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グマグ火山決戦編
第399話 魔法剣の変化
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「でも、アルトの理屈なら聖属性の魔力を与え続ければ旋斧はもっと成長できるようになるの?」
「いや……人間や魔石から摂取できる聖属性の魔力は限りがある。だが、人間よりも遥かに生命力に満ち溢れた存在、魔物などを倒せば旋斧は敵を倒すのと同時に生命力を奪っていたんだろう」
「な、何だか凄いわね……」
「あれ?でも、ナイ君はもう触っても魔力は吸収できないんだよね。なら、もうお腹いっぱいになったのか?」
「そう、そこが重要なんだ」
意外にもモモが鋭い指摘を行うと、アルトが気になるのは旋斧が所有者の魔力を吸い上げなくなった点であり、もしも旋斧が所有者の魔力を吸い上げる機能がなくなったとしたら、旋斧が元々持っている魔力を吸収する機能その物が消えた可能性もある。
「ナイ君、君はこの状態の旋斧で魔法剣を発動させた事はあるかい?」
「え?いや……火竜とレッドゴーレムを倒した後は全然使ってないよ。そもそも使う必要もなかったし、魔石を無駄に消費するのも勿体ないし……」
「今、ここで使って見せてくれないかい?そうだな……火属性の魔石で魔法剣を使ってくれないかい?」
アルトの言葉にナイは魔法腕輪を装着し、試しに火属性の魔力を旋斧に送り込む。もしも魔力を吸収する機能が消えていれば、旋斧は魔法剣は発動できないはずだった。
だが、予想に反して旋斧は送り込まれた魔力を吸収して刀身に炎が宿る。しかも以前よりも火力が凄まじく、凄まじい勢いで燃え盛る。
「うわっ!?」
「まずい、屋敷が燃える!!抑えるんだナイ君!!」
「わああっ!?」
「あちちっ!?」
慌ててナイは魔法剣を解除しようとするが、炎を消してもしばらくの間は刃が発熱しており、その様子を見たアルトは汗を流しながらもナイに尋ねた。
「ナイ君、今のはどれくらいの魔力を送り込んだんだい?」
「い、いや……いつも通りに発動しようとしただけなんだけど、まるで何倍も出せるようになった気がする」
「な、何倍も!?」
「す、すご~いっ……」
火属性の魔法剣を発動しようとした瞬間、ナイは通常時と同程度の魔力しか送り込まなかった。しかし、まるで油が引火したかのように少量の火属性の魔力が旋斧に流れ込んだ途端、何倍にも増幅されて「猛火」と化す。
「もしかして……火竜を倒した時、旋斧が吸収したのは生命力だけではなく、火竜の体内に眠っていた膨大な火属性の魔力を吸収したせいで旋斧の刃の色が変色したんじゃないのかい?」
「えっ!?」
「実は火竜の死骸を解体した際、体内から発見された経験石が何故か色を失っていた状態だったんだ。だが、話に聞く限りでは火竜は死に至らしめたのはマジク魔導士の雷撃だと聞いていたが……もしかしたら君の旋斧は経験石に宿っていた火属性の魔力さえも吸収しつくしたのかもしれない」
「ええっ!?」
火竜との戦闘ではマジクに広域魔法を撃ち込まれていた際、火竜はわずかながらに生きていた。しかし、ナイが火竜の肉体から旋斧を回収した際、既に火竜は事切れていた。
後にグマグ火山へは火竜の死骸の回収のために軍が派遣され、現在は死骸を解体されて王都へと送り込まれている。しかし、最も価値があるはずの火竜の経験石は何故か魔力を失った状態で回収されたという。
「もしも僕の予測が正しければ、これはとんでもない事だよ。火竜の経験石なんて伝説の聖剣の素材にも利用されるほどの価値のある代物なんだ。そんな経験石の魔力を旋斧が根こそぎ奪ったと知られれば……」
「知られれば……」
「……ま、まあ、君のお陰で火竜を討伐出来たと言っても過言じゃないんだ。父上も罰する事はないだろう」
「そ、そっか……」
あからさまにアルトは視線を逸らして誤魔化す様に告げるが、ナイは自分の旋斧が知らぬ間にとんでもない事をやらかした事を知る。当然だがこの事を他の者に知られれば厄介な事態に陥るが、だからといって黙っているわけにもいかない。
