貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第456話 船の見張り

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――その日の夜、ナイは船の見張りのためにヒナとモモと行動を共にしていた。ガオウは試合後に部屋に引きこもってしまい、ハマーンは船の整備を終えて疲れたのか眠ってしまった。

本来ならば船に乗っている間は団体行動を義務付けられているのだが、ガオウもハマーンも大分疲れた様子であり、ナイは船の見張りを行う際は他の人間と組んで見張りを行う事になった。そして雑用として船の仕事を手伝っていたヒナとモモも参加する。


「わあっ!!凄い綺麗な星空だよ!!」
「本当に綺麗ね……でも、少しはしゃぎすぎよ」
「ウォンッ」


甲板にてモモはビャクの背中の上で星空を眺め、王都で見える星空よりも綺麗で星の数も多かった。ナイ達は甲板の上から見張りを行い、不審者が忍び込もうとした利、あるいは船から去ろうとする人間がいないのかを見張る。

内通者の存在はアッシュは部下にも伏せており、ナイ達にも伝わっていない。しかし、彼は警戒態勢を高めて船に乗り込もうとする存在や、あるいは船から出て行こうとする存在を見つけた場合はすぐに知らせる様に厳命した。


(昨日よりも見張りが厳しくなっているな……きっと、何かあったんだろうな)


ナイ達にはまだ暗殺者達が死んだ事を伏せられており、暗殺者が死んだ事を知っているのは最初に発見した兵士とガオウとハマーンだけが目撃している。その後はアッシュも報告を受け、彼はドリスとリンとマホと彼女の弟子たちにだけ伝えた。

今回の一件はあくまでも王国関係者で重要な立場の人間にしか知らされておらず、アッシュは実の娘であるリーナにも隠していた。だからこそナイ達は暗殺者を始末し、空賊と繋がっている内通者の存在は知らされていないが、モモ以外の人間は隠し事をされている事に勘付いていた。


(今日は皆、表情が固かったな……きっと、何か気付いているんだ。でも、それを僕達に伝える事ができないんだ)


今日の間に出会った人物の中でナイは何人かが表情が固い事を見抜き、まるで何かを警戒している様子だった。ガオウもハマーンも表面上はナイに普通に接してきたが、何処となくだがナイは二人の態度がおかしい事に気付く。

この二人だけではなく、試合を見学していたリンの態度もおかしかった。リンはナイの事を内心では気に入っているため、普段ならばナイを見かけたら声を掛けてくる事が多かった。しかし、今回の彼女は試合を終えるとすぐに船に退散してしまい、ナイは話す暇もなかった。


(ヒイロやミイナはいつも通りだったけど、エルマさんはちょっと様子がおかしかったな。それにマホさんも見かけないし……)


ナイは船に乗った人間の中でも態度がおかしい者とそうでない者がいる事に気付き、いったい彼等が何を隠しているのか気になる。しかし、問い質そうにもそれが重大な秘密だとしたら聞きにくい。

仲間同士で隠し事などナイとしては心が落ち着かないが、きっとアッシュたちも何か考えがあって黙っているのだと信じ、見張りに集中する。


(明日にはイチノへ辿り着けるんだ……皆、待っててね)


ナイはイチノにいる大切な人たちの事を思い出し、必ず自分が助けに行く事を心の中で誓う。アルトに言われた通り、既にイチノが壊滅してドルトン達も死んでいる可能性もある。しかし、それでも少しでも可能性が残っているのならばナイは希望を捨てない。


(きっと、皆は大丈夫のはずだ。ドルトンさん達が死ぬはずがない……必ず皆を助けるぞ)


祈りを込める様にナイは夜空を見上げ、確かにモモの言う通りに美しい星空が広がっていた。こんな状況でもなければ美しい星空を眺めなければ心を落ち着かせる事が出来るのだが、ここでビャクが何かに気付いた様に鼻を鳴らす。


「スンスンッ……ウォンッ!?」
「わっ!?ビャク君、どうしたの?」
「クゥ~ンッ……」
「渋い表情を浮かべているわね……何か臭うのかしら?」
「ビャク、どうしたの?」


ビャクの反応に気付いたナイ達は不思議に思いながら周囲を見渡すと、ここで船の船首の方が明るい事に気付き、異臭が漂ってきた。ビャク以外の者も顔をしかめ、鼻を摘まむ。

船首で何者かが灯りを付けている事に気付いたナイ達は慌てて移動すると、そこには見覚えのある人物が存在した。それは薬品器具を床の上に並べ、歪な形をした仮面を装着したイリアの姿が存在した。


「ちょっ……イリアさん!?何をしているの、こんな場所で?」
『ん?ああ、すいませんね。ちょっと明日からは私も戦う事になりそうなので武器を作っていたんですよ』
「武器って……」
「えっ……ちょっと待って、それって私達が倉庫で見つけた物じゃないの!?」
「あ、本当だ!!」
「ウォンッ!?」


イリアの傍には暗殺者が持ち込んだ小包が存在し、その中身は火属性の魔石を粉状にまで磨り潰した代物が入っていた。イリアはこれを利用し、自分だけの武器を作ろうとしている事を説明する。
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