貧弱の英雄

カタナヅキ

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グマグ火山決戦編

第381話 マジクの雷魔法

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「何事だ!!いったい何の騒ぎだ!?」
「やれやれ、こんな夜中に何を騒いでおる……むっ!?」


ここで遅れて王国騎士を引き連れたバッシュと、魔術兵を引き連れたマジクが到着した。全員がナイ達と対峙するレッドゴーレムを見て驚愕の表情を浮かべるが、すぐに事情を察したバッシュは指示を出す。


「そういう事だったか……マジク!!」
「お任せくだされ……お前達、そこを離れろ!!魔術兵、魔法の準備を!!」
『はっ!!』


マジクの命令を受けて魔術兵は杖を構えると、それを見たナイ達は慌ててレッドゴーレムから離れた。突如として現れた人間の大群にレッドゴーレムは興奮したように咆哮を放つ。


「ゴォオオオオッ!!」
「ひいっ!?」
「怯えるな!!この程度の事で集中力を乱してどうする!!狙いを正確に定め、奴に魔法を撃て!!儂の合図を待つな、準備が出来次第に撃ちこめ!!」
「は、はい!!」


レッドゴーレムの威圧に魔術兵は怯みかけるが、マジクが怒鳴りつけると彼等は冷静さを取り戻し、魔法の準備を行う。

魔術兵が使用しようとしているのは「砲撃魔法」と呼ばれる魔法であり、名前の通りに砲撃の如く魔力を放射する魔法である。魔術兵は杖を構え、それぞれが呪文を唱えて魔法を放つ。


『風よ、敵を切り裂け!!スラッシュ!!』
「ゴアッ……!?」


マジクが集めた魔術兵の殆どは風属性の魔法を得意としており、彼等の杖から三日月を想像させる風属性の魔力の刃が放たれた。レッドゴーレムの肉体に無数の風の刃が放たれ、肉体を切り刻む。

ナイ達との戦闘でレッドゴーレムの肉体が負傷していた事もあり、次々と放たれる風の刃によってレッドゴーレムの肉体を構成する岩石が剥がれ落ち、それを見たマジクは頃合いだと判断して杖を構えた。


「この一撃で止めを刺してやろう……受けて見よ、我が雷撃を!!」
「ゴアッ……!?」


マジクが天に向けて杖を掲げた瞬間、黒雲が形成される。それを見たレッドゴーレムは黒雲を見上げると、マジクの杖に取り付けられたの魔石が光り輝く。


「サンダーボルト!!」
「うわぁっ!?」
「ぐぅっ!?」
「うひぃっ!?」


杖を振り下ろした瞬間、黒雲から電流が迸り「雷雲」と化す。そしてレッドゴーレムに目掛けて雷が降り注ぎ、粉々に吹き飛ばす。

マジクの魔法のあまりの威力にナイ達は唖然とする中、マジクの方は額の汗を拭い、少し疲れた様子でバッシュに振り返った。


「ふうっ……終わりました、王子」
「……流石は魔導士だな。だが、大丈夫なのか?」
「なに、この程度の魔法ならば問題はありませぬ」


バッシュはレッドゴーレムを破壊したマジクの魔法に驚かされながらも、彼の身を案じた。老齢であるマジクは残念ながら若い頃と比べて魔力が衰え、魔法を使うと簡単には魔力は回復しない。

しかし、マジクは多少疲れた様子ではあるがレッドゴーレムに視線を向け、どうしても彼は止めを刺さなければならないと思った。理由としてはレッドゴーレムを見た時に彼は危機感を感じ取り、自分の手で確実に始末しなければならないと直感で判断した。


「誰か、そのゴーレムを確認してくれ!!まだ生きていないのか調べてくれんか!!」
「あ、はい……」
「流石にあれだけの魔法を受けて生きているはずがないと思うけどね……」


雷を直撃したレッドゴーレムは肉体が粉々に砕かれ、原型すら留めていなかった。ナイとテンが恐る恐る近付き、様子を伺うが流石にこの状態から復活するのはあり得ない。


「粉々に砕けています!!もう動く様子もありません!!」
「そうか……それならば良かったが」
「いったいここで何が起きた?誰か状況を説明してくれ」
「あ、それなら僕が……」


バッシュの言葉にヒイロに肩を貸して貰ったリーナが代わりに説明し、その間にナイは念入りにレッドゴーレムの調査を行う。


(本当に死んでるのかな……いや、生きているはずがないか)


