貧弱の英雄

カタナヅキ

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旋斧の秘密

第309話 大迷宮

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「確かに二人の言う通り、大迷宮は非常に危険な場所だ。油断すれば一流の冒険者でも命を落としかねない危険地帯だからね。だけど、大迷宮ならば僕の求める素材が手に入る可能性もあるんだ」
「いけません!!いくら王子様の命令でも大迷宮になんて行かせませんよ」
「だけど兄上たちは大迷宮にちょくちょく赴いているじゃないか。僕が行く事は禁じられてはいないよ」
「バッシュ王子とリノ王子は訓練の一環だから許されている。でも、私達だけじゃ王子を守り切れない」
「大丈夫だ、君達二人は優秀な騎士だよ。それに僕達には心強い味方がいるじゃないか。ねえ、ナイ君!?」
「ええっ!?」


アルトは頑なに大迷宮に向かうつもりらしく、ナイの肩を掴んで同行を促す。戦力的に考えればこの4人の中で魔物に対抗できる一番の力を持っているのはナイである事は確かだが、それでもヒイロとミイナは納得しない。


「いくらナイさんが強いと言っても大迷宮では何が起きるか分かりません!!敵は魔物だけじゃないんです、罠や他の参加者にも気を配らないといけないんですよ!?」
「え?他の参加者って……どういう意味?」
「大迷宮内では基本的に参加者同士の争い事は禁じられているが、参加者の中には大迷宮の素材ではなく、大迷宮に入り込んだ人間を狙う輩もいるんだよ。つまり、盗賊の類に狙われる可能性もある」
「そんな危険な場所なの!?」
「大迷宮は無法地帯……仮に人が殺されたとしてもそれが他の人間の仕業か、魔物の仕業なのか分からない。だから危険地帯として一般人の参加は固く禁じられている」


大迷宮内では参加者同士の争いも行われるらしく、参加者の中には積極的に他の参加者を狙う盗賊などの輩も混じっていた。しかも大迷宮内で殺された場合は遺体は魔物に食い散らされる可能性もあるため、決定的な証拠を掴まない限りは殺人を犯した人間を問い詰める事もできない。

話を聞けば聞く程に大迷宮がどれほど危険な場所なのかナイは恐れを抱くが、その一方でどうしてそんな危険地帯にも関わらずに参加者が後を絶えないのかをアルトは説明する。


「大迷宮は確かに危険な場所だ。下手をしたら命を落としかねない、だけど大迷宮でしか手に入らない貴重な素材も多い。だからこそ兄上たちも訓練と称して素材を回収して戻ってくるんだ」
「どうして王子様がわざわざそんな事を……」
「それはこの国の王族が騎士団を管理する立場の人間だからだよ。騎士団という強力な存在を抱えている以上、それを管理する人間も常に強く見せないといけない。僕も成人年齢を迎えたら正式に白狼騎士団の団長として活動しないといけない。いずれ、僕も大迷宮に挑む運命なのさ。なら、少し早めに大迷宮に挑んでその実態を把握するのもおかしくはないだろう?」
「そ、そうなんだ……」


バッシュとリノが定期的に王国騎士を率いて大迷宮に挑むのは王族としての務めでもあり、アルトも何時の日か王族の役目を果たすために大迷宮に挑む日が来る。それならば早めに大迷宮の存在を知っていても問題はないと言い張った。


「どうしても君達が行きたくないというのなら僕も諦めるよ。だけどね、これは好機でもあるんだ」
「好機?」
「僕の白狼騎士団は未だに騎士団として正式には認められていない。だからこそ他の騎士団と違って軽んじられている部分がある。だが、ここで僕達が大迷宮に挑んで無事に帰還する事が出来たら箔が付くと思うんだ」
「むうっ……」
「それは……一理あるかもしれません」


白狼騎士団が他の騎士団と比べても軽んじられている事に関しては団員であるヒイロもミイナも思う所があるらしく、アルトは自分のためだけではなく、白狼騎士団の名誉のためにも大迷宮に挑みたいことを告げる。


「勿論、僕も同行する以上は必ず役に立つよ。手始めに僕達だけでは戦力が足りないというのであれば人を雇おうと思う。冒険者ギルドに掛け合って優秀な冒険者を雇って案内役を頼もう」
「はあっ……分かりました。そこまで言うのならば王子様の言う通りにしましょう」
「それならテンにも協力してもらった方が良い……王子の方から話を通せば力を貸してくれる」
「あ、なるほど……テンさんが一緒なら心強いね」


道案内役の冒険者と元王国騎士であるテンが同行するのであれば非常に心強く、この二つの条件を呑むのならばナイ達も大迷宮に挑む事を賛成する事を伝えた。アルトはその条件を受け入れ、彼の方から話を通す事を約束した。


「分かった。冒険者とテン指導官には僕の方から頼んでおくよ。もしも双方が同意してくれたら大迷宮に挑んでくれるね?」
「はい、私達も覚悟を決めます」
「ちゃんと準備もしておかないと……」
「ビャクは一緒に付いて行ってもいいかな?きっと役立つと思うけど……」
「勿論、大歓迎さ」


