貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
333 / 1,110
旋斧の秘密

第323話 魔剣の危険性

しおりを挟む
「ナイ君、さっき君はこれを壊す時にどの程度の力を込めたんだい?」
「力はそんなに込めてないよ。多分、普通に剣を振る時よりも手加減はしていたと思う」


ナイは鎧人形に切りかかった時、初めて岩砕剣の能力を攻撃の際に使用するため、敢えて力を抜いて攻撃を仕掛けた。攻撃の際に地属性の魔力を送り込む事に集中していたため、今回はそれほど力を込めずに剣を振ったつもりだった。

だが、ナイは決して本気を出して振り抜いたではないにも関わらず、岩砕剣は地属性の魔力を帯びた瞬間に凄まじい威力を発揮し、あろう事か鎧人形を真っ二つに切ってしまった。

軽く振っただけで鋼鉄製の鎧人形を破壊する程の威力を引き出す事ができるということは、普通の人間でも地属性の魔力を扱えれば誰でも鋼鉄程度の鎧を纏った相手ならば切り裂ける事を意味している。


「この岩砕剣は能力が危険過ぎる……もしも地属性の魔力の適正を持つ人間が扱えばそれこそ凶器と化す。これを悪人が手にすれば……最悪の事態に陥るね」
「で、ですけど地属性の適正を持つ方なんて滅多にいませんし……」
「いや、忘れたのかい?魔操術を扱える奴ならナイの様に魔石から魔力を引き出して適性がない属性の魔力も操れるんだ。つまり、ある程度は魔操術を極めた人間ならこの岩砕剣は誰でも扱えるんだよ。まあ、あたしの場合はそんな器用な真似はできないけどね……」
「え、そうだったんですか?」


意外な事にナイよりも魔操術を身に付けた歴が長いテンは、彼の様に魔法腕輪を通して適性がない属性の魔石の魔力を引き出すなどはできない事が発覚した。彼女が扱えるのはあくまでも聖属性の魔力だけらしく、これまでに魔石を利用して他の属性の魔力を引き出した事はない。


「まあ、あたしの場合はともかく、魔操術を扱える奴等は何人もいるんだ。その中にはナイのように器用に地属性の魔石から魔力を引き出す奴もいるだろうね。そんな奴等に岩砕剣の事が知られたら……」
「非常に厄介な事になるね。きっと、岩砕剣を欲しがるだろう……鋼鉄製の鎧人形をここまでにするほどの力だ」


改めてナイ達は破壊された鎧人形に視線を向け、岩砕剣の恐ろしさを思い知る。剣の重量を増加させるという単純な能力だが、単純な故に扱いやすい。

仮にナイが旋斧で鎧人形を真っ二つにする場合は剛力を発動させなければならない。つまり、先ほどの岩砕剣の攻撃はナイが剛力を発動させた状態の攻撃と同等の威力がある事を意味する。もしも地属性の魔力をより注ぎ込めば攻撃の威力は更に跳ね上がる事は確実だった。


「この岩砕剣……持ち歩くのは危険だと思う」
「ああ、残念だがこれは大切に保管しておいた方が良いね」
「勿体ないけど、仕方がないね……こいつは人の手には余る代物だよ」
「クゥ~ンッ……」


元々はナイが扱う訓練用の武器として求めた岩石剣だったが、まさか中身が魔剣だとは夢にも思わず、しかもその能力があまりにも危険過ぎた。

この岩砕剣の事は他の人間に知られる前に封じるのが一番だと判断され、残念ながらアルトが保管しようとした時、ここでナイは肝心な事を思い出す。


「あっ……でも、これが使えないとなるとリーナさんとの試合の時に何を使えばいんだろう?」
「えっ……そうだ、すっかり忘れていた!!そもそも岩石剣はナイ君が試合用のために使う武器として用意させたんじゃないか!!すまない、すぐに新しい武器を用意しないと……」
「リーナ?アッシュの娘の事かい?あんた、リーナと試合するつもりだったのかい?」
「実は……」


テンはナイがリーナと試合をする事を初めて知り、この際にナイはリーナとの試合を行う経緯を話す。リーナとの試合は本物の武器は使用せず、訓練用の武器で行う事を告げると、テンは納得したように頷く。


「なるほどね、そういう理由で武器を探していたのかい。けど、この剣以外であんたが扱えそうな武器なんて他に心当たりはないね……」
「そうですか……」
「今から土砂を張り付けて岩砕剣を元の状態に戻す?」
「いや……さっきのを見た限り、どうやら岩砕剣の能力は重量を変化させる事のようだ。つまり、土砂を練り固める能力はない。この剣を封印した人間は恐らくは地属性の魔法の使い手だったんだろう。きっと魔法の力で岩砕剣の刃に土砂を練り固めて偽装していたんだ」
「どうしてそんな事を……」
「きっと、他の人がこの剣を悪用しない様にしていたんでしょうね。まさかこんな岩石を取り付けたような武器を誰も魔剣だとは思いもしませんし……」
「確かに怪しすぎて誰も使わない」


岩砕剣が最初は岩石のように圧縮した土砂に練り固められていたのは岩砕剣を封じた人間がいる事を意味しており、前に岩砕剣を所有していた人間はこの魔剣の危険性を知った上で封印を施したとしか考えられなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

ステータス画面がバグったのでとりあえず叩きます!!

カタナヅキ
ファンタジー
ステータ画面は防御魔法?あらゆる攻撃を画面で防ぐ異色の魔術師の物語!! 祖父の遺言で魔女が暮らす森に訪れた少年「ナオ」は一冊の魔導書を渡される。その魔導書はかつて異界から訪れたという人間が書き記した代物であり、ナオは魔導書を読み解くと視界に「ステータス画面」なる物が現れた。だが、何故か画面に表示されている文字は無茶苦茶な羅列で解読ができず、折角覚えた魔法なのに使い道に悩んだナオはある方法を思いつく。 「よし、とりあえず叩いてみよう!!」 ステータス画面を掴んでナオは悪党や魔物を相手に叩き付け、時には攻撃を防ぐ防具として利用する。世界でただ一人の「ステータス画面」の誤った使い方で彼は成り上がる。 ※ステータスウィンドウで殴る、防ぐ、空を飛ぶ異色のファンタジー!!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

半神の守護者

ぴっさま
ファンタジー
ロッドは何の力も無い少年だったが、異世界の創造神の血縁者だった。 超能力を手に入れたロッドは前世のペット、忠実な従者をお供に世界の守護者として邪神に立ち向かう。 〜概要〜 臨時パーティーにオークの群れの中に取り残されたロッドは、不思議な生き物に助けられこの世界の神と出会う。 実は神の遠い血縁者でこの世界の守護を頼まれたロッドは承諾し、通常では得られない超能力を得る。 そして魂の絆で結ばれたユニークモンスターのペット、従者のホムンクルスの少女を供にした旅が始まる。 ■注記 本作品のメインはファンタジー世界においての超能力の行使になります。 他サイトにも投稿中

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

転生したら最強種の竜人かよ~目立ちたくないので種族隠して学院へ通います~

ゆる弥
ファンタジー
強さをひた隠しにして学院の入学試験を受けるが、強すぎて隠し通せておらず、逆に目立ってしまう。 コイツは何かがおかしい。 本人は気が付かず隠しているが、周りは気付き始める。 目立ちたくないのに国の最高戦力に祭り上げられてしまう可哀想な男の話。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...