物は事前に燃やす準備を行う。
今回の作戦はあくまでも住民全員が避難するまでの時間稼ぎであり、建物を燃やす事でゴブリンの軍勢の侵攻を食い止める。当然だが建物に火を放てば危険は増すが、炎を前に擦ればいかにゴブリンの軍勢だろうと怯むのは間違いない。
「大変な事になって来たな……イーシャンよ」
「ああ、お前もそろそろ逃げる準備をしたらどうだ?」
ナイの恩師であるドルトンは現在は屋敷のベッドで横たわり、彼は先日に街中に入り込んできたホブゴブリンに襲われ、負傷してしまった。現在はイーシャンの治療を受けており、左足が骨折して碌に動けない状態だった。
回復薬や薬草の予備がないため治療も順調とは言い難く、既にドルトンは死ぬ覚悟は決まっていた。リノの作戦では一般人を先に逃がす予定だが、足を負傷したドルトンでは逃げる時に足手まといになってしまう。
住民達が力を合わせて自分の指示通りに動く姿を見てリノは内心、涙を流したい気分だった。彼が考えた作戦は確かに大勢の住民を生かせる可能性があるが、同時に大勢の人間を確実に死なせてしまう策でもあった。
街中にゴブリンの軍勢を引き寄せるという事は、誰かが軍勢を食い止める必要があり、当然だがその役目は兵士が行う。兵士達はゴブリンの軍勢を足止めしている間に住民を下水道に逃がす必要があり、当然だが彼等だけは逃げる事は許されない。
もしも戦闘の際中に兵士が下水道に逃げ出したら、ゴブリンの軍勢にも下水道の存在が知られ、その場合は下水道に先に逃げた住民の命が危険に晒される。下水道までゴブリンの軍勢が追いかけてきた場合、戦う力を持たない街の住民は一方的に蹂躙されるだろう。
それを避けるためには地上で誰かがゴブリンの軍勢を注意を引く必要があり、その役目を担えるのは戦う力を持つ者だけである。つまり、地上の兵士がゴブリンの軍勢の囮役を担い、その間に街の住民だけは避難させる。
(他に方法はない……皆が生き残る方法などない)
リノとしてもこの作戦を思いついた時は実行するのに非常に悩んだ。しかし、もっと早く行動に移していれば被害を今よりも減らせたかもしれない。ゴブリンの軍勢が街から退去している間に街に防衛網を形成していれば、確実に被害を最小限に抑える事ができた。
(他に本当に方法なかったのか?今からでも作戦を立てなおすか?いや、そんな暇はもうない……やるしかないんだ!!)
自分を言い聞かせる様にリノは頭を抑え、その様子を見ていた民兵の一人が彼の元に近寄る。民兵は思い悩む表情を浮かべるリノに対し、はっきりと告げた。
「王子様、あんたは間違ってない」
「えっ……」
「俺には家族がいる、その家族を守れるのなら俺の命なんてくれてやる……あんたのお陰で家族が助かるんだ。なら、俺はあんたのする事が間違いだとは思わないよ」
リノに話しかけた民兵は昨日の時点では外に出る事を訴えていた兵士だった。少し前まではリノに対して反感を抱いていたにも関わらず、今の兵士は家族を守るために命を捨てる覚悟を決めていた。
「この街が今日まで無事だったのはあんたのお陰だ……だから、これだけは言わせてくれ。ありがとう……王子様、あんたは良い人だ」
「あ、うっ……」
「俺からも言わせてくれ、最後に俺の愛する人を守れる機会をくれてありがとう」
「王子様も危なくなったら逃げてくれ……後の事は俺達に任せてくれよ」
続々と民兵がリノの元に集まり、自分達が死ぬ前に礼を告げる。そんな彼等に対してリノは涙を浮かべ、申し訳なさそうに告げる。
「すまない、本当にすまない……」
「何を謝ってんだよ。悪いのは王子様じゃないべ」
「そうだそうだ、あんたはよくやってくれたよ……俺達の事を見捨てないでくれてありがとよ」
「本当に、すまない……」
今までは騎士や正規の兵士と比べれば民兵はリノと距離を置いていたが、この作戦を告げられた時に彼女が街の住民の事をどれほど大切に思っているのかを思い知り、彼等はリノに心を許した。
これから死ぬかもしれないというのに民兵はリノの事を誰も責めず、むしろ愛する人が生き残る機会を与えてくれた事に感謝した。だが、その様子を遠目で見つめる人物がいた。
「…………」
屋根の上からリノの様子をシノビは長め、彼は意味深な表情を浮かべると黙ってその場を立ち去った――
――それから時は流れ、夕方を迎えてもゴブリンの軍勢は襲撃を仕掛けず、その間に着々と街の中では防衛網が築かれていた。街道には大量の家具が置かれ、更には建物を跳び越えてやってくる魔物の対策のために罠も設置する。
