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旋斧の秘密
第301話 魔操術《全身強化》《再生》
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――魔操術の真の使い方を身に付けた日から数日が経過し、ナイは誰よりも早く起きると屋敷の裏庭にて旋斧を構えていた。腕輪には魔石を既に装着済みであり、集中力を高めるために瞼を閉じる。
「ふうっ……」
「クゥ~ンッ……」
精神を集中させているナイに対してビャクは心配そうな表情を浮かべるが、ナイは目を見開くと剛力の技能と魔操術術を組み合わせた「全身強化」を発動させて旋斧を振り抜く。
「はああっ!!」
「ウォンッ!?」
ただの空振りにも関わらずにナイが旋斧を振り抜いた瞬間、風圧が発生して裏庭に生えていた木々が震える。その直後にナイは全身強化を解除すると、旋斧を地面に突き刺して汗を流す。
「ぐうっ……!!」
「クゥンッ……?」
全身強化の反動でナイの肉体に筋肉痛が襲い掛かり、その様子を見てビャクは心配したように駆け寄るが、発動時間が短かった事で肉体の負担はそれほどではない。
ナイは魔操術の応用で肉体の再生機能を強化させる。元々「自然回復」の技能も身に付けているため、常人よりも回復が早い。そのお陰で筋肉痛はすぐに収まり、身体を自由に動かせるようになった。
「ふうっ、きつかった。でも、魔力が切れなければすぐに回復できるな」
「ウォンッ?」
先ほどまでは苦しそうにしていたナイが何事もなかったように腕を振り回す様子を見てビャクは戸惑う。当のナイ自身は腕輪に装着した魔石に視線を向け、この魔石のお陰で瞬時に「超再生」が行えるようになった。
――魔石から魔力を吸収する術を身に付けたナイは再生機能を強化する鍛錬を行い、魔操術を利用した再生機能の強化の練習を行っていた。自然回復の技能の効果もあってナイは人一倍に肉体の再生力が強く、この調子ならば全身強化の反動で負担を負った肉体も短時間で再生して立ち直る事ができるようになった。
この鍛錬を行い始めてから数日が経過しているが、ナイは魔石の魔力をより効率よく吸収する術を身に付け、肉体の再生機能の強化を繰り返す。今までは魔力切れの恐れがあってできなかったが、その魔力を供給する魔石を手に入れた事で遠慮なく行う。
魔石の補助があればナイは魔操術を躊躇なく使用し、肉体の強化や再生を瞬時に行えるように鍛錬を行う。この鍛錬で強化と再生の能力を完璧に身に付ければ戦闘にも必ず役立つと信じ、毎日人目のない場所で鍛錬を行っていたのだが、この日は唐突に後ろから声を掛けられた。
「おっ、やってるね。調子はどうだい?」
「えっ……テンさん!?」
「ウォンッ?」
後方から聞こえてきた声にナイは振り返ると、そこにはテンが立っていた。彼女の登場にはナイだけではなく、ビャクも驚いていた。嗅覚が優れているビャクならば誰かが接近すれば分かるはずなのだが、テンが近付いている事に気付けなかった。
「ク、クゥ~ンッ……」
「ビャク、どうしたの?」
「そこのワンコロがあたしの事に気付けなかったようだね。でもね、いくら鼻が良いと言っても風向きぐらいは気を付けな。風はこっちの方に流れているからあたしの臭いには気づかなかったんだろう?」
自分の嗅覚に自信を持っていたビャクだが、テンの接近に気付けなかった事に落ち込み、そんな彼にテンは慰める様に言葉を賭ける。ビャクが人間の言葉を理解できるのは既に屋敷の中の人間に知れ渡っており、テンはビャクを慰めるために軽く頭を撫でる。
改めてナイはテンの格好を見ていつもの給仕服ではない事に気付き、現在の彼女は動きやすい服装に何処かで見覚えがある大剣を背負っていた。ナイが大剣を見つめている事に気付いたテンは背中から引き抜いて直に見せつけた。
「ああ、こいつが気になるのかい?そういえばヒナとモモから聞いたけど、こいつを取り戻したのはあんただろう?」
「えっ……あ、これってまさか!?」
「ウォンッ?」
テンが持ち出したのはバーリの屋敷にて保管されていた「退魔刀」という名前の大剣だった。この退魔刀はナイが旋斧の代わりに屋敷内では武器に使用していた代物だが、どうしてここにあるのかと驚く。
「この退魔刀はね、あたしが若い頃に作って貰った武器なのさ」
「テンさんの武器?でも、それがどうしてバーリの屋敷に……」
「若い頃に売ったんだよ。もうあたしには必要ないと思ったし、それにあの時は色々と金に困っててね……」
「ええっ!?」
「ウォンッ!?」
退魔刀がテンの武器であった事、それを彼女が売ったという話を聞いてナイは驚愕する。テンの性格を考えれば自分の武器を簡単に売り出すような人には思えないが、彼女にも色々と事情があったらしい。
「こいつを売ったのは白猫亭を受け継いだ時でね、先代が白猫亭を経営するために借金を抱えていたんだが、あたしが受け継いだ時に借金返済のためにこいつを売ったんだよ。こいつを作り上げてくれた鍛冶師には悪い事をしたけどね、そのせいであたしにはもう二度と武器を作らないと怒られちまったよ」
「そうだったんですか……でも、どうしてバーリの屋敷に?」
「恐らく、色々と巡り巡ってあいつの元に流れ着いたんだろうね。まあ、この退魔刀は使い手を選ぶから誰にも使いこなせなかったみたいだね」
