貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
329 / 1,110
旋斧の秘密

第319話 居合

しおりを挟む
「私のから逃れられると思うな!!」
「くっ!?」


リンはどうやら脚力強化系の技能の「俊足」を習得しているらしく、まだナイも覚えていない技能だった。まるで獣人族並の身軽さと速度でリンはナイに接近すると、刃を放つ。


「はっ!!」
「うわっ!?」


金属音が鳴り響き、ナイの手にしていた岩石剣に僅かながら傷跡が走った。ミイナの全力の一撃を受けても掠り傷さえ負わなかった岩石剣だが、リンの一撃の鋭さに誰もが驚く。

どうにか岩石剣を盾代わりにして攻撃を防ぐ事に成功したが、即座にリンは後方へ跳ぶと大太刀を鞘に戻し、再び距離を詰めてくる。その様子を見てナイは大剣を構えて彼女の攻撃に備える。


「どうした!?防ぐだけでは私に勝てないぞ!!」
「くくっ!?」
「リン副団長、やり過ぎです!!」
「訓練だって忘れてる……?」
「ま、まずいですよ!!」


リンはナイが岩石剣を扱うための訓練である事を忘れているのか、先ほどから全力で攻撃を繰り出している。それを見ていたヒイロとミイナは声を掛けるが、彼女には聞こえていない様子だった。


(このままだとまずい!!何とか対抗手段を考えないと……でも、どうすればいいんだ!?)


攻撃を受けながらもナイはリンの様子を伺い、彼女は必ず攻撃を仕掛ける際は大太刀を鞘に戻した状態から一気に引き抜く事に気付く。これまでの攻撃も全て鞘から刃を抜く動作でしか攻撃をしていない事を思い出す。


(もしかしたら……よし、やるしかない!!)


ナイはリンが攻撃を受けて大太刀を戻す際、彼女が距離を取ろうと後方へ移動した瞬間を狙い、攻撃を仕掛ける事に決めた。もしもリンが攻撃を仕掛ける際に大太刀を必ず鞘に戻さなければならないのであれば、その鞘に刃を戻す前の段階で攻撃を仕掛ければ倒せる可能性もある。

幾度もリンの鋭い斬撃を受けた事で岩石剣の表面にはいくつもの傷跡が残り、これ以上に攻撃を受ければ武器が持たない可能性もあった。それを考慮してナイはこれ以上に攻撃を受ける前に仕掛ける事にした。


「そろそろ終わらせるぞ……はあっ!!」
「っ……!!」


今日一番の強烈な斬撃が岩石剣に的中し、この際にナイは攻撃を受けて踏ん張りながらもリンの様子を伺う。彼女は予想通り、後ろに跳んで大太刀に鞘を戻そうとしていた。


(ここしかない!!)


ナイは剛力を発動させ、脚力を強化するとリンの元へ飛び込む。普通の人間からすればナイがまるで瞬間移動したかのようにリンに近付いた様に見えただろう。


「はああっ……!?」
「――かかったな」


しかし、ナイが距離を詰めてきた瞬間、リンは口元に笑みを浮かべながら鞘に戻そうとしていたはずの大太刀を右手のみで上段に構えていた。左手は鞘を抑えた状態であるため、ナイは最初は彼女が鞘に刃を戻そうとしていたように錯覚していた。

リンは先ほどから攻撃を繰り返しては鞘に刃を戻す動作を見せつけたのは、ナイを近づかせるための罠であり、最初から彼女はナイが接近してくるのを狙っていた。自分が攻撃を仕掛ける際は必ず鞘に刃を戻すと思わせ、それに嵌まったナイはまんまとリンと距離を詰める。


「楽しめたぞ、少年!!」
「ぐはぁっ!?」
「ナイ君!?」
「ナイ!?」
「そんなっ!?」


振り下ろされた大太刀の柄がナイの頭部に的中し、その一撃によってナイの身体は傾く。その様子を見ていた者達は悲鳴を上げるが、ここで勝利を確信していたリンは違和感を抱く。


(何だ、この感触は……!?)