ホブゴブリンなどの魔物は身体能力が高いため、屋根を飛び移る事で封鎖した街道を無視して侵入する可能性を考慮し、街の中心部に存在する建物は事前に燃やす準備を行う。
今回の作戦はあくまでも住民全員が避難するまでの時間稼ぎであり、建物を燃やす事でゴブリンの軍勢の侵攻を食い止める。当然だが建物に火を放てば危険は増すが、炎を前に擦ればいかにゴブリンの軍勢だろうと怯むのは間違いない。
「大変な事になって来たな……イーシャンよ」
「ああ、お前もそろそろ逃げる準備をしたらどうだ?」
ナイの恩師であるドルトンは現在は屋敷のベッドで横たわり、彼は先日に街中に入り込んできたホブゴブリンに襲われ、負傷してしまった。現在はイーシャンの治療を受けており、左足が骨折して碌に動けない状態だった。
回復薬や薬草の予備がないため治療も順調とは言い難く、既にドルトンは死ぬ覚悟は決まっていた。リノの作戦では一般人を先に逃がす予定だが、足を負傷したドルトンでは逃げる時に足手まといになってしまう。
10
お気に入りに追加
71
あなたにおすすめの小説

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!
カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!!
祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。
「よし、とりあえず叩いてみよう!!」
ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。
※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
魔王様は聖女の異世界アロママッサージがお気に入り★
唯緒シズサ
ファンタジー
「年をとったほうは殺せ」
女子高生と共に異世界に召喚された宇田麗良は「瘴気に侵される大地を癒す聖女についてきた邪魔な人間」として召喚主から殺されそうになる。
逃げる途中で瀕死の重傷を負ったレイラを助けたのは無表情で冷酷無慈悲な魔王だった。
レイラは魔王から自分の方に聖女の力がそなわっていることを教えられる。
聖女の力を魔王に貸し、瘴気の穴を浄化することを条件に元の世界に戻してもらう約束を交わす。
魔王ははっきりと言わないが、瘴気の穴をあけてまわっているのは魔女で、魔王と何か関係があるようだった。
ある日、瘴気と激務で疲れのたまっている魔王を「聖女の癒しの力」と「アロママッサージ」で癒す。
魔王はレイラの「アロママッサージ」の気持ちよさを非常に気に入り、毎夜、催促するように。
魔王の部下には毎夜、ベッドで「聖女が魔王を気持ちよくさせている」という噂も広がっているようで……魔王のお気に入りになっていくレイラは、元の世界に帰れるのか?
アロママッサージが得意な異世界から来た聖女と、マッサージで気持ちよくなっていく魔王の「健全な」恋愛物語です。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた
黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。
その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。
曖昧なのには理由があった。
『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。
どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。
※小説家になろうにも随時転載中。
レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。
それでも皆はレンが勇者だと思っていた。
突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。
はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。
ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。
※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる