貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
464 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第451話 空賊の依頼者

しおりを挟む
(この男は間違いなく我々がここに居る事を把握していた……となると、何者かがこの男に船の位置を知らせたのか?という事は空賊と繋がる内通者がこの船の中に……!?)


アッシュは船内に空賊と繋がりを持つ者がいるのかと疑い、その何者かが昨日の内に空賊と何らかの方法で連絡を取り、居場所を知らせたのではないかと考える。これは只の直感に過ぎないが、アッシュはこの大男に依頼した存在が闇ギルド側の人間だとは思えない。


(闇ギルドがこの男に依頼して船を襲わせるにしてもいくらでも方法があっただろう。空を飛べるこいつらならば我々の邪魔を受ける事もなく、爆発物でも落として直接に船を攻撃できたはずだ。だが、こいつらは船に攻撃したのは最初だけ……飛行船自体は破損はない)


ヒッポグリフを従える空賊ならば加速する前の飛行船に追いつき、いくらでも飛行船を破壊する手段はあった。空から爆弾を落としたり、あるいは船その物をヒッポグリフで攻撃を仕掛ける事も不可能ではない。

襲撃の際も空賊たちはわざわざ甲板に居りており、もしも飛行船の墜落が目的ならば戦う必要もなく、最初から船を移動させる噴射口を破壊して飛べなくすればいいだけだった。しかし、空賊たちは何故か乗組員との戦闘に固執し、結果的には返り討ちに会う。


(こいつの行動は色々とおかしい……まさか、船の破壊が目的ではないのか?)


たった十数名の賊とヒッポグリフだけで王国の精鋭が集まっている飛行船を襲う事自体がおかしく、もしかしたら空賊の狙いは飛行船の破壊ではなく、ましてや飛行船を乗っ取るつもりでもない。考えられるとしたら船の進行を妨害するために送り込まれたのではないかとアッシュは考える。


「まさか、お前達の目的は我々をイチノへ向かわせないためか!?」
「っ……!?」


アッシュの質問にここで初めて大男は僅かに反応を示し、その態度を見てアッシュは動揺を隠せない。どうやら大男の目的は飛行船の破壊ではなく、飛行船がイチノへ向かう事を妨害するためだけに派遣されたらしい。

飛行船を破壊しなかったのは空賊の目的が飛行船ではなく、飛行船がイチノへ向かう事を止めるためだとしたら、空賊に依頼した人間の目的はイチノで救援を待つ第二王子リノである可能性が高い。


(我々をイチノへ向かわせず、王子の救援を邪魔するつもりか……!?)


今回の飛行船の遠征は第二王子リノの救出のためであり、もしも何者かがリノの救出を拒むために空賊に依頼したというのであれば、それはリノの事を快く思わない輩の仕業となる。アッシュは大男の首を掴み、怒鳴り声をあげる。


「答えろ!!誰だ、貴様に依頼した人間は!?」
「……答えるつもりはない」
「貴様……!?」


大男の言葉にアッシュは激怒するが、ここで彼の顔色が徐々に青くなっている事に気付き、異変を察知したアッシュは彼を地面に下ろす。


「お前、その顔色は……!?」
「ぐふっ……がはぁっ!?」
「なっ!?」


大男は口元から大量の血を吐き出し、明らかに普通の状態ではなかった。どうやら遅行性の毒を事前に身体に仕込んでいたらしく、彼は血を吐きながら倒れ込む。

アッシュはすぐに大男の身体に触れるが、既に体温は低く、この状態ではもう助からない。仮に回復魔法を施しても毒物の類はどうしようも出来ず、治す事はできない。


「よく、覚えておけ……お前達の敵は……王国の闇だ」
「なんだと……それはどういう意味だ!?」
「ぐふっ……」


最後に大男は言い残すと、事切れたのか白目を剥いて動かなくなった。アッシュは大男を下ろして歯を食いしばる――





――同時刻、船の中ではハマーンが整備を行う際中、事前に捕まえた暗殺者4人の部屋を通り過ぎる。だが、ここで彼は部屋の中から悲鳴を耳にした。


『ぎゃあああっ!?』
「何っ!?」


部屋の中で聞こえてきた声にハマーンは咄嗟に扉を開くと、そこには兵士とガオウの姿が存在し、彼等の前には血を吐いて倒れる暗殺者達の姿が存在した。


「ガオウ、これは何事じゃ!?」
「爺さんか……見ての通りだ、こいつら自決しやがった」
「な、何じゃと!?」
「この部屋を通る時に妙に静かだったんでな……中を確認してみたらこの有様だ」