いかにレッドゴーレムであろうと、マジクの放った強烈な雷を受けて無事で済むはずがなく、残骸が動き出す様子もない。しかし、この時にナイはある違和感を抱く。


「えっ……あれ?」
「どうしたんだい?」
「いや、経験石が……何処にもないんです」
「何だって!?」


ナイの言葉に慌ててテンも一緒に経験石を探すが、どういう事なのかレッドゴーレムの経験石は見当たらなかった。他の者も一緒になって残骸の中を探すが、やはり経験石らしき物は見当たらない。


「駄目、いくら探しても見つからない……」
「そんな馬鹿な……どうして?」
「さっきの雷で経験石も跡形もなく砕けちまったんじゃないのかい?」
「……そう考えるしか、ないか」
「むうっ……状況的にはそう考えるしかない、か」


全員が破壊されたレッドゴーレムの所に集まるが、結局はその後もいくら探しても経験石は見つからず、結局は経験石はマジクの魔法によって跡形もなく砕け散ったと判断するしかなかった――





――時は少し前に遡り、王城の医療室にて眠り続けていたマホは遂に目を覚ます。意識を取り戻したマホが最初に見たのは自分の傍で椅子に座った状態で眠るエルマと、少し離れた場所で座り込んだ状態で寝息を立てるゴンザレスの姿だった。


「ここは……そうか、儂は魔力を失って意識を失っておったのか」
「すぅっ……すぅっ……」
「ぐぅうっ……」


身体を起き上げたマホは自分の身体を確認し、ずっと眠り続けていたせいかまだ上手く動かせないが、どうにか上半身を起き上がらせる。


「エルマ、ゴンザレス……寝る時はちゃんと横にならんか」
「ううんっ……師匠」
「やれやれ、この調子では簡単に起きそうにないのう……ずっと儂の看病をしてくれていたのか」


座ったまま眠る弟子二人を見てマホは苦笑いを浮かべ、二人に心配を掛けさせたと思いながら彼女は最後の弟子を探す。だが、部屋の中にはどうやら二人しかいない様子だった。

ガロがここに居ない事にマホは不思議に思い、生意気な弟子ではあるが見舞いにも来ない程に薄情な人間ではない。彼はどうしているのか不思議に思いながらもマホは起き上がろうとした時、ここで部屋の扉が開かれる。


「うおっ!?起きていたのか……」
「おお、イシではないか。いや、イシ医師と呼ぶべきか」
「普通に呼べよ!!全く、しぶとい婆さんだぜ……たくっ、お前の弟子たちのせいでこっちはいい迷惑だ。目を覚ますまでここを出て行かないと言い張って困ったんだぞ」
「それは……迷惑をかけたのう」


イシに対してエルマとゴンザレスが頼み込む姿を想像し、マホは笑顔を浮かべる。だが、喜んでばかりではおられず、状況の確認を行う。


「状況はどうなっておる?儂はどれほど眠っておった?」
「4日……いや、5日か?相当に無茶をしたようだな。流石に今回は駄目かと思ったぞ」
「儂もじゃ……だが、あれほどの脅威を目にして簡単に死ぬわけにはいかん。ところで眠っている間に不思議な夢を見てのう、綺麗な花畑で儂の両親が呼びかけてくる夢で……」
「死にかけてんじゃねえか!!よく生きて戻れたな!!」
「ははは、冗談じゃよ……じゃが、笑ってはおられんな」


マホは自分が何日も意識を失っていた事を知り、ため息を吐き出す。火山で発見した大型ゴーレムの情報を一刻も早く伝えるためとはいえ、流石に無茶をし過ぎた。

飛行魔法は本来は魔力の消耗が激しく、それを長時間も発動すれば自殺行為に等しい。王都に引き返した時はマホは既に魔力が底をつきかけていた。もしも完全に魔力を使い切っていれば死んでいただろう。

回復までに時間が掛かったのは魔力は普通の回復薬の類では簡単には戻る事はなく、魔力回復薬などの薬を用意しないといけない。だが、マホのように膨大な魔力を持つ人間が魔力切れを起こすと回復するのに時間が掛かってしまう。