退魔刀を見つめながらテンは感慨深げな表情を浮かべ、彼女に問っても思い入れがある武器らしい。そんな大切な物を売らなければならなかった時の彼女の心境を考えるとナイは何も言えない。
「ふうっ……」
「クゥ~ンッ……」
精神を集中させているナイに対してビャクは心配そうな表情を浮かべるが、ナイは目を見開くと剛力の技能と魔操術術を組み合わせた「全身強化」を発動させて旋斧を振り抜く。
「はああっ!!」
「ウォンッ!?」
ただの空振りにも関わらずにナイが旋斧を振り抜いた瞬間、風圧が発生して裏庭に生えていた木々が震える。その直後にナイは全身強化を解除すると、旋斧を地面に突き刺して汗を流す。
「ぐうっ……!!」
「クゥンッ……?」
全身強化の反動でナイの肉体に筋肉痛が襲い掛かり、その様子を見てビャクは心配したように駆け寄るが、発動時間が短かった事で肉体の負担はそれほどではない。
ナイは魔操術の応用で肉体の再生機能を強化させる。元々「自然回復」の技能も身に付けているため、常人よりも回復が早い。そのお陰で筋肉痛はすぐに収まり、身体を自由に動かせるようになった。
「ふうっ、きつかった。でも、魔力が切れなければすぐに回復できるな」
「ウォンッ?」
先ほどまでは苦しそうにしていたナイが何事もなかったように腕を振り回す様子を見てビャクは戸惑う。当のナイ自身は腕輪に装着した魔石に視線を向け、この魔石のお陰で瞬時に「超再生」が行えるようになった。
――魔石から魔力を吸収する術を身に付けたナイは再生機能を強化する鍛錬を行い、魔操術を利用した再生機能の強化の練習を行っていた。自然回復の技能の効果もあってナイは人一倍に肉体の再生力が強く、この調子ならば全身強化の反動で負担を負った肉体も短時間で再生して立ち直る事ができるようになった。
この鍛錬を行い始めてから数日が経過しているが、ナイは魔石の魔力をより効率よく吸収する術を身に付け、肉体の再生機能の強化を繰り返す。今までは魔力切れの恐れがあってできなかったが、その魔力を供給する魔石を手に入れた事で遠慮なく行う。
魔石の補助があればナイは魔操術を躊躇なく使用し、肉体の強化や再生を瞬時に行えるように鍛錬を行う。この鍛錬で強化と再生の能力を完璧に身に付ければ戦闘にも必ず役立つと信じ、毎日人目のない場所で鍛錬を行っていたのだが、この日は唐突に後ろから声を掛けられた。
「おっ、やってるね。調子はどうだい?」
「えっ……テンさん!?」
「ウォンッ?」
後方から聞こえてきた声にナイは振り返ると、そこにはテンが立っていた。彼女の登場にはナイだけではなく、ビャクも驚いていた。嗅覚が優れているビャクならば誰かが接近すれば分かるはずなのだが、テンが近付いている事に気付けなかった。
「ク、クゥ~ンッ……」
「ビャク、どうしたの?」
「そこのワンコロがあたしの事に気付けなかったようだね。でもね、いくら鼻が良いと言っても風向きぐらいは気を付けな。風はこっちの方に流れているからあたしの臭いには気づかなかったんだろう?」
自分の嗅覚に自信を持っていたビャクだが、テンの接近に気付けなかった事に落ち込み、そんな彼にテンは慰める様に言葉を賭ける。ビャクが人間の言葉を理解できるのは既に屋敷の中の人間に知れ渡っており、テンはビャクを慰めるために軽く頭を撫でる。
改めてナイはテンの格好を見ていつもの給仕服ではない事に気付き、現在の彼女は動きやすい服装に何処かで見覚えがある大剣を背負っていた。ナイが大剣を見つめている事に気付いたテンは背中から引き抜いて直に見せつけた。
「ああ、こいつが気になるのかい?そういえばヒナとモモから聞いたけど、こいつを取り戻したのはあんただろう?」
「えっ……あ、これってまさか!?」
「ウォンッ?」
テンが持ち出したのはバーリの屋敷にて保管されていた「退魔刀」という名前の大剣だった。この退魔刀はナイが旋斧の代わりに屋敷内では武器に使用していた代物だが、どうしてここにあるのかと驚く。
「この退魔刀はね、あたしが若い頃に作って貰った武器なのさ」
「テンさんの武器?でも、それがどうしてバーリの屋敷に……」
「若い頃に売ったんだよ。もうあたしには必要ないと思ったし、それにあの時は色々と金に困っててね……」
「ええっ!?」
「ウォンッ!?」
退魔刀がテンの武器であった事、それを彼女が売ったという話を聞いてナイは驚愕する。テンの性格を考えれば自分の武器を簡単に売り出すような人には思えないが、彼女にも色々と事情があったらしい。
「こいつを売ったのは白猫亭を受け継いだ時でね、先代が白猫亭を経営するために借金を抱えていたんだが、あたしが受け継いだ時に借金返済のためにこいつを売ったんだよ。こいつを作り上げてくれた鍛冶師には悪い事をしたけどね、そのせいであたしにはもう二度と武器を作らないと怒られちまったよ」
「そうだったんですか……でも、どうしてバーリの屋敷に?」
「恐らく、色々と巡り巡ってあいつの元に流れ着いたんだろうね。まあ、この退魔刀は使い手を選ぶから誰にも使いこなせなかったみたいだね」
退魔刀を見つめながらテンは感慨深げな表情を浮かべ、彼女に問っても思い入れがある武器らしい。そんな大切な物を売らなければならなかった時の彼女の心境を考えるとナイは何も言えない。
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