貧弱の英雄

カタナヅキ

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グマグ火山決戦編

第383話 災害の化身

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「おらぁっ!!」
「ゴアアッ!?」


テンの放った退魔刀の一撃によってレッドゴーレムの一匹が砕け散り、最後の1体に対してはリンダが向かう。彼女はナイが身に着けている「闘拳」と酷似した武器を両腕に装着しており、その名前は「硬魔拳」という。

闘拳を装着したリンダはレッドゴーレムに向けて踏み込むと、彼女は「崩拳(中段突き)」を放つ。


「はああああっ!!」
「ガハァッ!?」


強烈な一撃を受けたレッドゴーレムの胸元が陥没し、経験石が破壊される。その光景を見たテンは口笛を吹き、彼女は退魔刀を肩に背負いながらリンダに告げた。


「あんた、思っていた以上にやるね。でも、その武器で挑むのはちょっときついんじゃないのかい」
「はあっ、はあっ……いえ、問題ありません」
「嘘を吐くんじゃないよ。ただのゴーレムならともかく、こいつらは高熱を帯びているんだ。そんな武器で戦って熱いはずがないだろう」
「大丈夫です、私の硬魔拳は魔法金属製なのでこの程度の熱ならば平気です」


レッドゴーレムは通常種のゴーレムとは異なり、本気で怒れば溶岩と同程度の高熱を発する。だからこそ大抵の武器ではレッドゴーレムの熱気に溶かされてしまうが、魔法金属製の武器は熱にも強いため、魔法金属製の武器ならば対抗できる。

しかし、いくら魔法金属製の武器といえども身体に装着するような武器の類で戦えば無事では済まない。リンダは平然を装っているが、彼女はずっと闘拳を外さない理由は既にテンは察していた。


(主のために頑張っているようだけど、そろそろ限界が近そうだね)


今は治療中のドリスの代わりを務めるためにリンダは弱音を吐かないが、テンはここまでの戦闘で彼女も限界が近付いている事は気づいていた。しかし、敢えて何も言わずに彼女は回復薬を渡す。


「ほら、やるよ」
「これは……」
「知り合いから貰った特別製の回復薬さ。さっさと飲んで先に進むよ」
「……感謝します」


テンの言葉にリンダは頭を下げ、回復薬を飲み込む。正直に言えば火傷の類は回復薬でも効果は薄いが、それでも飲まないよりはマシである。

これで襲撃を仕掛けたレッドゴーレムは全て倒せたが、先ほどから一定の距離を移動するとレッドゴーレムが現れては討伐隊の進行を妨害する。まるで待ち伏せするかのように何度も討伐隊の前に立ちはだかるため、バッシュは苛立ちを抱く。


「これで何度目の襲撃だ……被害の方は?」
「二名負傷しました。今は治療しているので命に別状はないと思いますが、戦闘に参加するのは厳しいかと……」
「そうか……」


度重なるレッドゴーレムの襲撃によって討伐隊もかなりの被害を受けており、これまでに数十体のレッドゴーレムを倒したが一行に数が減る様子がない。むしろ、火山に近付こうとすればするほどレッドゴーレムと遭遇する回数が増えていた。


「火山で何が起きている……火竜はどうなった」
「今の所は火竜の痕跡は発見していません」
「ナイ、あんたのビャクなら火竜の位置は分からないのかい?」
「クゥ~ンッ……」
「分からないみたいです」


ビャクに火竜の位置を掴めないのかテンは確かめるが、流石のビャクも火竜の正確な居場所は察知できない。だが、竜種程の強大な相手ならば近くに居ればビャクでも気付くため、火竜が接近していればビャクも気づかないはずがない。

討伐隊もレッドゴーレムとの度重なる戦闘で疲労しており、これ以上の行軍は危険だった。だが、何としても今日中に火山に辿り着いて調査を行う必要がある。


「もう少しだけ休憩をした後、先に進む。今は1秒でも長く身体を休める事に専念しろ」
「休むと言ってもこの暑さじゃね……落ち着いて休む事もできないよ」
「鎧を身に着けているだけで火傷をしかねませんね……」


火山に近付くと気温が上昇し、これ以上に接近すると金属が過熱して鎧兜を身に着けているだけで火傷を引き起こしかねない温度だった。

ここから先に進むのであれば鎧兜の類を放棄し、軽装の状態で進むしかない。水分の補給は怠らず、定期的に摂取して先に進まなければならない。討伐隊の隊員の体力の限界も近く、急ぐ必要があった――





――同時刻、グマグ火山の火口には巨大な影が動いていた。その影の正体は先日に大型ゴーレムと激戦を繰り広げ、共に火口に落ちた火竜だった。信じられない事に火竜は溶岩の中から抜け出し、怒りに満ちた鳴き声を上げる。


「シャアアアッ……!!」


大型ゴーレムとの戦闘で怪我を負い、更に数日も溶岩の中に沈んでいたにも関わらず、火竜は生き延びて火口からの脱出を果たす。その存在こそが「災害の化身」と称され、恐るべき生命力で火竜は復活を果たす。
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