貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
450 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第438話 侵入者対策

しおりを挟む
「今更王都に戻る時間はない。だからといって、今回降りる場所は人里から離れた湖……二人を下ろして適当な街まで送り届けて王都に帰させる事もできん。今回の遠征が終わるまでの間、罰も兼ねて二人とも船の雑用を手伝って貰う。それで今回の件は見逃そう」
「あ、ありがとうございます!!」
「ごめんなさい、でも掃除も料理も得意だから頑張ります!!」
「うむ、ちゃんと仕事をすればテンの方も私が話を通してあまり怒らない様に説得しよう」
「良かったね、二人とも!!」
「全く、心配かけさせないでください……」
「二人も一緒で嬉しい」
「ほっ……良かった」


ヒナとモモの同行をアッシュは認めてくれた事に他の者も安心するが、あまり喜んでばかりはいられない。問題なのは捕まえた闇ギルドの暗殺者達であり、船の爆破などとんでもない事を計画していた。


「それにしても飛行船を狙うとは……闇ギルドの奴等も考えたのう。移動中に船が爆発すれば我等は助からんかった」
「奴等が持ち込んだ火属性の粉末は全て回収しています。しかし、他に奴等の仲間がいる可能性もあるので既にドリスとリンに命じて船内を捜索させています。乗組員も念のために全員確認しておきましょう」
「一流の暗殺者は「変装」の技能を利用して本物そっくりに化け、演じる事で他人の油断を誘い、敵を仕留める者もいると聞く……これからは船員は常に他の者と一緒に行動させた方がいいかもしれん」
「一緒に行動……あ、そういう事ならナイ君は僕と一緒に居ようよ」
「えっ……リーナと?」
「えっ!?」


リーナの何気ない言葉にモモは反応し、他の者も意外に思う。アッシュは娘がナイと行動を共にしたがる事に疑問を抱く。


「リーナ、どうしてナイ君と行動を共にしようとするんだ?」
「だって、ナイ君とは二人きりで一緒にしたい事が色々とあるからさ」
「ふ、二人きり!?それってどういう意味!?」
「モモ、落ち着きなさい!!」
「おおっ……意外と大胆」
「あ、あのリーナさんがナイさんと……!?」


モモはリーナの発言を聞いて焦りのあまりに彼女に詰め寄ろうとするが、ヒナがそれを抑え込む。一方でミイナは興味深そうな表情を浮かべ、ヒイロも意外そうな表情を浮かべる。

当のナイ本人は別にリーナと行動を共にする事は問題はなく、それにマホの言う通りに船内にまだ暗殺者が忍び込んでいるのならば、誰かと行動を共にしておいた方が良い。


「そういう事なら私はヒイロの面倒を見て置く」
「面倒とは何ですか!?では、私がミイナを世話するので他の方はご安心ください!!」
「私はモモと一緒にいればいいのかしら……」
「え~!?私もナイ君と一緒に……」
「雑用の仕事を頼まれたの忘れたの!?ナイ君に迷惑をかけちゃうでしょうが!!」
「ううっ……ごめんなさい」
「儂は弟子たちと行動を共にしておる。アッシュ、お主も気を付けるのじゃぞ」
「大丈夫です、私はここへ残っていますので……ドリスとリンにも連絡を伝えて貰えますか?」
「うむ、良かろう」


ナイ達は闇ギルドの侵入者が他に居る事を警戒し、仮に敵が外見を他人に化ける「変装」などの技能を利用していた場合、知り合いと常に行動しておく事を乗組員に通達する――




――それからしばらく時間が経過すると、遂に飛行船は本日の目的地に辿り着く。場所は周囲が木々に囲まれた湖であり、上から覗き込むと綺麗に円形の形をした湖だった。

この湖の名前は「リュウ湖」と呼ばれ、この湖が誕生した理由は遥か昔、ここで二頭の竜種が争いの末に出来上がったという。二頭の竜は地形が変動する程の激しい戦闘を繰り広げ、そして片方の竜種が勝利した時、偶然なのか巨大な穴が出来上がっていた。

勝利した竜種はその地を去ったが、残されたもう片方の竜種は敗北後、地面の中に埋もれて消えたという。それから何十年の月日が経過すると、穴は何時の間にか湖のように変化していたと伝えられている。

この伝承が真実なのかは不明だが、リュウ湖は森の中に存在する湖であり、この場所ならば他の魔物に襲われる心配は低い。湖の中心に船を下ろせば岸辺の魔物も迂闊に近づかず、この湖には人を襲うような魔物は生息していない事は調査済みだった。


「よし、着水するぞ!!」
「おうよっ!!」


飛行船が湖の上空へと辿り着くと、舵を取っていたハマーンは水晶玉を操作し、船の後方の噴射口から放出していた火属性の魔力を停止させる。その後はゆっくりと船は地上へ向けて降下し、無事に着水は成功した。

朝早くに出発したのでまら時刻は昼を迎えてはいないが、今回の飛行船の移動はここまでだった。この後は船の整備と魔石の取り換えを行わなければならず、ハマーンは弟子たちを引き連れて行動を開始する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

白の魔女の世界救済譚

月乃彰
ファンタジー
 ※当作品は「小説家になろう」と「カクヨム」にも投稿されています。  白の魔女、エスト。彼女はその六百年間、『欲望』を叶えるべく過ごしていた。  しかしある日、700年前、大陸の中央部の国々を滅ぼしたとされる黒の魔女が復活した報せを聞き、エストは自らの『欲望』のため、黒の魔女を打倒することを決意した。  そしてそんな時、ウェレール王国は異世界人の召喚を行おうとしていた。黒の魔女であれば、他者の支配など簡単ということを知らずに──。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

(完結)魔王討伐後にパーティー追放されたFランク魔法剣士は、超レア能力【全スキル】を覚えてゲスすぎる勇者達をザマアしつつ世界を救います

しまうま弁当
ファンタジー
魔王討伐直後にクリードは勇者ライオスからパーティーから出て行けといわれるのだった。クリードはパーティー内ではつねにFランクと呼ばれ戦闘にも参加させてもらえず場美雑言は当たり前でクリードはもう勇者パーティーから出て行きたいと常々考えていたので、いい機会だと思って出て行く事にした。だがラストダンジョンから脱出に必要なリアーの羽はライオス達は分けてくれなかったので、仕方なく一階層づつ上っていく事を決めたのだった。だがなぜか後ろから勇者パーティー内で唯一のヒロインであるミリーが追いかけてきて一緒に脱出しようと言ってくれたのだった。切羽詰まっていると感じたクリードはミリーと一緒に脱出を図ろうとするが、後ろから追いかけてきたメンバーに石にされてしまったのだった。

野生児少女の生存日記

花見酒
ファンタジー
とある村に住んでいた少女、とある鑑定式にて自身の適性が無属性だった事で危険な森に置き去りにされ、その森で生き延びた少女の物語

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

処理中です...