貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
437 / 1,110
ゴブリンキングの脅威

第425話 戦力過多

しおりを挟む
「話が脱線しましたね、さっきはマホ魔導士が王都に残れば安心できると言いましたが、やはり飛行船を動かす以上はマホ魔導士も同行してくれないと不安がありますね。でも、他に説得できる人なんていませんしね……」
「王都に残った戦力で一番力になりそうなのは……バッシュ王子ぐらいかい」
「この国最強の猛虎騎士団も現在は北の国境から離れられませんしね。かといって我が国の将軍達は頼りにならないし……うちの国の弱点は騎士が強すぎて将軍達の影が薄い事ですね」


王国にも一応は将軍職の人間は存在するが、この国では王国騎士の方が権力を有しており、実際に国王が一番に信頼しているのは騎士達である。

この国の大将軍は猛虎騎士団の団長が務めており、彼は騎士と将軍を兼任している。しかし、他の将軍達では王都の守護は任せるには力不足であり、やはり遠征するとなると不安は残る。そこでイリアはテンに提案を行う。


「やっぱり、ここはテン指導官が現役に復帰して王都に残るのはどうですか?未だにテン指導官の名声は有名ですし、それなら王都の悪党どもも何も出来ませんよ」
「……嫌だね、あたしはもう王国騎士に戻るつもりはないよ」
「どうしてですか?テン指導官の功績を考えれば騎士団を設立する事だって許されますよ」



聖女騎士団の副団長であったテンは数々の功績を残しており、国王からの信頼も厚い。現役の王国騎士達よりも国王は彼女の事を信頼している節もあり、そうでもなければ既に半ば引退しているテンを協力者という名目で任務に同行させるはずがない。

だが、テンは王国騎士に戻るつもりはなく、仮に騎士団の設立を許されたとしても彼女は騎士に戻る事はないと告げた。


「聖女騎士団がまだ健在だったのならあたしだって喜んで騎士に戻るけどね、もう聖女騎士団は存在しない。だからあたしは騎士に戻るつもりはない」
「それはおかしいですね、聖女騎士団が自分の居場所だと言い張るつもりなら、どうして貴方は聖女騎士団を解散させたんですか?」
「えっ……解散?」
「……小娘、あんまり調子に乗るんじゃないよ」


解散という言葉にナイはどういう意味なのかとイリアに尋ねる前にテンが彼女を睨みつけ、今にも胸倉を掴みかからない迫力を放つ。しかし、イリアは臆さずに彼女が聖女騎士団を解散させる原因を作った事を指摘する。


「王妃様の亡きあと、国王様は聖女騎士団を貴女に任せるつもりだったはずです。それなのに貴女はそれを拒否して聖女騎士団を解散させ、自分は騎士を辞めて白猫亭の主人の跡を継いだ……つまり、聖女騎士団を解散させたのは貴女じゃないですか」
「はんっ、聖女騎士団は王妃様が団長だからこそ成り立つんだ!!あたしが団長に就いたところで他の奴等は誰も納得するはずがない!!あの騎士団に集まった連中は王妃様だからこそ従っていたんだ、何も知らない小娘が偉そうに語るんじゃないよ!!」
「きゃっ!?」
「テ、テンさん!?」
「お、落ちついて下さい!!」


イリアの言葉にテンは怒鳴り散らし、彼女は壁に向けて拳をめり込ませる。その際に壁に亀裂が走り、テンの拳に血が滲んだのを見て慌てて他の者達が落ち着かせようとした。


「なるほど、噂通りの人ですね。貴方が忠誠を誓う相手は国王様ではなく、王妃様ですか……」
「荒くれ者だったあたし達を受け入れ、立派な騎士にまでしてくれたのは王妃様だ。その王妃様がもういなくなった以上、あたし達は騎士に拘り続ける理由なんてなくなったんだよ……聖女騎士団は王妃様の騎士団だ、だからあたしはあの騎士団を解散させた。例え、それが自分の居場所を捨てる事になったとしても王妃様以外の人間があの騎士団を纏める事が我慢ならなかったのさ」


テンは自分が団長の座を継ぐ事を承諾しなくても他の人間が団長の座に就く事を恐れ、半ば無理やり聖女騎士団を解散させた事を告げる。当時所属していた団員達も彼女の意見に賛同し、騎士団は解散した。

結果から言えば当時は王国最強と謳われた騎士団は王妃が団長を務めていたからこそ成り立ち、彼女が死んだ時点で聖女騎士団は存在価値を失い、解散するしかなかった。だが、イリアは本当にテンがそれだけの理由で騎士団を解散させたのかを問い質す。


「理由はそれだけですか?聖女騎士団をまとめる事ができるのは王妃様だけ、だから解散した……それだけが理由じゃないはずです」
「……何が言いたいんだい」
「貴女は逃げたんでしょう。王妃様がいない騎士団に居る事が耐え切れなくて逃げてしまった。そして今でもそれを後悔している……そうでもなければ未練がましく未だに王国騎士や兵士の指導官なんて立場に就く必要はありませんよ」
「あんたね……!!」
「テン指導官、落ち着いて!!イリアも煽るような言葉は止めるんだ!!」


話を聞いていたアルトが間に割って入り、そうでもしなければテンはイリアに殴り掛かる勢いだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...