貧弱の英雄

カタナヅキ

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グマグ火山決戦編

第375話 戦力半減

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――レッドゴーレムの大群との戦闘後、討伐隊は負傷者の治療のために今夜は行軍を中断し、負傷者の治療に専念する。幸いにもナイの適切な処置のお陰で怪我人の治療は済んだが、あまり良い状況ではない。


「四人とも碌に戦える状態じゃありません。破片が内部にまで食い込んだせいで体内も傷ついています……今の所は火傷は収まってきていますけど、完全に動けるようになるには2、3日は掛かります」
「そうか……」
「他の人たちも酷い状態ですけど、明日には動けるぐらいには回復できると思います」
「分かった、お前のお陰で助かった。礼を言うぞ、ナイ」


怪我人の治療を終えたナイに対してバッシュは言葉とは裏腹に酷く落ち込んだ様子だった。この状況下で副団長が二名、更に黄金級冒険者を二名も戦えないのは正直に言って最悪な状況だった。

よりにもよって討伐隊の中でも指折りの戦力が失われ、これでは討伐隊の戦力は半減した。だが、今から王都から援軍を派遣してもらう余裕もない。万が一にも王都に危機が迫った時を考慮すればこれ以上に王都からの戦力を割くわけにはいかない。

不幸中の幸いというべきか、四人以外の被害を受けた者達はナイの治療によって明日までには回復する。しかし、運が悪い事にナイが用意していた聖属性の魔石の予備がもうわずかしか残っていない。

怪我人の治療のためにナイは回復魔法を連続で使用し、定期的に聖属性の魔石から魔力を吸収して回復させていた。そのせいでナイの手元に残された聖属性の魔石は一つだけであり、もしもナイが「強化術」や「再生術」を交互に一度ずつ発動させれば魔石は魔力を失うだろう。そうなればナイはもう戦う事が出来なくなる。


(こんな事ならもっと魔石の予備を持って来ればよかった。けど、アルトが用意してくれたのせいで他の魔石を持ってくる余裕なんてなかったしな……)


ナイは出発前にアルトが制作してくれた対大型ゴーレム用の魔道具を持参していた。この魔道具はアルトが精魂込めて作り出した魔道具であり、これを使えば大型ゴーレムに大打撃を与える事が出来ると本人は断言した。


『危険だと思ったら迷わずにこれを使ってくれ、効果は保証するよ』


アルトの言葉を思い出したナイは自分の荷物に視線を向け、本当にあんな物が大型ゴーレムに通用するのかと思ったが、とりあえずはバッシュにこれからの事を尋ねる。


「あの……これからどうするつもりですか?」
「……引き返す事は出来ない、作戦通りに明日には火山へ向かう」
「でも、四人は動ける状態じゃありませんよ」
「分かっている。まずは安全地帯を確保した後、ドリス達は残して我々だけで火山に向かう」


ナイの言葉を聞いてもバッシュは作戦を変更せず、予定通りに火山に出現した大型ゴーレムの討伐を実行するという。戦力が半減した状態で火山に向かうのは危険だが、その事はバッシュも重々承知していた。

ここで引き返した所で状況が悪化する事は目に見えており、もう討伐隊に引き返す選択肢はない。だからといって勝ち目がない戦いに挑むつもりもなく、バッシュはナイに告げた。


「ドリスとリンの代理として明日からはテン指導官とリンダに二人の部隊を任せる。そしてナイ、お前も隊長として部隊を引き連れてもらうぞ」
「えっ!?」
「悪いが拒否は認めない、この状況ではお前以外に任せられる人間はいない……部隊といっても指揮経験がないお前に無理をさせるつもりはない。ヒイロとミイナ、それにリーナの事は任せたぞ」
「ええっ!?」


ドリスとリンの代わりにテンとリンダを二人の代理に立てるのは分かるが、どうして自分が指揮を執るように命じられたのかとナイは戸惑う。

現役の王国騎士(見習い)のヒイロやミイナ、黄金級冒険者であるリーナ、この三人と比べたらナイは何の役職もない一般人である。しかし、バッシュは既に三人に話を通している事を伝えた。


「三人とも、お前が指揮を執る事に依存はない。お前が今から隊長だ」
「な、何で?」
「単純にヒイロとミイナはお前のように指揮をした経験が乏しく、リーナも単独で活動する事が多かったら他の人間の指揮を上手くできる自信がないと言っていた。だが、怪我の治療を行う時のお前の指示は適切だった。それを考慮して隊長に相応しいのはお前だろう」
「そ、そう言われても……あの時は治療に夢中だっただけですから」
「頼む、お前以外に任せられる人間はいないんだ」
「うっ……わ、分かりました。頑張ります」


バッシュの言葉にナイは断る事が出来ず、仕方なく承諾した。自分が他の人間に指示を出しながら上手く戦えるのか不安はあったが、今は泣き言を言う暇はない。

明日に備えてナイも身体を休めるためにバッシュに一礼して幕舎を離れると、不意に見覚えのある人物が外で待っている事に気付く。それは先日に試合で戦ったリーナだった。
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