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ゴブリンキングの脅威
第426話 イリアの育て親
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「私は王妃様とは面識がありません、どんな人だったのかも分かりません。ですけど、死んだ人を理由にして責任から逃れようとする人は嫌いですよ」
「何だと!?」
「えっ……?」
イリアの言葉にテンだけではなく、ナイも反応した。何故かイリアの話を聞かなければならないと思い、彼女に説明を促す。
「それは……どういう意味?」
「言葉通りの意味ですよ。テン指導官は王妃様が死んだから聖女騎士団は解散するしかなかったと思い込んでいるようですけど、そもそもの話ですが死んだ王妃様は聖女騎士団が解散する事を喜ぶと思いますか?」
「ぐっ……」
「それは……」
王妃の事を知っているのは聖女騎士団に所属していたテンとエルマであり、二人が知っている王妃ならばかりに死なずに生きていたとしたら、聖女騎士団を解散させるなど有り得ない。
「私は王妃様と実際に会った事はありませんけど、色々な人から話はよく聞いています。王妃でありながら破天荒で偶にとんでもない事を仕出かすお人だと……」
「……それは否定できないね」
「え、ええ……」
テンもエルマも微妙な表情を浮かべてイリアの話を否定できず、その態度を見て王妃がどんな人物なのかとナイ達は思うが、イリアが言いたいのは王妃が聖女騎士団の事を心の底から愛していたという事だ。
「王妃様は結婚して子供が生まれた後も聖女騎士団の団長の務めを果たしていたそうですね。それは王妃様が聖女騎士団の事を愛し、団員である貴女達を心の底から信頼していたんでしょう」
「回りくどいね、何が言いたいんだい?」
「では、はっきりと言わせてもらいますが王妃様が大切にしていた聖女騎士団を解散させて貴方達は本当に納得しているんですか?誰かが王妃様の代わりに聖女騎士団を守ろうとは思わなかったんですか?」
「そ、それは……」
「答えは簡単です。貴方達は逃げてしまった……死んだ人のせいにして」
「逃げた……」
イリアの言葉に衝撃を受けたのはテンとエルマだけではなく、ナイも同じだった。彼女の言葉は深くナイの胸に突き刺さる。
――赤毛熊を倒した後、ナイは村に戻った時は村人達は全員が魔物に殺され、ナイは自分の居場所を失ってしまった。自暴自棄になったナイは何もかもが嫌になってしまい、陽光教会の元へ訪れて自分の人生を他人に任せようとした。
もしもナイを保護してくれたヨウがイチノの教会に置いてくれなかった場合、ナイは別の教会へと送り込まれて隔離されていただろう。その場合、彼の人生は大きく変わっていた。きっと、生涯他人と殆ど接する機会もなく生き続ける事になるだろう。
イリアの言葉を聞いてナイはあの時に全てを失ったと思い込み、もう何もかも嫌になって逃げようとしていただけかもしれない。そしてテンも死んだ王妃を理由にして自分達の居場所であった聖女騎士団を捨てたのだ。
「聖女騎士団を捨てた後、貴女達は新しい居場所を見つける事が出来ました。でも、他の人の事は考えなかったんですか?」
「他の奴等だと?」
「聖女騎士団が無くなった後、多くの団員がこの地を去りました。その内の一人は私の育て親です」
「えっ……そうだったの?」
「はい、私は子供の頃に孤児院の前で捨てられていました。孤児院で育てられていた私を引き取ってくれたのが聖女騎士団に所属していたアリシアという名前の女性です」
「アリシア!?あのアリシアかい?」
どうやらテンはアリシアという女性の事を知っているらしく、元々は同じ騎士団に所属していたのだから顔見知りでもおかしくはない。だが、テンが知る限りではアリシアという女性は孤児院で子供を引き取って育てるような人物ではなかった。
「信じられないね、あのアリシアが子供を引き取るなんて……」
「なんでも死んだ妹さんと私が良く似ていたから放っておけなかったそうです。アリシアは私を拾った後、聖女騎士団で稼いでいたお金で家を買いました」
「アリシアは元気にしていますか?あまり、噂は聞きませんが……」
「今でも元気ですよ。傭兵団を結成して今でも手紙のやり取りを行っています……でも、アリシアはよく私に言ってましたよ。聖女騎士団に戻りたいとね」
「……あいつ、まだそんな事を言ってるのかい」
アリシアの話を出すとテンはばつが悪そうな表情を浮かべ、エルマも顔を逸らす。アリシアに育てられたイリアは彼女が今までどんな思いをしてきたのかを語る。
「アリシアは聖女騎士団が無くなった後、旅に出ました。その旅の途中で私を見つけ、育ててくれました。アリシアが旅に出ていた理由は新しい自分の居場所を探すためです。そして彼女はある街に辿り着き、家を買った後に傭兵団を結成しました。傭兵団の仲間の中には他の聖女騎士団の団員もいましたよ」
「あいつ、傭兵団なんて作ったのかい」
「アリシアは自分で新しい居場所を作ろうとしたんですよ。でも、結局は満足できなかったんでしょうね。酒に酔っ払った時はよく聖女騎士団の事を懐かしがっていました」