しかし、あくまでもここまでの話はアルトの推測にしか過ぎず、旋斧が火竜の生命力と経験石から火属性の魔力を吸収した保証はない。但し、状況的に考えてもアルトの推測が信憑性が高い事は間違いないのだが――
――マジクの墓は王都内の彼が世話を見ていた孤児院にて建てられる。実を言えばマジクは元々は孤児であり、孤児院で育っていた。彼を見つけ出したのはマホであり、まだ子供だったマジクを育て上げ、立派な魔術師にさせたマホは親代わりに等しい。
彼の墓の前でマホは両手を合わせて彼の冥福を祈り、その隣ではエルマは泣きじゃくっていた。エルマはマジクとは親しく、その後ろではゴンザレスが彼女を慰める様に肩に手を置く。
「う、ううっ……」
「もう泣くな、エルマ……マジク魔導士も今のお前の姿を見たら困るだろう」
「その通りじゃ……悲しいのは分かるが、マジクならばお前に笑って欲しいと思うだろう」
「す、すいません……」
マホは優しくエルマの頭を撫でてやり、彼女はマジクの墓を見つめた。まさか彼が死ぬなど思いも知らず、やはり自分が無理をしてでも後を追うべきだったかと思う。
目覚めた後のマホは討伐隊が戻るまでの間は静養を強いられ、討伐隊の援護に向かう事が出来たなかった。そのため、彼が死んだと聞いときは激しく悔やんだ。
(マジクよ……お主は魔導士として儂よりも高みに立てたのじゃな)
討伐隊からマホは話を聞く限りではマジクの魔法によって火竜に止めを刺したと言っても過言ではなく、同じ魔導士であるマホでも火竜を倒せる程の魔法を生み出す事は出来ない。自分にも倒せない火竜をマジクが倒したという事に彼女は誇りに思い、墓に眠るマジクに心の中で語り掛けた。
(後の事は儂に任せるがいい……お主は安らかに行くがいい)
マホは空を見上げ、天国に向かったであろうマジクの事を思い浮かべる。この時にマホの頭の中に浮かんだマジクの顔は笑顔だった――
――玉座の間にて国王は深く項垂れ、その様子をシンは心配そうに見つめていた。マジクの死は彼にとっても相当な衝撃だったらしく、この数日の間は碌に眠っていない。
「国王陛下……マジク殿がいなくなってお辛いのは分かりますがしっかりとしてください。貴方はこの国の王なのですぞ」
「分かっておる……」
「国王陛下……」
言葉とは裏腹に国王は生気のない表情を浮かべ、その様子を見たシンはため息を吐き出す――
――その一方でアッシュ公爵はテンと共に昼間から酒場に立ち寄り、二人は酒を飲む。どちらも酒豪なので大量の酒瓶が机の上に並べられるが、今日はいくら飲んでも酔いそうな気分ではない。
「ふうっ……あんた、こんな所にいていいのかい?」
「構わん、俺の部下は優秀だからな。1日ぐらいは放っておいても平気だ」
「ああ、そうかい……」
二人ともマジクとは古い付き合いであり、どちらもマジクには頭が上がらなかった。そんな彼を死なせたことにテンは落ち込み、アッシュは自分が彼の死に目に傍にいなかった事を嘆く。
「……明日からはお互い、元通りに生活するよ。マジク魔導士もきっとそう望んでいるはずだからね」
「そうだな……」
テンとアッシュは杯を交わし、苦笑いを浮かべる。この1杯を最後に二人は元通りの生活を送る事を決めた――
――アルトが帰った後、ナイは部屋に戻ってベッドの上に横たわり、何もせずに天井を見上げていた。今は何もやる気が起きず、討伐隊の中で死んでいった者達を思い返すと悔やみきれない。
「ちくしょう……」
また自分が他の人間を守れなかった事にナイは涙を流し、もっと強くなって大勢の人を守れる力が欲しいと思った。
――翌日、怪我が完治したドリスとリンは国王の元に赴いて土下座を行う。二人の行動を見て玉座の間の兵士達は戸惑うが、顔を上げろとまでは言えない。国王はしばらく黙り込み、二人に尋ねた。
「ドリス、リン……それは何の真似じゃ?」
「……討伐隊の補佐を任せられておきながら、我々は役目を果たせずに途中離脱などという失態を犯してしまい、誠に申し訳ございません」
「私達が一緒に行動していればマジク様を死なせるような事態には陥らなかったのかもしれなかったのに……」
「もうよい、儂はお主等を責めるつもりはない。それに相手は火竜……更にゴーレムキングなる存在を相手にしたのだ。お前達二人がいたとしても状況は変わるかは分からんかった」
