貧弱の英雄

カタナヅキ

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グマグ火山決戦編

第402話 イチノの危機

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――イチノにゴブリンの軍団が攻め寄せ、現在はリノ王子と警備兵が籠城している事を知った国王はすぐに将軍と王国騎士団を招集させ、援軍を派遣させる準備を行う。

しかし、イチノから王都まではかなりの距離が存在し、とてもではないが馬などの乗り物で移動する時間はない。ならば馬よりも早く移動できる乗り物を用意する必要があった。


「……やはり、あれを使うしかない様だな」
「しかし、国王様……あのを動かすためには大量の魔石を必要とします。それに長年の間、使用を控えていたので調整も行わなければ……」
「ならばすぐに工場区の鍛冶師に整備させよ!!リノの一大事というのに手段は選んではおられぬ!!」
「陛下、落ち着いて下さい。焦る気持ちは分かりますが……」


国王はリノが窮地に立たされていると聞いて普段の彼からは信じられないほどに取り乱しており、アッシュはそんな彼を落ち着かせようとする。


「あの船を動かすにしても数日は掛かります。その間、援軍として派遣する軍隊の選抜を行いましょう。また、今回は冒険者ギルドの冒険者の協力は必要不可欠です」
「分かっておるわ!!ギルドに連絡は伝えたのか!?」
「はい、既に連絡済みです。ギルドマスターのギガンからも黄金級冒険者3名、それに王都内に残っている金級冒険者達にも緊急指定依頼という形で協力を取り次ぎました」
「黄金級冒険者3名じゃと……もっと用意できなかったのか!!」
「生憎と王都内に残っているのは先日の火竜討伐にも御協力してくれた3名のみで……」


苛立ちを隠せない国王は援軍として派遣される者達を確認し、この時に派遣される人材の中にある者がいない事に気付く。


「待て、あのナイという者はどうした?火竜やゴーレムキングの討伐で最も活躍したそうではないか。どうして名前が出て来ぬ」
「いや、彼は正確には我が国の兵士や騎士ではなく、ましてや冒険者でもない一般人ですので……」
「何を言うか!!ゴーレムキングを倒せる程の力を持つ者を放っておけるか、アルトに連絡せよ!!ナイを同行させるように説得しろとな!!これは王命である!!」
「はっ……分かりました」


国王はナイの同行を命じると、慌てて兵士達は駆け出す。その様子を見てアッシュはまずい状況だと判断し、リノが危機と知って国王は冷静な判断ができていなかった。

実を言えば国王はある理由で他の二人の王子よりもリノの事を目に賭けており、その理由はリノは生まれた時から大きな秘密を抱えていた。


「陛下、まずは心を落ち着かせてください。リノ王子が心配なのは分かりますが……」
「むむうっ……分かっておる!!」


言葉とは裏腹に国王は机を叩き、興奮が抑えきれない様子だった。こんな姿の国王を見るのはアッシュも久しぶりであり、普段の国王は冷静で滅多に取り乱す事はない。

リノを救うためとはいえ、表向きは一般人であるナイを軍隊に同行させるなど普通ではない。だが、今回の援軍の派遣に関してはナイとしても都合が良かった――





「――イチノが攻撃を受けている!?」
「ああ、詳しい詳細は僕も知らされていないが、イチノにゴブリンの軍勢が現れて街を襲っているそうなんだ」
「ちょっと待って、イチノって……ナイ君の故郷の近くにある街の事だよね!?」
「そうだわ、前に話してくれたナイ君のお父さんの友達が住んでいる街なんでしょっ!?」
「おいおい、どうなってるんだい……」


王命を受けたアルトは屋敷に戻るとナイ達が都合よく勢揃いしており、事情を説明する。ここでナイは初めてイチノが危機を迎えている事を知って呆然とした。


「ゴブリンの軍勢が現れたって、どういう事!?」
「僕も詳しくは聞かされていないんだが……なんでもゴブリンキングが現れた可能性が高い」
「ゴブリン……キング?」
「ああ、名前ぐらいは聞いた事があるだろう?ゴブリンの王にして最強のゴブリンといわれる恐ろしい魔物さ……その危険度は竜種にも匹敵すると言われている」
「ウォンッ!?」


竜種に匹敵という言葉に一緒に聞いていたビャクは驚きの声を上げ、ナイ達も信じられない表情を浮かべる。竜種である火竜の恐ろしさは先日にナイ達も思い知らされたばかりであり、ゴブリンキングはその火竜と並ぶ存在なのかと戦慄した。


「まあ、単純な戦闘力の方は火竜が大きく上回るだろうが……ゴブリンキングの厄介な点は強さだけじゃない、他のゴブリンを従える力を持っているんだ」
「他のゴブリンを従える……」
「ナイ君は前に他のゴブリンや魔獣を従えたゴブリンメイジを覚えているかい?僕と初めて会った時に出会った奴だよ」
「え?」


アルトの言葉にナイは彼との出会いを思い出し、確かに彼がゴブリンメイジに襲われている所をナイは助けた。あの時はゴブリンメイジは明らかに他のゴブリンを従えて行動していた事を思い出す。
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