貧弱の英雄

カタナヅキ

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旋斧の秘密

第300話 魔操術の言葉の意味

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(魔操術……魔力を操る……術!?)


意識を失いかけたナイだったが、魔操術という言葉を思い出した瞬間、意識が覚醒した。魔操術とは魔力を操作する術を意味しており、その魔力が何を指しているのかが問題だった。


「まさか……!?」


今までナイは魔操術が操れるのは自分の体内に宿る魔力だけだと思い込んでいた。しかし、もしも自分の肉体以外の魔力を操る事ができるのではないかと考える。

眠りかけた事でナイは難しく考える事が出来ず、ある意味ではに辿り着けた。即座にナイは自分の魔力以外に操れる魔力があるとすれば何があるのか、その答えはすぐに思いついた。


「そういう事だったのか……!!」


慌ててナイは机の上に移動すると王城を去り際にアルトが渡してくれた魔石を取り出す。魔法腕輪をナイがマジクから受け取った時、アルトは約束を守って魔石を渡してくれた。

ナイが扱える属性は聖属性のため、彼が用意してくれたのは聖属性の魔石だった。ナイは魔法腕輪を取り出して装着すると、魔石を嵌め込む。そして意識を集中させて魔石の魔力を感じとる。


(難しく考えるな……まずは魔力を感じとればいい)


目を閉じてナイは魔法腕輪に意識を集中させると、腕輪越しに魔石の魔力を感じ取り、無意識に手を伸ばす。この状態でナイはまずは回復魔法を発動させた。


「ヒール」


無詠唱でナイは回復魔法を発動させると掌が光り輝き、この時にナイの魔力だけではなく、腕輪越しに聖属性の魔石の魔力も流れ込む。その結果、部屋全体を照らす程の強烈な光を生み出す。

自分の魔力だけで構成した物と比べると魔石を使用した途端に効果が倍増し、ナイは驚きを隠せない。だが、魔石を利用して初めて魔法を使用した事でナイは感覚を掴む。


「よし、ここからが本番だ……!!」


魔石から魔力を引き出す感覚を覚えたナイは光を消すと、今度は全身に集中させ、限界まで魔力を消耗する「全身強化」を発動させた。


「……はあっ!!」


気合の雄叫びと共にナイは全身の魔力を活性化させ、剛力を発動させる要領で自分の身体能力を限界までに高める。この全身強化は強化薬を服用した時と同じ状態であり、効果が切れば直後に肉体に反動が襲い掛かってまともに動けなくなる。

それを承知の上でナイは魔力を消費して全身の筋力を強化させる。この時にナイの身体にほんの僅かではあるが「白炎」を纏うが、本人は気づいていない。


「く、ううっ……はあっ、はあっ……!!」


この状態を維持するだけでも相当な精神力を消費し、万全の状態で発動しても1分が限界だった。発動時間を短くさせれば肉体の負担も軽減されるが、ナイは今回は敢えて体内の魔力を尽きるまで使用する。


「……ぶはぁっ!!」


遂に限界を迎えたナイは身体に纏っていた白炎が消え去ると、身体をふらつかせながらもベッドに倒れ込む。肉体全身が筋肉痛に襲われ、もう身動きすらも出来ない。


(やりすぎたかな……駄目だ、眠るな)


今にも意識を失いそうになるが、ナイはどうにか右腕に視線を向け、腕輪に嵌め込まれている魔石を見た。その後、先ほど回復魔法を発動させたときの事を思い出す。

魔法腕輪を装着した状態でナイは魔法を使用した時、確かにナイは魔石の魔力が体内に入り込んだ感覚を覚えた。魔石の魔力はナイが作り出した回復魔法の光に直接魔力を送り込んだわけではなく、腕輪を通してナイの体内に魔力を流し込む。

魔術師が魔法を扱う場面はナイも何度か見た事があるが、彼等は杖の先端に取り付けた魔石から魔法を発動させているように見えた。しかし、それは誤りであり、魔術師が魔法を扱う際は必ず魔石の魔力を体内に循環してから発動させていたのだ。

杖や腕輪を利用して魔法を発動させるのは体内に魔石の魔力を送り込むための媒介として利用しているだけに過ぎず、あくまでも魔石から魔法を発動しているのではなく、魔石から吸収した魔力を利用して魔法を発動させているに過ぎない。


(マジク魔導士は言っていた。条件が揃えば僕にもできるはずだ!!)


自分自身には回復魔法を発動する事は出来ないが、魔操術を利用すればナイは肉体の再生機能を強化させ、自力で怪我を治す事が出来る。しかし、そのためには魔力を必要とするのだが、生憎と現在のナイには魔力は残っていない。

だが、ナイの体内に魔力は残ってなくとも彼が身に付けている魔法腕輪には十分に有り余る魔力を宿した魔石が嵌め込まれている。先ほど、魔法を発動させた時の要領でナイは魔石の魔力を体内に取り込めないのかを試した。


(頼む……!!)