リンはナイの頭を打ちこんだ際、異様な硬さを感じた。まるで岩石に対して柄を叩き込んだような感覚に陥り、石頭という表現では生ぬるいほどにナイの頭部は硬かった。

更に頭部に衝撃を受けたはずのナイは頭から血を流しながらも目を見開き、リンに向けて岩石剣を振りかざす。それを見たリンは目を見開き、まだ反撃を諦めていないナイに驚く。


「がああっ!!」
「くっ……このぉっ!!」
「がふっ!?」


岩石剣を振り払う前に咄嗟にリンは左手の鞘を利用し、彼の顎に叩き込む。二度も頭部に衝撃を受けたナイは白目を剥くが、それでも彼の闘争本能は身体を動かした。


「あああっ!!」
「ぐはぁっ!?」
「やった!?」
「そんな、まさか副団長が!?」
「有り得ない!!」


遂にナイの振り払った岩石剣がリンに的中し、彼女は派手に吹き飛ばされた。その様子を見ていたヒイロとミイナは声を上げ、団員達は信じられない表情を浮かべる。

しかし、吹き飛ばされたと思われたリンは身体を転ばせながらも闘技台へと踏み止まり、彼女は苦痛の表情を浮かべながらも脇腹を抑えて立ち上がる。そして異様な形にへし曲がった鞘に視線を向け、冷や汗を流す。


(危なかった……咄嗟に鞘を盾にしたお陰で助かった)


リンは攻撃が当たる寸前、鞘を犠牲にして自分も吹き飛ばされる方向に向けて跳んでいた事が幸いし、ナイの一撃をまともに喰らわずに済んだ。もしも一瞬でも判断が遅かったら彼女は間違いなく闘技台の外まで飛ばされていただろう。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

【書籍化決定】俗世から離れてのんびり暮らしていたおっさんなのに、俺が書の守護者って何かの間違いじゃないですか?

歩く魚
ファンタジー
幼い頃に迫害され、一人孤独に山で暮らすようになったジオ・プライム。 それから数十年が経ち、気づけば38歳。 のんびりとした生活はこの上ない幸せで満たされていた。 しかしーー 「も、もう一度聞いて良いですか? ジオ・プライムさん、あなたはこの死の山に二十五年間も住んでいるんですか?」 突然の来訪者によると、この山は人間が住める山ではなく、彼は世間では「書の守護者」と呼ばれ都市伝説のような存在になっていた。 これは、自分のことを弱いと勘違いしているダジャレ好きのおっさんが、人々を導き、温かさを思い出す物語。 ※書籍化のため更新をストップします。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

【完結】神スキル拡大解釈で底辺パーティから成り上がります!

まにゅまにゅ
ファンタジー
平均レベルの低い底辺パーティ『龍炎光牙《りゅうえんこうが》』はオーク一匹倒すのにも命懸けで注目もされていないどこにでもでもいる冒険者たちのチームだった。 そんなある日ようやく資金も貯まり、神殿でお金を払って恩恵《ギフト》を授かるとその恩恵《ギフト》スキルは『拡大解釈』というもの。 その効果は魔法やスキルの内容を拡大解釈し、別の効果を引き起こせる、という神スキルだった。その拡大解釈により色んなものを回復《ヒール》で治したり強化《ブースト》で獲得経験値を増やしたりととんでもない効果を発揮する! 底辺パーティ『龍炎光牙』の大躍進が始まる! 第16回ファンタジー大賞奨励賞受賞作です。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

明日を信じて生きていきます~異世界に転生した俺はのんびり暮らします~

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生した主人公は、新たな冒険が待っていることを知りながらも、のんびりとした暮らしを選ぶことに決めました。 彼は明日を信じて、異世界での新しい生活を楽しむ決意を固めました。 最初の仲間たちと共に、未知の地での平穏な冒険が繰り広げられます。 一種の童話感覚で物語は語られます。 童話小説を読む感じで一読頂けると幸いです

処理中です...