貧弱の英雄

カタナヅキ

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旋斧の秘密

第304話 勝者は……

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(よし、発動できた!!)


迎撃の技能を発動する事に成功したナイはテンに初めてまともな一撃を与える事に成功し、若干感動を覚える。一方でテンの方は思いもよらぬ一撃で身体がふらつくが、すぐに意識を取り戻して攻撃を繰り出す。


「このっ……舐めんじゃないよ!!」
「まだまだ!!」


退魔刀を振り払おうとしてきたテンに対してナイは今度は跳躍の技能を発動させ、上空へと回避を行う。この時にも迎撃の技能を発動させ、テンが刃を振り抜いた瞬間にナイは彼女の右肩に蹴りを叩き込む。


「やああっ!!」
「ぐあっ……!?」


空中から蹴りを繰り出したナイはテンの右肩に叩き込むと、この際にテンは退魔刀を手放してしまう。地面に落ちた退魔刀を見てナイは勝利を確信しかけたが、即座にテンはナイの足を掴む。


「このぉおおおっ!!」
「うわあああっ!?」
「ひいいっ!?皆、伏せて!!」


テンは空中に浮かんでいたナイの足首を掴むと、そのまま彼を振り回す。回転する事に勢いが増していき、その様子を見てヒナは身体を伏せるように指示を出す。

十分に加速するとテンはナイを放り投げ、近くの樹木に叩きつける。この際にナイは背中に強烈な衝撃を受けて血反吐を吐き、一方でテンの方も限界を迎えたのか膝を着く。


「がはぁっ……!?」
「はあっ、はあっ……くそっ、流石に無理をし過ぎたかね」


どちらも肉体の限界を迎え、お互いに魔力が切れたのか白炎が消えてしまう。全身強化の反動で二人とも全身に筋肉痛が襲い掛かり、苦痛の表情を浮かべる。特に背中に損傷を負ったナイの方が状態が酷い。


(まずい、このままだと意識が……回復しないと)


ナイはここで魔法腕輪に視線を向け、聖属性の魔石を吸収して回復を計ろうとした。テンは聖属性の魔石を身に付けていないため、彼女が自力で回復する事は出来ない。

魔石から魔力を吸収した後、魔装術を駆使して肉体の再生を行う事ができればナイの勝利は確定だった。この日のためにナイは魔石を利用した鍛錬を行い、勝利は目前だった。


(まだ、戦える……早く回復しないと……あれ?)


だが、魔法腕輪から魔力を吸収しようとしたナイだったが、ここで違和感を感じとる。いくら魔石を吸収しようとしても反応がなく、疑問を抱いたナイは腕輪に視線を向けると、腕輪に嵌め込まれた魔石が色を失い、ただの水晶玉と化していた。


(あっ……まさか、魔力がもう……!?)


これまでの鍛錬で何時の間にかナイは魔石の魔力を使い切っていた事が判明し、それを知った途端にナイの緊張の糸が切れてしまい、意識を失う――





――完全に気絶したナイを見てテンは深いため息を吐き出し、まさか稽古のつもりが自分がここまで追い込まれるとは思いもしなかった。最初は彼女も本気で戦うつもりはなかったが、ナイの予想以上の力に手加減を忘れてしまった。


「やっと、気絶したのかい……たくっ、とんでもないガキだね」
「ちょっとテンさん!!やり過ぎよ!!」
「ナイ君、大丈夫!?」
「ウォンッ!!」


一部始終を見ていた他の者達がやっと動き出し、倒れているナイとテンの元へ向かう。ビャクは心配そうにナイを覗き込み、モモはナイを抱きかかえてすぐに治療を行う。


「待っててね、ナイ君……すぐに治してあげるからね」
「お~い、あたしを忘れてないかい……こっちもへとへとなんだよ」
「もう、テンさんは後回しよ。ナイ君の方が重傷なんだから!!」
「そ、そりゃないだろ……こっちも怪我してんだよ」


先にナイの治療を行うモモ達にテンは苦笑いを浮かべ、彼女はナイに蹴りつけられた腹部と右肩を抑え込む。どちら赤く腫れあがっており、テン自身もかなり追い詰められていた。


(現役を引退してからかなり時間が経過しているとはいえ、あたしを相手にここまで戦えるなんてね……バッシュ王子には悪いけど、やっぱりあの時の戦いは防魔の盾がなければバッシュ王子には勝ち目がなかったね)