ビャクの同行も許されたナイは文句はなく、後の事はアルトに任せた。そして彼は宣言通りに冒険者ギルドに掛け合い、優秀な冒険者を雇い、テンからも直接に話を伝えた――




――グマグ火山から撤退したマホはエルマと共に再調査の準備を整え、再び山頂へ向かおうとした。だが、マホ達が発見した横穴は崩れ去り、出入口が閉じてしまった。


「老師、穴が塞がっています。これでは内部に入る事は……」
「落ち着け、まずは火口を目指そう」
「火口、ですか?しかし、この熱量では……」


山頂に近付く程に熱が増しており、マホとエルマの装備ではこれ以上の熱量には耐え切れなかった。しかし、それを承知の上でマホは火口へ向かう事を告げる。


「あの怪物の正体を確かめなければならん……それに怪物が穴の中を掘り進んでいた理由、儂の勘が正しければ奴の狙いは火属性の魔石じゃ」
「魔石、ですか?」
「火山などの熱帯地帯では良質な火属性の魔石が採れる事はお主も知っておるな?そして先ほど穴を掘り進めていた謎のは地中に埋もれている魔石を喰らっておった」
「魔石を……?」


マホが風魔法で横穴の内部を探索した時、彼女は地中の中に埋もれている魔石を掘り起こし、それを巨人が貪る姿を確認した。実際に目で見たわけではないが、彼女の優れた探知能力によって巨人は確かに魔石を喰らっている様子を確認した。

巨人の目的が火属性の良質な魔石を得る事ならば熱量が蓄積される火口付近ならば更に上質な魔石を取りやすい。だからこそ火竜は火属性の魔石が生まれやすい火山を住処にしているのだが、もしも巨人が火竜のように火属性の魔石を餌とする存在ならば火口に向かうはずだった。


「マホよ、これから儂は飛行魔法を使用するぞ」
「飛行魔法を!?それはいけません、また倒れられますよ!!」
「一刻も争う事態かもしれん。お主も覚悟を決めろ!!」


マホの言葉にエルマは反対するが、普段のマホからは考えられない強い口調で怒鳴り付けて黙らせる。マホは無理を承知の上で飛行魔法を発動させようとした。



――飛行魔法とは風属性の魔法の中でも上級に位置する高難易度の魔法であり、少し前にマホが上空に浮き上がった「浮上《レビテーション》」の魔法も飛行魔法の一種である。

本来の飛行魔法はまずは「浮上」で上空に浮き上がった後、続けて風の魔力を発散させて移動を行う「風圧加速《ジェット》」で移動を行う。この風圧加速は大量の魔力を消費するため、熟練の魔術師でも力加減を誤れば大変な事態を引き起こす。



マホは後ろからエルマに抱きつかせると、彼女は意識を集中して自分とエルマの周りに風の魔力を纏う。この状態から浮上《レビテーション》の魔法を発動させ、一気に上空へ上昇した。


「よし、行くぞエルマよ……しっかりと儂に掴まっておれ」
「は、はい!!」
「風圧加速《ジェット》!!」


エルマを自分に抱きつかせると、マホは一方向に風の魔力を集中させ、凄まじい速度で移動を行う。マホとエルマは風の膜のような物に覆われ、そのまま火山の上空へと向かう。

火口付近は中腹や麓と比べても圧倒的な熱量が籠っているが、風の膜によって熱は遮断され、二人が高熱に苦しむ事はない。そして火口の上空に辿り着いたマホとエルマは驚くべき光景を目にしていた。


「何じゃ、あれは……!?」
「ま、まさか……!?」




――オァアアアアッ!!




火口に存在したのは全長が30メートル近くは存在する巨大な岩石であり、その岩石は人型で目元の部分は赤く光らせていた。岩石の巨人は火口の岩壁を掘り起こし、赤色に光り輝く鉱石を口元に含んでいた。

岩石の巨人を確認したマホとエルマは汗を流し、この汗の正体は決して火口による熱の影響ではない。岩石の巨人は口元に火属性の魔石の原石を含み、しばらくすると吐き出す。

吐き出された鉱石は色を失い、砕けた水晶のようにマグマの中に落ちていく。どうやら岩石の巨人は魔石の魔力を吸い上げているらしく、魔力が消失した鉱石は吐き出していた。


(馬鹿な……あれは、ゴーレムか!?)


マホは岩石の巨人の正体が「ゴーレム」と呼ばれる魔物だと判断するが、少なくともマホが知る限りでは通常種のゴーレムは体長はせいぜいが3~4メートルであるのに対し、彼女が視界にとらえたゴーレムはその10倍近くの大きさを誇る。

通常種のゴーレムは山岳地帯に生息する魔物だが、火山のような場所には滅多に住み着かない。有り得ない大きさの巨大ゴーレムを発見したマホは嫌な予感を覚え、エルマに告げた。


「エルマ、このまま王都へ引き返すぞ」
「老師!?ですが、それでは老師の身体が……」
「儂が倒れてもお主の意識があれば十分じゃ……行くぞ!!」


エルマの返事も着かえずにマホは飛行魔法で移動を行い、王都へと向かう。飛行魔法は肉体の負担が大きいが、今は自分の身体の事よりも王都に存在する国王に彼女は巨大ゴーレムの存在を知らせる必要があった――

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