ドリスとリンが国王の元に訪れたのは謝罪のためであり、二人はレッドゴーレムとの戦闘で途中離脱した事を心の底から悔いていた。しかし、国王は二人を責めるような事は言わない。
「いや……人間や魔石から摂取できる聖属性の魔力は限りがある。だが、人間よりも遥かに生命力に満ち溢れた存在、魔物などを倒せば旋斧は敵を倒すのと同時に生命力を奪っていたんだろう」
「な、何だか凄いわね……」
「あれ?でも、ナイ君はもう触っても魔力は吸収できないんだよね。なら、もうお腹いっぱいになったのか?」
「そう、そこが重要なんだ」
意外にもモモが鋭い指摘を行うと、アルトが気になるのは旋斧が所有者の魔力を吸い上げなくなった点であり、もしも旋斧が所有者の魔力を吸い上げる機能がなくなったとしたら、旋斧が元々持っている魔力を吸収する機能その物が消えた可能性もある。
「ナイ君、君はこの状態の旋斧で魔法剣を発動させた事はあるかい?」
「え?いや……火竜とレッドゴーレムを倒した後は全然使ってないよ。そもそも使う必要もなかったし、魔石を無駄に消費するのも勿体ないし……」
「今、ここで使って見せてくれないかい?そうだな……火属性の魔石で魔法剣を使ってくれないかい?」
アルトの言葉にナイは魔法腕輪を装着し、試しに火属性の魔力を旋斧に送り込む。もしも魔力を吸収する機能が消えていれば、旋斧は魔法剣は発動できないはずだった。
だが、予想に反して旋斧は送り込まれた魔力を吸収して刀身に炎が宿る。しかも以前よりも火力が凄まじく、凄まじい勢いで燃え盛る。
「うわっ!?」
「まずい、屋敷が燃える!!抑えるんだナイ君!!」
「わああっ!?」
「あちちっ!?」
慌ててナイは魔法剣を解除しようとするが、炎を消してもしばらくの間は刃が発熱しており、その様子を見たアルトは汗を流しながらもナイに尋ねた。
「ナイ君、今のはどれくらいの魔力を送り込んだんだい?」
「い、いや……いつも通りに発動しようとしただけなんだけど、まるで何倍も出せるようになった気がする」
「な、何倍も!?」
「す、すご~いっ……」
火属性の魔法剣を発動しようとした瞬間、ナイは通常時と同程度の魔力しか送り込まなかった。しかし、まるで油が引火したかのように少量の火属性の魔力が旋斧に流れ込んだ途端、何倍にも増幅されて「猛火」と化す。
「もしかして……火竜を倒した時、旋斧が吸収したのは生命力だけではなく、火竜の体内に眠っていた膨大な火属性の魔力を吸収したせいで旋斧の刃の色が変色したんじゃないのかい?」
「えっ!?」
「実は火竜の死骸を解体した際、体内から発見された経験石が何故か色を失っていた状態だったんだ。だが、話に聞く限りでは火竜は死に至らしめたのはマジク魔導士の雷撃だと聞いていたが……もしかしたら君の旋斧は経験石に宿っていた火属性の魔力さえも吸収しつくしたのかもしれない」
「ええっ!?」
火竜との戦闘ではマジクに広域魔法を撃ち込まれていた際、火竜はわずかながらに生きていた。しかし、ナイが火竜の肉体から旋斧を回収した際、既に火竜は事切れていた。
後にグマグ火山へは火竜の死骸の回収のために軍が派遣され、現在は死骸を解体されて王都へと送り込まれている。しかし、最も価値があるはずの火竜の経験石は何故か魔力を失った状態で回収されたという。
「もしも僕の予測が正しければ、これはとんでもない事だよ。火竜の経験石なんて伝説の聖剣の素材にも利用されるほどの価値のある代物なんだ。そんな経験石の魔力を旋斧が根こそぎ奪ったと知られれば……」
「知られれば……」
「……ま、まあ、君のお陰で火竜を討伐出来たと言っても過言じゃないんだ。父上も罰する事はないだろう」
「そ、そっか……」
あからさまにアルトは視線を逸らして誤魔化す様に告げるが、ナイは自分の旋斧が知らぬ間にとんでもない事をやらかした事を知る。当然だがこの事を他の者に知られれば厄介な事態に陥るが、だからといって黙っているわけにもいかない。
しかし、あくまでもここまでの話はアルトの推測にしか過ぎず、旋斧が火竜の生命力と経験石から火属性の魔力を吸収した保証はない。但し、状況的に考えてもアルトの推測が信憑性が高い事は間違いないのだが――
――マジクの墓は王都内の彼が世話を見ていた孤児院にて建てられる。実を言えばマジクは元々は孤児であり、孤児院で育っていた。彼を見つけ出したのはマホであり、まだ子供だったマジクを育て上げ、立派な魔術師にさせたマホは親代わりに等しい。