ナイが意識を集中させた瞬間、魔石が光り輝くと魔力が流れ込み、殆ど残っていなかったはずの体内の魔力が溢れてくる。そして魔力が十分に身体にいきわたると、ナイは魔操術を利用して肉体の再生機能を強化した。

時間的には10秒ほど経過すると、全身に筋肉痛を起こして動けなかったはずのナイは身体を起き上げ、信じられない表情を浮かべて自分の右腕を見つめる。


「成功した、のか?」



――限界を迎えていたはずの肉体は完全に回復しており、魔石の魔力を取り込んだ事でナイは再生機能を強化させ、復活する事に成功した。それはつまり、今後は魔石がある状態ならば全身強化を行っても短時間で身体を治せる事を意味する。

全身強化は強力ではあるが、使い所を誤るとナイの命を危険に晒しかねない。しかし、魔石の魔力を代用する事で肉体の再生ができるのならばその弱点は克服されたといっても過言ではない。


「これが……魔操術なのか」


ここで初めてナイはマジクの言葉の意味を知り、魔操術の真の凄さを実感させられた――





――黒狼騎士団の副団長にして公爵家の令嬢でもあるドリスはこの国の中でも3本指に入る騎士だと言われている。実際に彼女の実力は団長であるバッシュをも上回ると呼ばれ、仮にバッシュが国王の座に継いだ場合は騎士団を引き継ぐのは彼女以外にはあり得ない。

王国騎士団の中でも黒狼騎士団は王位継承権を持つバッシュが率いている事もあり、有名な存在だった。そして副団長であるドリスは「魔槍」の使い手であり、フレア公爵家の血筋の人間は火属性の適正が非常に高い。

ドリスの魔槍はヒイロが扱う烈火と同様に火属性の魔力を宿す事に特化した武器であり、ヒイロの烈火は火炎を刃に纏うのに対してドリスの場合は火力を高める事に重視した武器だった。


「……ここですね、例のボアの亜種が目撃されたという場所は」
「はい、間違いありません。足跡も確認されました」


ある時にドリスは騎士団を率いて王都から離れた草原に赴くと、王都に赴こうとした商団の馬車がボアの亜種に襲われたという連絡を受け、確認のために出向く。

通常は魔物が引き起こした問題は冒険者ギルドが対応するのが一番だが、今回襲われた商団はフレア公爵家とも関りがあり、何よりも亜種などの魔物は普通の魔物よりも危険度が高いため、並の冒険者では太刀打ちできない。


「ドリス様、見つけました!!どうやら奴が商団を襲った個体で間違いないかと!!」
「あれは……なるほど、確かに報告通りの姿をしていますわね」


ドリスは部下からの報告を受けて視線を向けると、100メートルほど離れた位置に横たわる黒色の毛皮で覆われた巨大な猪を発見した。通常のボアよりも体型が2倍程大きく、その姿を見たドリスは団員達を下がらせた。


「貴方達は下がっていなさい、私の馬を頼みますわ」
「ドリス様、まさか御一人で……!?」
「私なら大丈夫、それよりも貴方達は離れていなさい……巻き添えを喰らいたくはないでしょう」
「は、はいっ!!」
「お前達、距離を取れ!!」


愛馬を他の団員に預けるとドリスは赤く輝くランスを取り出し、それを手にした状態でボアの元へ近づく。その様子を団員達は緊張した様子で見守る。

ボア亜種は近付いてくるドリスの気配に気づいたのか、瞼を開くと身体を彼女の方に向け、鼻息を鳴らす。その迫力は普通のボアの比ではなく、赤毛熊をも貫き殺せそうな鋭利な牙を見せつけた。


「ブフゥウウウッ……」
「……来なさい、苦しまない様に一撃で仕留めてみせますわ」
「――フゴォオオオッ!!」


自分に向けて殺気を滲ませた視線を向けてくるボアに対してドリスはランスを構えると、彼女は余裕の笑みを浮かべた。その態度を見てボア亜種は彼女に向けて突進を行う。

体長だけではなく、移動速度も普通のボアを上回り、もしも赤毛熊などの魔物でも突き飛ばす程の勢いでボア亜種はドリスの元へ突進する。だが、自分に迫りくるボアに対してドリスはランスを構えると、その能力を発動させた。


「爆槍!!」
「フガァッ――!?」


次の瞬間、ボア亜種の視界は火炎によって覆いつくされ、強烈な衝撃と共に巨体が吹き飛んだ――





――この数時間後、王都には全身が黒焦げと化したボア亜種の死骸が運び込まれる。この時にドリスは討伐の報告を行う際、困ったように答えたという。


「やりすぎてしまいましたわ……希少な亜種の毛皮を手に入れる好機だったのに丸焦げにしてしまいましたわ」


彼女は心底残念そうな表情で自分が倒したボア亜種を見てため息を吐き、後に報告を受けたバッシュは彼女の言葉を聞いて何とも言えない表情を浮かべたらしい。
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