ガオウの言葉を聞いてハマーンは4人の死体を調べ、既に身体は冷たくて口元の血も固まっていた。どうやら既に死亡してからそれなりの時間が経過しており、恐らくは自決したのだろう。

見張りを行っていた兵士は腰を抜かしており、部屋を通り抜けようとしたガオウは獣人族だったので部屋の異変に気付く事が出来た。見張っていた兵士は死んでいる事に全く気づかなかった様子であり、彼は身体を震わせる――





「――老師、大丈夫ですか?」
「むっ……ああ、少し眠っていたようじゃ」


飛行船の甲板にてマホは弟子であるエルマに声を掛けられ、自分が意識を失っていた事を知る。エルマはそんな彼女を心配するように見つめ、そんな弟子を見てマホは苦笑いを浮かべた。


「儂なら大丈夫じゃよ、そう心配する出ない」
「嘘です……やはり、魔力を完全には取り戻されていないのですね」
「いや、そんな事は……」
「老師、私に嘘を吐かないでください」


エルマの言葉にマホは言い返せず、師としては弟子に弱みを見せたくはない気持ちはあるが、この調子だといずれ大変な事態に陥る可能性を考慮して真実を話す。


「体調自体は前と比べれば良くなってきたが、それでも時々こうして意識を失う時がある。魔力は大分戻ってはきたが、この調子では広域魔法を発動させるのも難しいかもしれん」
「老師、やはり老師は王都に残るべきでした……」
「そういうわけにはいかん。マジクがいなくなった以上、奴の代わりを果たせるのは儂だけ……この役目は儂以外には果たせん」


未だにマホはグマグ火山から帰還する際、魔力を使い果たした影響で体調は完全には戻っておらず、本来ならば安静にしなければならない状態である。

しかし、第二王子の危機とあれば魔導士である彼女が何もしないわけにはいかず、マジクの代わりとして彼女は彼の分も役に立たなければならなかった。しかし、現在の状態ではまともに魔法を使えるのかも怪しい。

空賊が襲撃した時に真っ先に対抗しなければならなかったのはマホであり、彼女の風属性の魔法ならば空賊など簡単に蹴散らす事が出来た。しかし、マホが動けなかったのは彼女が意識を失っていたからであり、エルマもゴンザレスも彼女の傍から離れられずに行動する事が出来なかった。


「そういえばゴンザレスは何処におる?先ほどまでここに居たはずだが……」
「ゴンザレスなら少し前に外へ出向き、老師のために肉を取ってくると言っていました。肉を食べて精を付けて元気になってほしいと……」
「むう、老体の儂に肉料理は少々きついが……しかし、その気持ちは有難いのう」
「老師、もうお休みください。見張りならば私が代わりを……」
「そうじゃな……ここは弟子たちに甘えるとするか。儂も心強い弟子を持って嬉しいぞ」


マホはエルマとゴンザレスに船の事を任せ、一足先に身体を休める事にした。その様子をエルマは心配そうに見送り、それでも彼女の代わりに船の見張りを行う。

エルマはマホが心配しているのは内通者の存在だと気付いており、既にアッシュからマホは「王国の闇」と繋がりを持つ存在が居るという話を聞いている。この王国の闇とはどういう意味なのかはエルマも知らされていないが、少なくとも闇ギルドの存在ではない。


(王国の闇……王国という事は、まさか王都内部の人間が……?)


今回の空賊の襲撃は闇ギルドが仕掛けたとは思えず、そもそも闇ギルドの目的は船の爆破であり、空賊たちの場合は船を攻撃はしたが破壊を試みる様子はなかった。

考えられるとしたら空賊は闇ギルドとは別の存在が動かし、捕まえた暗殺者達も死んだのは彼等が自害したのではなく、自害に見せかけて何者かに殺された可能性が高い。


(まさか今もこの船に裏切り者が……?)


エルマは船内に未だに闇ギルドとは違う存在と繋がっている「裏切り者」が紛れ込んでいるのではないかと考え、恐らくは相当な実力者であり、もしかしたら自分の知っている人物かもしれないと思うと、彼女は不安でどうしても落ち着く事が出来なかった――
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

ユーヤのお気楽異世界転移

暇野無学
ファンタジー
 死因は神様の当て逃げです!  地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした

高鉢 健太
ファンタジー
 ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。  ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。  もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。  とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

処理中です...