改めてナイの強さを思い知ったテンは冷や汗を流し、仮に先日の試合にバッシュが防魔の盾を身に付けていなかったら、ナイは最初の一撃で彼に勝利していたと確信する。

防魔の盾は衝撃を受け流す機能があるのでバッシュはナイの攻撃を防ぎ切れたが、もしも普通の盾ならばナイの攻撃力ならば一撃で吹き飛ばしていただろう。先日のリンダの試合の時から気付いてはいたが、ナイの「腕力」は普通ではない。


(まさかこんな若造に追い込まれるなんてね……こいつは本格的に鍛えがいのありそうな奴を見つけたよ。もしかしたらこいつならあたしの剣技を……)


気絶しているナイの顔を見てテンは自分しか扱えなかった剣技を受け継げる相手を見つけたと思った。彼女が現役時代に使用し、彼女以外に誰も使えなかった最強の剣技をナイならば扱えると確信を抱く――





――その頃、グマグ火山にて調査に出向いたマホとエルマは謎の足跡を発見した。最初に足跡を見つけた時は火竜の物かと思われたが、足跡の大きさと形状から火竜とは異なる生物だと判明した。

足跡を発見したマホとエルマは早急に追跡を行い、山の頂上へ向かって足跡が続いている事に気付く。二人が火山の中腹まで移動を行うと、おかしなことに足跡が途切れてしまう。


「老師、足跡が見当たりません!!これはどういう事でしょうか?」
「待て……手がかりを探すのだ。きっと、この辺りに何かあるはず」


焦るエルマに対してマホは冷静に周囲を見渡すと、ここで地面が盛り上がったような痕跡がある事に気付く。まるで巨大なモグラが何かが地面の中に潜り込んだような大きな穴が残っており、それを確認したマホは嫌な予感がした。


「この穴は……」
「まさか、足跡の主は地中に……!?」
「いや、これは地中というよりも山の中に潜り込んでいるような……」


足跡を辿って発見した穴はかなり深く、しかも下の方向に潜っているというよりは横穴を掘り起こして山の中心部に潜り込もうとしている様子だった。しかし、普通の生物ならばマグマが煮えたぎる火山の中心部に潜り込もうとするはずがない。

マホは嫌な予感をしたがこのまま見過ごすわけにもいかず、彼女は穴の中に杖を向けると風属性の魔法を使用して調査を行う。魔導士であるマホは攻撃魔法以外にもあらゆる場面で役立つ魔法を覚えていた。


「儂の風魔法で探知を行う。エルマ、お主は周囲の警戒を怠るな」
「は、はい!!」


エルマはマホの言葉を聞いて頷き、彼女は弓矢を構えて周囲を警戒する。自分の背中は弟子に任せてマホは意識を集中させ、穴の中に杖を構えて風属性の魔法を放つ。


「風圧探知《ソナー》」


魔法を発動させた瞬間にマホの身体に風の魔力が渦巻、横穴の中に突風を想像させる風圧が送り込まれる。この時にマホは聴覚を研ぎ澄まし、横穴の内部の音を風の力で聞き耳を立てる。

風属性の魔法で横穴に風の魔力を送り込み、音を反響させて耳元に送り込む。森人族《エルフ》である彼女は人間よりも聴覚に優れており、更に長年の特殊な訓練によって風の魔力を利用して探知機のように離れた場所でも正確な情報を掴める。この魔法は風属性の魔法を極めたマホにしか扱えず、彼女は横穴の奥に潜むはずの生物の正体を探った。


(何が待ち構えておる……これは、まさか!?)


遂にマホは横穴の最深部まで探知に成功すると、彼女は土砂を掘り進む巨大なの生物を確認した。正確に言えば人の形をした巨大な物体が土砂を掘り起こし、奥に潜り込もうとしていた。


(何じゃ、これは……!?)


明らかに火竜とは異なる姿形をした謎の物体にマホは目を見開き、この時に横穴の奥に潜んでいた存在は彼女が送り込んだ風の魔力を感じ取ったのか、おぞましい咆哮を放つ。



――オァアアアアアッ!!



地の底から響くような不気味な声が放たれ、横穴の前に立っていたマホとエルマはその声を聞いただけで鼓膜が敗れそうになり、慌ててその場を離れた。得体の知れない存在が横穴の奥にいる事は確かだが、これ以上の捜索は危険だった。


「エルマ、山を下りて態勢を立て直すぞ!!あれは儂等の手には負えぬ!!」
「は、はい!!」


マホはエルマを連れて即座に撤退を決断し、この場を離れようとした。幸いというべきか横穴に潜んでいた得体の知れぬ怪物は出てくる様子はなく、マホとエルマは一先ずは山を下りる事に成功した――
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