「昔ならばどんなに魔力を使っても一日もあれば回復したが……今回はちと時間が掛かり過ぎたのう」
「年を重ねれば肉体が衰えるように魔力を回復する機能も弱まる……いくら外見が若く見えてもあんたは婆さんである事に変わりはないんだよ」
「耳が痛いのう、儂はぴちぴちじゃぞ?」
「どの口が言うんだよ……あんた、本当の年齢は何才だ」
「乙女に年齢を尋ねるとは無礼な男じゃな……それよりもいい加減に事情を説明せんか」
「たくっ、仕方ねえな……」


イシは面倒くさそうにマホが気絶した後の出来事を話し、既にグマグ火山へ向けて大型ゴーレムの討伐隊が出発した事を話す。

この時にマホはナイが討伐隊に参加した事を知り、驚いた表情を浮かべる。マホは確かにナイの実力は買っていたが、いつの間にか国王にさえも認められる実力者にまで育っていたのかと驚く。


「あのナイが討伐隊に参加しているとは……しかも、二つの魔剣を扱えるようになった?いったい何が起きてるんじゃ……」
「さあな……それよりも婆さん、あんた大分前にグマグ火山に出発したそうだが、どうして報告が遅れたんだ。ここから火山まで馬で移動するにしてもせいぜい3日程度の距離だろう。なのに一か月も掛かるなんて……」
「ふむ、その事か……実は儂は表向きはグマグ火山の調査に向かう名目で王都を発ったが、その途中でどうしても会わなければならない者がおってな……」
「……誰と会ってたんだ?」


一か月も費やしてマホが会いに向かったという人物にイシは興味を抱くと、彼女は驚くべき人物の名前を告げた。


「王妃……ジャンヌの元へ儂は赴いていた」
「はっ……!?」


思いがけない言葉にイシは呆気に取られ、既に亡くなっているはずの王妃の元にマホは会いに向かった事を話す――





「――何をしている新入り!!お前もさっさと荷物運びを手伝わんか!!」
「うるせえっ!!誰が新入りだ、俺は護衛を引き受けたが荷物運びの手伝いをやらされるなんて聞いてないぞ!!」


グマグ火山で起きた異変が世間に知られる前、冒険者になったガロは冒険者としてとある商人の護衛の依頼を引き受けていた。その内容は商団の護衛であり、これからガロは王都を離れて別の街に赴く商談の護衛として同行する予定だった。

だが、実際に護衛として訪れてみたら彼は商団で働く人間達と同じように荷物運びを手伝わされる事になり、その事に文句を告げるとすぐに他の冒険者が抑える。


「おいおい、止めとけよ。依頼者の機嫌を損ねるような真似はするなよ」
「ふざけんなっ!!どうして俺達がこんな事……」
「馬鹿、俺達のような下っ端冒険者が護衛として雇って貰えるだけでも運がいい方なんだぞ。普通ならもっと高い階級の冒険者を雇うのが当たり前なんだ」
「何だと!?人の事を舐めやがって……!!」
「仕方ないだろ、冒険者稼業なんてこんなもんだよ」


先輩の冒険者からガロは抑えられ、彼等に寄れば階級が低い冒険者は滅多に護衛の仕事は任せられないらしい。理由としては階級が低い人間は実力が低いと判断され、そんな者達に大切な荷物を運ぶ商団の護衛など任せられるはずがない。

しかし、商人の中には冒険者を護衛としてではなく、労働力として働かさせるために敢えて階級が低い冒険者を雇う事もある。冒険者達は護衛以外の仕事を任される事に不満を抱く者も多い。しかし、依頼を達成しなければ評価は上がらず、報酬も貰えない。


「今は我慢するんだ。こういう地道な仕事の積み重ねて一歩ずつ前に進む好かないんだよ」
「くそっ……!!」
「お前さん、どうやら腕に自信があるようだが残念だが強いだけだと簡単には昇格できないぞ。もっと上の階級に上がりたければもうちょっと依頼人を丁寧に扱うんだな。愛想よく接すれば依頼人も気に入って高い評価をしてくれるかもしれないし、また仕事に誘ってくれるかもしれない」
「ちぃっ……そんな媚を売るような真似で階級が昇格して嬉しいのかよ」
「嬉しいに決まってるだろ?こういう仕事はつまらない誇りを捨てた奴が上に上がりやすいんだよ」
「……くそがぁっ!!」


ガロは他の冒険者の言葉に憤りながらも荷物を運び、彼が思っていた冒険者は実力社会で自分の力を示せればすぐに階級が上がると思っていた。しかし、この調子では彼が鉄級冒険者から昇格を果たすのは大分先の事になりそうだった――
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