貧弱の英雄

カタナヅキ

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ゴブリンキングの脅威

第424話 マホが魔導士になった出来事

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「まあ、そんな小僧の話はどうでもいいんです。それよりも気になるのはマホ魔導士の事ですね」
「マホ魔導士がどうかしたのかい?」
「何か気になる事があるのか?」
「ええ、気になるというかマホ魔導士は今回の遠征に付いてくるのかですよ」
「それは……どういう意味だい?」


イリアの言葉に他の全員が不思議に思うと、彼女は今回の遠征のために集められた戦力を指摘し、このままでは王都の守備が危うくなることを伝える。


「今回の遠征の軍の指揮を執るのはアッシュ公爵です。公爵の実績と実力を考えれば打倒な判断ですね。ですけど、今回の遠征のためにわざわざ王国騎士の副団長達やマホ魔導士まで同行した場合、この王都の戦力はかなり落ちます」
「だろうね……マジク魔導士も亡くなったばかり、もしもあたし達が遠征軍に参加したら王都の守備はかなり低下するね」
「そういう事です。はっきり言っていくら第二王子を救い出すためとはいえ、戦力が偏り過ぎています。もしも私達が離れている時に何か急変が起きたら対処できるのかが問題なんです」


三人しかいなかった魔導士は既に二人しか残っておらず、その二人も遠征軍に参加する事になると王都の守備がおろそかになってしまう。できる事ならば副団長のドリスかリンのどちらかが残ればいいのだが、二人とも今回の遠征はどうしても参加するつもりらしい。

先の火竜とゴーレムキングの討伐の際に二人は思いもよらぬ形で途中離脱してしまい、二人は名誉挽回のためにどうしても功績を上げたかった。だからこそ今回の遠征には二人とも参加するのだが、その場合だと王都の守備がおろそかになってしまう。


「私としてはマホ魔導士が残ればこの王都も安全だと思いますけどね……名ばかり魔導士の私が残るよりも」
「名ばかり……魔導士?」
「私の渾名ですよ。魔導士の癖に戦闘能力が低いから名ばかり魔導士などという不名誉な渾名を名付けられました」
「ひ、酷い……可哀想」
「まあ、別に私としてはどうでもいいんですけどね」


イリアは「名ばかり魔導士」という不名誉な渾名を名付けられており、その由来は彼女が三人の魔導士の中で戦力になり得ないからである。功績も実力も他の二人には及ばず、だからこそ彼女は他の二人と違って侮られている。

最もイリア本人は自分が何と言われようと気にせず、魔導士の位に関しても色々と優遇されるという理由で就いているだけに過ぎず、他人から何と言われようと気にしていない様子だった。


「王都の守備が下がるのは実際にまずい事ですし、ここは誰かが残る必要があると思うんですよ」
「あたしは残らないよ。第二王子を放ってはおけないしね」
「ドリス副団長とリン副団長も同じことを言うでしょうね……ここは一番話が分かるマホ魔導士を説得するのが得策なんでしょうけど、マホ魔導士がいないとなるといざという時に大変な事になりかねませんね」
「大変な事?」
「飛行船を動かす時、風属性の魔法が使える人間がいるのといないので安全性が大きく違うんですよ」
「え?どうして?」


イリアの言葉にナイは不思議に思い、どうして飛行船が飛ぶ時に風属性の系統の魔法を得意とする魔術師がいるかどうかで安全性が向上するのかを尋ねる。


「単純に飛行船の動力は風属性の魔石です。飛行船は風の力を利用して浮き上がり、空を移動します。ですが、不慮の事態で風属性の魔石が誤作動で動かなくなった場合は誰が対処する事になると思いますか?」
「それは……あっ」
「そうです、風属性の広域魔法を扱えるのは王国内ではマホ魔導士だけなんです。マホ魔導士の力なら飛行船が落下しても風属性の魔法で対処できるかもしれません。実際、数十年前に墜落しかけた飛行船を救ったのもマホ魔導士だと聞いていますよ」
「それは……事実です。まだ老師が魔導士になる前、墜落仕掛けた飛行船を広域魔法で落下速度を落とし、無事に着地させた事があります。その功績を認められて老師は魔導士になりました」
「ええ~!?」
「その話は僕も父上から聞いた事がある。まさか、本当だったとは……」


まだマホが魔導士の座に就く前、彼女は落下する飛行船を風属性の魔法で救った場面をエルマは確認しているという。彼女は何十年もマホに付き添い、当時も彼女の傍に存在した。

墜落する飛行船を風属性の魔法で無事に着陸させるなど、王国内の風属性の魔法の使い手の中ではマホだけだった。そもそも彼女以外の風属性の魔法の使い手でも落下する飛行船を抑えきれる者など、世界中を探しても他にはいるかも怪しい。

単純な攻撃威力は雷属性を得意とするマジクが優れていると思われるが、マホの場合は風属性の特性を生かし、様々な状況にも対応できる。仮にマジクでも落下する飛行船を止める事は不可能であり、彼女もまた優秀な魔術師である事は間違いなかった。
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