貧弱の英雄

カタナヅキ

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旋斧の秘密

閑話 屋敷での生活

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――白猫亭からアルトの屋敷に移り住んでからナイの生活は一変した。彼が借りている部屋は白猫亭で借りていた部屋の何倍も広く、どの家具も高級品で最初の頃は落ち着かなかった。

ナイが部屋の中で一番気に入っているのはベッドであり、白猫亭で寝ていたベッドよりも大きくて寝心地も良かった。だが、ある日にナイは妙に柔らかな感触を顔に味わう。


「う~ん……あれ、抱き枕なんてあったっけ?」
「ああんっ……ナイくぅんっ」
「えっ!?」


目を覚ますとナイは抱き枕だと思い込んで抱きしめていたのはモモだった。彼女は何故か寝間着姿で一緒のベッドに眠っており、どうして彼女が一緒に寝ているのかとナイは戸惑う。


(どうしてモモがここに!?昨日は確かに俺一人だったのに……まさか、部屋を間違えた!?)


モモとヒナの部屋はナイの隣であり、彼女達は一緒の部屋に住んでいる。理由としてはモモが広すぎる部屋では落ち着かないという理由から、ヒナも一緒に部屋に暮らすように頼んだからである。

ちなみにテンは白猫亭で寝泊まりしており、本格的な改築を行うまでは白猫亭で過ごすらしい。彼女にとっては今の白猫亭は思い入れのある宿であり、せめて改築されるまでは今の宿で過ごしたいらしい。


(と、とりあえず離れないと……って、力強い!?)


ナイに抱きついたままモモは眠りこけ、冗談抜きで赤毛熊並の怪力で抱きしめて来る。


「ううんっ……駄目だよ。ナイ君はミニスカよりも短パンが似合うよ」
「ちょ、どんな夢見て……むぐぐっ」


寝言を呟きながらモモはナイに抱きしめ、もしも使用人が起こしに来たら誤解されかねない。ナイはどうにか抜け出そうとすると、部屋の扉が開け開かれた。


「ナイ君、こっちにモモが来てない……えっ!?」
「むぅうっ!?」
「ふあっ……おはよう、ヒイロちゃん」


ヒナは部屋に入ると一緒のベッドに横たわるナイとモモを見て固まり、彼女の声を聞いて目を覚ましたモモは起き上がる。彼女は瞼を擦ると、自分がナイの部屋にいることに気が付く。


「あれ?ここって……ナ、ナイ君の部屋!?」
「あ、貴方達……何時の間にそんな深い仲に!?」
「ちょ、誤解だから!?」


モモとナイが自分の知らぬうちに一緒に寝る仲になっていたのかとヒナは衝撃を受けるが、ナイは慌てて誤解を解く――





――しばらくした後、どうにか誤解を解けたナイは早朝の訓練を行う。屋敷の敷地内をビャクと共に走り回り、汗を流すと風呂に入ることにした。


「朝から風呂に入れるなんて凄いよな……いつも水浴びで済ませていたから違和感あるな」
「クゥ~ンッ」
「あ、ビャクはご飯を先に食べてていいよ」
「ウォンッ!!」


早朝のランニングを終えた後、ビャクと別れたナイは風呂に入る事にした。宿に泊まっていた時も汗を流した時は水浴びで済ませていたが、アルトの屋敷は風呂があるので入ることにした。


「さてと……」


着替えの準備を行った後、ナイは風呂に入ろうと更衣室の扉を開く。すると、そこには下着姿のヒイロとミイナの姿があり、風呂上りなのか美味しそうに牛乳を飲む。


「ぷはぁっ!!美味しいですね!!」
「珈琲は嫌いだけど、王子の作った牛乳と珈琲と混ぜ合わせたこの飲み物だけは好き」
「ええ、そうですね……えっ!?」
「……えっ!?」


扉を開いた途端、ナイとヒイロとミイナは視線が合い、ヒイロは顔を真っ赤にして悲鳴を上げる。


「い、いやぁあああっ!?」
「……いやんっ」
「ご、ごめん!?」


慌ててナイは更衣室の扉を閉じると、とんでもないことを仕出かしたと思う反面、どうして二人が風呂場にいるのか戸惑う。


「ど、どうして二人がここに!?昨日は騎士寮に戻ったはずじゃ……」
『お城の風呂より、王子の屋敷の風呂の方が人が少なくてゆっくり入れるから戻ってきた』
『ミイナ!?何で冷静に話してるんですか!!の、覗きなんてナイさんの変態!!』
「ご、誤解だよ!?扉には入浴中の表札が無かったから……」


アルトの風呂場は誰かが風呂場に入る時は「入浴中」の表札をかけられているのだが、ミイナとヒイロはそれを忘れていたらしい。


『ヒイロ、表札を裏返すの忘れてたでしょ?』
『わ、私のせいですか!?ミイナだって忘れていたくせに!!』
『私は大人だから子供のナイに見られても恥ずかしくはない』
『嘘つかないでください!!頬を赤らめてるじゃないですよ!!』
『あ、赤くない……』
「ううっ……テンさんに知られたら殺される」


平静を装っていたミイナも実際は恥ずかしくかったらしく、一方でナイは今回の一件をテンに知られたらと考えるだけで顔色が青くなる。モモもヒナもミイナもテンは実の娘のように可愛がっており、彼女に知られたらどんな目に遭うのか分からない。そんなナイが困っているのを察したのか、扉の裏側からミイナが話しかける。


『ナイ……三日分のおやつを私達にくれるなら許してあげる』
「ほ、本当に?」
『ちょっと!?王国騎士が裏取引しないでください!!』


ミイナの提案にナイは受け入れざるを得ず、当分の間はナイのおやつは彼女達に奪われた――





※本編に描かれていないだけで日常ではラブコメみたいな展開を繰り広げています。
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