「アリシア……」
テンとエルマからすればアリシアは昔の仲間であり、彼女が聖女騎士団の事を今でも忘れずにいる事に複雑に思う。
「何だと!?」
「えっ……?」
イリアの言葉にテンだけではなく、ナイも反応した。何故かイリアの話を聞かなければならないと思い、彼女に説明を促す。
「それは……どういう意味?」
「言葉通りの意味ですよ。テン指導官は王妃様が死んだから聖女騎士団は解散するしかなかったと思い込んでいるようですけど、そもそもの話ですが死んだ王妃様は聖女騎士団が解散する事を喜ぶと思いますか?」
「ぐっ……」
「それは……」
王妃の事を知っているのは聖女騎士団に所属していたテンとエルマであり、二人が知っている王妃ならばかりに死なずに生きていたとしたら、聖女騎士団を解散させるなど有り得ない。
「私は王妃様と実際に会った事はありませんけど、色々な人から話はよく聞いています。王妃でありながら破天荒で偶にとんでもない事を仕出かすお人だと……」
「……それは否定できないね」
「え、ええ……」
テンもエルマも微妙な表情を浮かべてイリアの話を否定できず、その態度を見て王妃がどんな人物なのかとナイ達は思うが、イリアが言いたいのは王妃が聖女騎士団の事を心の底から愛していたという事だ。
「王妃様は結婚して子供が生まれた後も聖女騎士団の団長の務めを果たしていたそうですね。それは王妃様が聖女騎士団の事を愛し、団員である貴女達を心の底から信頼していたんでしょう」
「回りくどいね、何が言いたいんだい?」
「では、はっきりと言わせてもらいますが王妃様が大切にしていた聖女騎士団を解散させて貴方達は本当に納得しているんですか?誰かが王妃様の代わりに聖女騎士団を守ろうとは思わなかったんですか?」
「そ、それは……」
「答えは簡単です。貴方達は逃げてしまった……死んだ人のせいにして」
「逃げた……」
イリアの言葉に衝撃を受けたのはテンとエルマだけではなく、ナイも同じだった。彼女の言葉は深くナイの胸に突き刺さる。
――赤毛熊を倒した後、ナイは村に戻った時は村人達は全員が魔物に殺され、ナイは自分の居場所を失ってしまった。自暴自棄になったナイは何もかもが嫌になってしまい、陽光教会の元へ訪れて自分の人生を他人に任せようとした。
もしもナイを保護してくれたヨウがイチノの教会に置いてくれなかった場合、ナイは別の教会へと送り込まれて隔離されていただろう。その場合、彼の人生は大きく変わっていた。きっと、生涯他人と殆ど接する機会もなく生き続ける事になるだろう。
イリアの言葉を聞いてナイはあの時に全てを失ったと思い込み、もう何もかも嫌になって逃げようとしていただけかもしれない。そしてテンも死んだ王妃を理由にして自分達の居場所であった聖女騎士団を捨てたのだ。
「聖女騎士団を捨てた後、貴女達は新しい居場所を見つける事が出来ました。でも、他の人の事は考えなかったんですか?」
「他の奴等だと?」
「聖女騎士団が無くなった後、多くの団員がこの地を去りました。その内の一人は私の育て親です」
「えっ……そうだったの?」
「はい、私は子供の頃に孤児院の前で捨てられていました。孤児院で育てられていた私を引き取ってくれたのが聖女騎士団に所属していたアリシアという名前の女性です」
「アリシア!?あのアリシアかい?」
どうやらテンはアリシアという女性の事を知っているらしく、元々は同じ騎士団に所属していたのだから顔見知りでもおかしくはない。だが、テンが知る限りではアリシアという女性は孤児院で子供を引き取って育てるような人物ではなかった。
「信じられないね、あのアリシアが子供を引き取るなんて……」
「なんでも死んだ妹さんと私が良く似ていたから放っておけなかったそうです。アリシアは私を拾った後、聖女騎士団で稼いでいたお金で家を買いました」
「アリシアは元気にしていますか?あまり、噂は聞きませんが……」
「今でも元気ですよ。傭兵団を結成して今でも手紙のやり取りを行っています……でも、アリシアはよく私に言ってましたよ。聖女騎士団に戻りたいとね」
「……あいつ、まだそんな事を言ってるのかい」
アリシアの話を出すとテンはばつが悪そうな表情を浮かべ、エルマも顔を逸らす。アリシアに育てられたイリアは彼女が今までどんな思いをしてきたのかを語る。
「アリシアは聖女騎士団が無くなった後、旅に出ました。その旅の途中で私を見つけ、育ててくれました。アリシアが旅に出ていた理由は新しい自分の居場所を探すためです。そして彼女はある街に辿り着き、家を買った後に傭兵団を結成しました。傭兵団の仲間の中には他の聖女騎士団の団員もいましたよ」
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「アリシアは自分で新しい居場所を作ろうとしたんですよ。でも、結局は満足できなかったんでしょうね。酒に酔っ払った時はよく聖女騎士団の事を懐かしがっていました」
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