貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
326 / 1,110
旋斧の秘密

第316話 岩石剣

しおりを挟む
「ああ、構わない。壊しても僕が責任を取ろう」
「分かった、なら全力で行く」
「ちょっ……!?」


ミイナはアルトの言葉を聞いて頷くと、如意斧を横向きに構える。その様子を見ていた他の者達は慌てて引き下がると、彼女は斧を振り回し始める。

回転する度に遠心力が発生して速度と威力が上昇し、十分に加速したと思われるとミイナはナイが構えている岩石剣に向けて刃を放つ。それに対してナイは岩石剣を地面に突き刺した状態で受けた。


「にゃあっ」
「くうっ!?」
「た、耐えた!?あの一撃を……!?」


遠心力も加わって放たれたミイナの一撃をナイは岩石剣で受け止めるが、結果からいえば如意斧を以てしても岩石剣を破壊するには至らず、それどころか掠り傷すら付けられなかった。

ミイナの腕力ならば本物の岩石であろうと破壊する事は出来るが、岩石剣を構成している岩石は普通の岩石ではないらしく、それを見たアルトは納得したように頷く。


「ミイナの力でも壊れるどころか掠り傷一つもないなんて……もしかしたらこれは魔剣の一種かもしれない」
「ええっ!?これ、魔剣なんですか?」
「そう考えなければミイナの一撃を受けて壊れないはずがない。だが、今の所は異常に硬い武器という感じにしか思えないな……」
「テン指導官に直接聞かれた方が良いのではないですか?」


リンの言葉を聞いてアルトは頷き、訓練の際にいつも大剣を使用していたテンならば何か知っている可能性はある。後で彼女に話を聞く事を決め、ナイはリーナとの試合の前に大剣に慣れるために練習を行う必要があった。


「よし、誰か相手をしてくれない?この剣の重さに慣れておきたいし……」
「そういう事なら私が……」
「いや、ここは我々が相手をしよう」
「えっ!?」


ナイの言葉を聞いてミイナが名乗り上げようとしたが、ここでリンが口を挟む。彼女は同じ王国騎士とはいえ、リノ王子の配下である。そんな彼女がどうしてナイの協力を申し込むのかと驚かれるが、リンは部下達に振り返った。


「丁度こちらも練習相手を探していたんだ。お前達、相手をしてやれ」
「えっ!?我々が、ですか?」
「ああ、それで構わないですか?アルト王子?」
「ナイ君が問題ないなら僕は文句はないよ」
「はあっ……じゃあ、お願いしてもいいですか?」


リンの言葉を聞いてアルトはナイに確認すると、ナイとしてはヒイロとミイナ以外の王国騎士と戦う機会は今までなかったため、この際に他の騎士団の王国騎士がどれほどの実力を確かめたいと思っていた。

銀狼騎士団の団員達はナイを見て冷や汗を流し、彼の実力は既に知れ渡っている。あのガーゴイル亜種やミノタウロスを打ち倒し、更には腕相撲とはいえアッシュ公爵に勝利する程の男だと噂は広がっており、決して油断できぬ相手である。


「で、では私から参りましょう」
「よろしくお願いします」
「よし、では試合はあそこで行おう。あっちの方が見やすいだろうしね」


訓練場に存在する闘技台をアルトは指差すと、全員が闘技台へ向かい、そしてナイと銀狼騎士団の団員が闘技台の上へあがり込む。ちなみに銀狼騎士団の団員は女性の騎士だけで構成されている。

どうして女性の騎士のみで構成されているのかは不明だが、巷の噂では彼女達の何人かは銀狼騎士団の団長であるリノと深い関係だと言われている。最もあくまでも噂にしか過ぎず、真相は不明だった。


「試合形式はどうした方が良い?相手に有効打を与えた方の勝利でいいかい?」
「分かりました。二人とも、聞いていたな?言っておくが訓練とはいえ、互いに本気で戦うのだぞ」
「は、はい!!」
「了解しました!!」


ナイと女性の騎士は向かい合うと、ここでナイは様子を観察し、どのように仕掛けるのかを考える。相手は仮にも王国騎士であり、油断はできない。


(ヒイロやミイナでも王国騎士見習いという事はこの人はもっと強いかも……武器は魔道具じゃないみたいけど、気を付けないと)


ヒイロとミイナの実力を知っているだけにナイは慎重に動き、相手の出方を伺う。だが、何故か女性の騎士は緊張した様子で自分からは仕掛けようとしない。


(あれ?この人……いや、油断したら駄目だ)


自分を見て警戒する女性の騎士を見てナイは疑問を抱くが、余計な考えを捨ててナイは先に仕掛ける事にした。


「はああっ!!」
「くぅっ!?」


一気に踏み込むとナイは岩石剣を振りかざし、この際にテンに教わった全身の筋力を生かした一撃を放つ。腕だけの力で振るのではなく、全身の筋力を稼働して岩石剣を振り抜く。

ナイの全力で放たれた岩石剣に対して女性の騎士は咄嗟に剣と盾を重ねて受け止めようとしたが、ナイの全力の一撃を受けた瞬間に吹っ飛び、闘技台から落ちてしまう。


「きゃああああっ!?」
「えっ……!?」
「しまった、ナイ君やり過ぎだぞ!?」
「大丈夫か!?」


吹き飛んだ女性の騎士を見てナイは唖然とするが、慌てて闘技台の下に存在した者達が女性の騎士の介抱を行う。彼女は吹き飛ばされた拍子で気絶したらしく、その様子を見ていたリンは驚愕した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

S級冒険者の子どもが進む道

干支猫
ファンタジー
【12/26完結】 とある小さな村、元冒険者の両親の下に生まれた子、ヨハン。 父親譲りの剣の才能に母親譲りの魔法の才能は両親の想定の遥か上をいく。 そうして王都の冒険者学校に入学を決め、出会った仲間と様々な学生生活を送っていった。 その中で魔族の存在にエルフの歴史を知る。そして魔王の復活を聞いた。 魔王とはいったい? ※感想に盛大なネタバレがあるので閲覧の際はご注意ください。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

処理中です...