貧弱の英雄

ゴブリンキングの脅威

第411話 闘拳の強化

「これで全ての属性の魔法剣は確認できたね。なら、専門家の意見を聞かせて貰おうか」
「ううむ……儂はこれまでに様々な魔法剣を見てきたが、こんな魔法剣を見るのは初めてじゃ」
「それは……何も分からないという事？」
「たわけっ！！儂を誰だと思っておるっ！！」
「ひうっ！？」


ハマーンはナイの旋斧に視線を向け、色々と考え込むように腕を組む。王国一の鍛冶師ならば旋斧の正体を見極めることもできるのかとナイ達は期待するが、ばつが悪そうな表情を浮かべてハマーンは首を振る。


「……いや、すまん。こんな魔剣はやはり見た事も聞いた事もない。一度、分解して調べてみればなにか分かるかもしれんが……」
「や、止めてください！！爺ちゃんの形見なんですよ！？」
「じょ、冗談じゃ！！だいたい、分解しようにも簡単に壊れる代物ではなさそうだからな……」


旋斧は非常に頑丈であり、ナイが二年間も岩石を叩き続けても刃毀れを起こす程度だった。しかも自動で修復する機能も備わっており、何もしていないのに勝手に刃は直っていた。

ハマーンですらも旋斧の正体は掴めず、今の所は判明しているのは敵を倒す事に生命力を奪い、強大な敵を倒す度に進化を遂げる。この旋斧で強敵を屠り続ければどんどんと強くなるという事だけだった。


「この魔剣はまるで生きておる。敵を倒せば倒す程に強くなる魔剣など聞いた事もない……この旋斧を作り出したのは相当に腕利きの鍛冶師じゃろう。いったい何者が作ったのか教えてくれるか？」
「爺ちゃんの家に伝わる家宝だそうですけど……詳しい事はよく知らないそうです」
「そうか……それは残念だ」


旋斧を作り出した人物にハマーンは興味を示すが、ナイはその辺の話はアルから聞いていない。彼が生きていれば何か聞き出せたかもしれないが、今となっては旋斧に詳しい人間はいない。


「ふむ、これほどの武器が無名とは思いにくいが……儂の方で色々と調べてみよう。ついでに他の装備を見せてくれんか？」
「え？」
「火竜との戦闘でお主も大分酷い怪我を負ったと聞いておる。装備品の方も無事ではないのではないか？」
「あ、はい……お願いしていいですか？」
「ついでにあたしの武器も見てくれるかい？」


ハマーンの言葉にナイは自分が身に着けている装備品を渡し、この際にテンも退魔刀を見てもらう。全員が工房の方へと戻ると、ハマーンは最初にナイの装備品を確認して眉をしかめる。


「こいつはまた、随分とボロボロだな……」
「はい……前の戦闘で色々と無理をさせちゃって」


ナイの装備品の中で特に損傷は酷かったのは、普段から防具として身に着けている「鎖帷子」であり、火竜やゴーレムキングとの戦闘で限界を迎えたらしく、まともに身に着ける事もできないほどボロボロだった。

他の装備品はアルトに改造を施された闘拳もフックショットの鋼線が切れてしまい、ミスリル製の刃と繋ぎ合わせる必要がある。刺剣に関しても改造の余地はあり、他の旋斧、岩砕剣、反魔の盾に関しては手を加える必要はないとハマーンは判断した。


「儂が出来る事といえばお主に新しい装備を渡す事と、あるいは今の装備を改造する事ぐらいだな」
「う～ん、でもお金の方はあんまり……」
「お主には怪我を治して貰ったし、面白い物を見せて貰ったからな。今回限りは無償で構わん」
「えっ！？いいんですか！？」
「お、そいつは助かるね」
「何を言っておる、お前さんは金を払わんかっ！！」
「ちっ……駄目かい」


ちゃっかりと自分の装備も無料で強化して貰おうとしたテンをハマーンは叱りつけると、彼は改めて闘拳に内蔵されたフックショットを確認し、これを作り出した人物を見抜く。


「このフックショットを作ったのはアルトじゃな？」
「えっ？凄～い、よく分かったね？」
「当たり前じゃ、儂がアルトに鍛冶の基礎を叩き込んだのじゃぞ。この独特な癖のある作り方はアルト以外には有り得ん。中々上手く作り上げているが、まだまだ粗があるな」
「粗があるんですか？」
「うむ、このフックショットの要となるこの刃物……もう少し磨きが必要じゃな」


ハマーンはアルの形見でもあるミスリル製の刃を専用の道具で削り出し、より鋭利に尖らせた状態で鋼線と繋ぎ合わせ、瞬く間に闘拳の修復を終える。


「ほれ、付けて見ろ」
「えっ！？もう直ったんですか？」
「阿呆、直ったどころではない！！前よりも強化してやったんだぞ！！」


ナイはハマーンから渡された闘拳を装着し、この時にハマーンは新しい機能も搭載した事を伝える。


「坊主、風属性の魔石を半回転させてみろ」
「えっ……半回転ですか？」
「ほれ、いいからやってみろ」


ハマーンの言葉にナイは戸惑いながらも従うと、闘拳に内蔵されているミスリル製の刃が飛び出し、まるで隠し武器のように手の甲の部分から刃が露出する。その様子を見てナイは驚き、ハマーンは満足げに頷く。