貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
387 / 1,110
グマグ火山決戦編

第377話 どんな力だろうと……

しおりを挟む
「僕は明日からも一人で戦いたいんだ。あ、勿論ナイ君の迷惑にはならない様に気を付けるからね!!でも、どうしても僕が能力を発動しないといけない時が来たら……その時は巻き込まれない様に離れててくれる?」
「……なるほど」


事情を察したナイはリーナが本心から他の人間を心配した上で言っていると判断し、善意からの言葉である事は理解できた。

だが、リーナの話を聞いてもナイは彼女を一人で戦わせる事に納得できず、明日からは本格的に火山へ突入する。恐らくはレッドゴーレムと再び対峙する事になると思われるが、リーナだけを一人で戦わせる事にナイは不安を抱く。


(リーナは強いけど、レッドゴーレムは危険な相手だ……もしかしたら蒼月の力が必要になる事態が訪れるかもしれない。でも、それってリーナだけを危険な目に遭わせるだけじゃないのか?)


仮にレッドゴーレムと遭遇した時、リーナがどうしても蒼月の力を使わなければならない時、他の人間が彼女から離れる事は逆に言えば彼女に危険な役目を押し付けているだけに過ぎない。

ナイはリーナとは最近であったばかりで特に親しい間柄というわけでもないが、今は共に戦う仲間として頼りにしている。そんな彼女に危険な役目を押し付ける事にナイは納得できず、条件を付けくわえる。


「そういう事なら分かった。でも、蒼月を使用する時は必ず報告する事……それと、蒼月を使わない時は僕達と一緒に戦う。それでいい?」
「うん、そういう事なら構わないよ。でも、どうしても僕が能力を使わないといけない時が来たら……その時はナイ君達も気を付けてね」
「分かった……約束する」


リーナはナイの言葉を聞いて安心し、お互いに握手を行う。ナイとしてはリーナだけに無理をさせるわけにはいかず、明日からは彼女が無茶をしない様に注意しようと考えていると、不意に異様な気配を察知した。


(何だ、この感じ……!?)


ナイの「気配感知」の技能が発動し、すぐにリーナも察したのか二人は背中を合わせて周囲を見渡す。この時にナイは即座に「索敵」を発動させ、敵の位置を探る。


(上手く行け!!)


気配感知と索敵は普段の旅でもよく利用していたので技能が鈍る事はなく、ナイはすぐに気配を感じ取った場所を探って正体を見極めようとした。しかし、気配が感じる場所には何も存在せず、敵の姿は見えない。

最初は索敵の技能が上手く発動しなかったのかと思ったが、すぐにナイは地中に視線を向け、嫌な予感を抱く。その予感は的中し、地中の中から赤黒い腕が突き出してきた。


「ゴォオオオッ……!!」
「まさか……レッドゴーレム!?」
「地面の中に隠れていたの!?」


レッドゴーレムが現れるとナイとリーナは蒼月を構え、地中から姿を現したレッドゴーレムと向き合う。唐突に出現したレッドゴーレムは様子がおかしく、胸元に赤色に光り輝く宝石のような物を露出していた。


(あれって……経験石!?)


胸元に光り輝く宝石の正体をナイはすぐに「経験石」だと判断し、昼間に遭遇したレッドゴーレムは経験石は体内に存在したが、このレッドゴーレムの場合は体外に露出していた。

今までに見た事もない形態のレッドゴーレムを見てナイとリーナは戸惑うが、レッドゴーレムは二人を見下ろすと、拳を振りかざす。


「ゴオオオッ!!」
「うわっ!?」
「ナイ君っ!?」


昼間に遭遇したレッドゴーレムと比べても動作が早く、ナイに向けて拳を放つ。しかし、拳がナイに届く前にリーナが蒼月を繰り出す。


「このぉっ!!」
「ゴアッ!?」


露出している胸元の経験石に向けてリーナは蒼月を繰り出し、周囲に金属音が鳴り響く。レッドゴーレムは一瞬だけ怯むが、リーナは驚愕の表情を浮かべる。


「か、硬いっ!?」


黄金級冒険者のリーナの槍の刺突は岩石だろうと貫ける程の威力を誇るが、レッドゴーレムの経験石は彼女の槍を受けてもびくともせず、レッドゴーレム自身も損傷を受けた様子はない。

リーナが注意を引いている間にナイも旋斧を構え、即座に「剛力」の技能を発動させる。相手がガーゴイルだろうと一撃で破壊するほどの威力の攻撃を繰り出す。


「このぉっ!!」
「ゴガァッ……!!」


ナイが振り翳した旋斧に対してレッドゴーレムは咄嗟に両腕で胸元を庇い、強烈な一撃を両腕で受けて亀裂が走る。だが、胸元の経験石だけは守り抜く。


「えっ!?防御した……ゴーレムが!?」
「くっ……身体の方もやたらと硬い」


昼間に戦ったレッドゴーレムは防御するような仕草は行わず、常に敵を襲う事だけに専念していた。しかし、二人の前に現れたレッドゴーレムは他の個体と異なり、肉体の高度も防御を行う知性を持ち合わせていた。

二人は唐突に現れたレッドゴーレムと対峙し、嫌な汗を流す。何故だか分からないが、この目の前の相手だけはここで倒しておかなければならないと本能が警告する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

転生貴族のスローライフ

マツユキ
ファンタジー
現代の日本で、病気により若くして死んでしまった主人公。気づいたら異世界で貴族の三男として転生していた しかし、生まれた家は力主義を掲げる辺境伯家。自分の力を上手く使えない主人公は、追放されてしまう事に。しかも、追放先は誰も足を踏み入れようとはしない場所だった これは、転生者である主人公が最凶の地で、国よりも最強の街を起こす物語である *基本は1日空けて更新したいと思っています。連日更新をする場合もありますので、よろしくお願いします

処理中です...