貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
365 / 1,110
旋斧の秘密

第355話 控室にて……

しおりを挟む
――ナイ達が馬車に乗って闘技場に向かい始めた頃、他の人間は闘技場の貴賓席にて待機していた。多忙の身でありながら国王もバッシュも観戦のために訪れ、他にも闘技場の管理者であるアッシュ、銀狼騎士団の副団長のリン、黒狼騎士団の副団長のドリスの姿もあった。

これだけの面子が集まると貴賓席の圧も凄まじく、一般人ならば近づく事もおこがましい。そもそも今回に限っては貴賓席は全ての席が貸し切られており、誰も入る事はできない。


「陛下、お待たせしました」
「宰相……お主も来たのか」
「当然ではありませぬか。しかし、こんな時に闘技場で試合を観戦とは……あまり感心しませんな」
「すまぬ、だがどうしても儂の目で見極めたいのだ」


シン宰相も現れると彼は大型ゴーレムの対処がまだ決まっていないというのに国王が闘技場に居る事を咎めるが、国王としてはどうしても今回の試合は自分の目で確かめたかった。

国王は三人の息子を愛しており、アルトだけは他の二人と違って正妻の子供ではないが、国王は決して差別はせず、むしろ一番に気にかけていたつもりだった。



――アルトは幼少期から才能豊かな子供であり、上の二人にも勝る才覚があった。しかし、側室の子である彼を優遇すると家臣達があらぬ疑いをかけるため、表向きは国王はアルトとの接触を避けていた。

しかし、アルトは他の二人と違って小さい時から好奇心旺盛で自分が興味を抱いた物は調べつくさないと気が済まない性質であった。アルトは読み書きが出来る様になると、なんと彼は王城内の書庫に赴き、毎日の様に本を読み漁る。

たった一年ほどでアルトは書庫にある本を読み尽くし、子供でありながらありとあらゆる知識を身に付けた彼は凄かった。彼は自分が得た知識を利用して様々な事を行い、その度に他の者に迷惑を掛けたりもしたが、逆に人のために役立つ事もあった。

魔物の資料を読んだ時は彼は資料の内容が正しいのかを確かめるために城を抜け出し、冒険者を雇って魔物の観察を行った事もある。王子の身でありながら冒険者の護衛があるとはいえ、外に抜け出した事に対しては流石に国王も見過ごせずに叱りつけたが、アルトはへこたれずに自分の知識の内容が正しいのかどうかを確かめる。

そんな彼が運命の出会いをしたのはハマーンと出会った事であり、アルトの誕生日のために国王はこの国一番の鍛冶師と有名だったハマーンを呼び出してアルトのために玩具を製作させる。

この玩具は魔道具のように魔石を利用されていた事もあり、アルトは非常に気に入った。そしてハマーンにあろう事か弟子入りして彼の店にまで乗り込む。国王は最初はそれを止めようとしたが、結局はアルトはハマーンから技術の基礎を教わった。



ハマーンとの出会いの後、アルトは魔道具職人を目指して自分で工作を行い、遂には国王に頼み込んで研究室を作り出して貰う。いくら王子の頼みといっても研究室まで用意するなど甘やかしすぎだと思われたが、実は彼の他にもう一人研究室を欲する者がいた。

その人物こそ国内には3人しか存在しない最後の魔導士である「イリア」と呼ばれる少女であり、彼女は魔導士であると同時に優秀な薬師だった。彼女はアルトと何故か気が合い、二人は国王に研究室を作る許可を求める。

国王は悩んだ末に仕方なく研究室を作り出す事を許可したが、もしも半年以内に何の成果もあげなければ研究室は封鎖する事を伝えた。この条件ならばアルトもイリアも諦めてくれるだろうと思ったが、彼女達は半年どころか一か月もせずに成果を上げた。



二人が最初に作り上げたのは驚くべき事に「栄養剤」であり、数種類の野草と一角兎の角のような滋養強壮の効果を持つ素材を集め、栄養剤を作り上げた。この栄養剤は効果が高く、毎日のように激しい訓練で忙しい兵士から人気を集めた。

王都に勤務する兵士達は毎日のように厳しい訓練を課せられ、中には身体を壊す者もいた。そんな人たちのためにアルトとイリアは疲れが取れるだけではなく、体力も身に着けやすくなる栄養剤を生み出す。

この栄養剤を飲んだ兵士達は実際に疲れが抜け、以前よりも体力が身に着けやすくなった。そのお陰で王都の兵士達は訓練に励み、兵士の質は向上した。これは立派な功績を上げたと言えるため、流石の国王も認めた



――実際の所は栄養剤の人気が高まると、アルトとイリアは研究室の存在を正式に認めなければもう栄養剤を作らないと国王に告げた。もしも研究室の存在を認めなければ栄養剤は兵士の元には渡らず、その原因を作り出した国王は当然だが兵士達に恨まれる。



王都中の兵士から恨みを抱かれる事を恐れた国王は仕方なく研究室の存在を認める事しか出来ず、アルトとイリアは無事に研究室を手に入れた。このように国王は昔からよくアルトに頭を悩まされていた。




※おまけ

アルト「これが欲しければ研究室を認めてください」( ゚Д゚)ノ栄養剤
イリア「ふふふ……」('ω')
国王「くっ……卑怯な!!」(;´・ω・)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる

農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」 そんな言葉から始まった異世界召喚。 呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!? そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう! このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。 勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定 私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。 ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。 他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。 なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される

こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる 初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。 なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています こちらの作品も宜しければお願いします [イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]

『転生したらタコだった!?』~猛毒無双で元の姿を取り戻せ~

回復師
ファンタジー
 釣りに行ったその日の夕餉。食事中に異変に気付いた時にはもう手遅れだった。俺は16歳であっけなく死んでしまったらしい……死因は蛸の毒。調理中に指を噛まれたのと、生で刺身にして食ったのがまずかったらしい。運命神とやらが救済処置として、異世界に転生してくれる事になったのだが……運のない俺は、女神のスキル運命ルーレットに挑戦するが悉く外れを引く。

処理中です...