彼の墓の前でマホは両手を合わせて彼の冥福を祈り、その隣ではエルマは泣きじゃくっていた。エルマはマジクとは親しく、その後ろではゴンザレスが彼女を慰める様に肩に手を置く。
「う、ううっ……」
「もう泣くな、エルマ……マジク魔導士も今のお前の姿を見たら困るだろう」
「その通りじゃ……悲しいのは分かるが、マジクならばお前に笑って欲しいと思うだろう」
「す、すいません……」
マホは優しくエルマの頭を撫でてやり、彼女はマジクの墓を見つめた。まさか彼が死ぬなど思いも知らず、やはり自分が無理をしてでも後を追うべきだったかと思う。
目覚めた後のマホは討伐隊が戻るまでの間は静養を強いられ、討伐隊の援護に向かう事が出来たなかった。そのため、彼が死んだと聞いときは激しく悔やんだ。
(マジクよ……お主は魔導士として儂よりも高みに立てたのじゃな)
討伐隊からマホは話を聞く限りではマジクの魔法によって火竜に止めを刺したと言っても過言ではなく、同じ魔導士であるマホでも火竜を倒せる程の魔法を生み出す事は出来ない。自分にも倒せない火竜をマジクが倒したという事に彼女は誇りに思い、墓に眠るマジクに心の中で語り掛けた。
(後の事は儂に任せるがいい……お主は安らかに行くがいい)
マホは空を見上げ、天国に向かったであろうマジクの事を思い浮かべる。この時にマホの頭の中に浮かんだマジクの顔は笑顔だった――
――玉座の間にて国王は深く項垂れ、その様子をシンは心配そうに見つめていた。マジクの死は彼にとっても相当な衝撃だったらしく、この数日の間は碌に眠っていない。
「国王陛下……マジク殿がいなくなってお辛いのは分かりますがしっかりとしてください。貴方はこの国の王なのですぞ」
「分かっておる……」
「国王陛下……」
言葉とは裏腹に国王は生気のない表情を浮かべ、その様子を見たシンはため息を吐き出す――
――その一方でアッシュ公爵はテンと共に昼間から酒場に立ち寄り、二人は酒を飲む。どちらも酒豪なので大量の酒瓶が机の上に並べられるが、今日はいくら飲んでも酔いそうな気分ではない。
「ふうっ……あんた、こんな所にいていいのかい?」
「構わん、俺の部下は優秀だからな。1日ぐらいは放っておいても平気だ」
「ああ、そうかい……」
二人ともマジクとは古い付き合いであり、どちらもマジクには頭が上がらなかった。そんな彼を死なせたことにテンは落ち込み、アッシュは自分が彼の死に目に傍にいなかった事を嘆く。
「……明日からはお互い、元通りに生活するよ。マジク魔導士もきっとそう望んでいるはずだからね」
「そうだな……」
テンとアッシュは杯を交わし、苦笑いを浮かべる。この1杯を最後に二人は元通りの生活を送る事を決めた――
――アルトが帰った後、ナイは部屋に戻ってベッドの上に横たわり、何もせずに天井を見上げていた。今は何もやる気が起きず、討伐隊の中で死んでいった者達を思い返すと悔やみきれない。
「ちくしょう……」
また自分が他の人間を守れなかった事にナイは涙を流し、もっと強くなって大勢の人を守れる力が欲しいと思った。
――翌日、怪我が完治したドリスとリンは国王の元に赴いて土下座を行う。二人の行動を見て玉座の間の兵士達は戸惑うが、顔を上げろとまでは言えない。国王はしばらく黙り込み、二人に尋ねた。
「ドリス、リン……それは何の真似じゃ?」
「……討伐隊の補佐を任せられておきながら、我々は役目を果たせずに途中離脱などという失態を犯してしまい、誠に申し訳ございません」
「私達が一緒に行動していればマジク様を死なせるような事態には陥らなかったのかもしれなかったのに……」
「もうよい、儂はお主等を責めるつもりはない。それに相手は火竜……更にゴーレムキングなる存在を相手にしたのだ。お前達二人がいたとしても状況は変わるかは分からんかった」
ドリスとリンが国王の元に訪れたのは謝罪のためであり、二人はレッドゴーレムとの戦闘で途中離脱した事を心の底から悔いていた。しかし、国王は二人を責めるような事は言わない。
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