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旋斧の秘密
第293話 魔術兵
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――その後、ナイは次の日も王城に赴き、アルトの実験に付き合わされた。彼は旋斧が全ての魔力の属性を吸収できる事を確認したが、今回は魔術師を呼び出して彼等の扱う砲撃魔法の吸収などを試す。
「ナイ君、彼等はこの城に仕える魔術兵だ。一人一人が別々の属性の砲撃魔法を扱えるから、彼等の魔法を受けて武器に魔力を吸収できるか試してくれ」
「ええっ!?」
「お、王子!!いくらなんでもそれは危険過ぎるのでは!?」
「失敗したら大変な事になりそう」
アルトは事前に兵士の訓練場に魔法が扱える兵士を呼び出し、ナイに彼等の相手をさせようとした。ちなみに魔術兵とは王国に仕える魔術師の中でも一番位が低く、彼等の上には「宮廷魔術師」その更に上が「魔導士」である。
魔導士が一番高い位だが、この魔導士の位に就いているのはナイも世話になったマホ魔導士と、他に2名しか存在しない。宮廷魔術師に関しては10名ほど存在するが、魔術兵は30人程度である。意外にも少ないように思えるが、そもそも魔法を扱える人間自体が滅多にいない。
「今回の実験はナイ君にとってもいい経験になると思うんだ。これだけの数の魔術師と戦う機会なんてそうはないだろう?もしも彼等の攻撃を受け切ればナイ君が魔術師と戦う時に役立つと思うんだ」
「う~ん……そもそもそんな機会があるかどうか」
「でも、訓練の一環と思えば悪く無いかもしれない。私達も魔術師と戦う訓練はよくやっている」
「そうですね、ナイさんにとっても良い経験になるかもしれません」
一般人であるナイが魔術師と戦う日が来るのかどうかはともかく、経験を積むという事は悪くはなかった。もしかしたら魔術師と戦う事態になった時、事前に訓練を受けておけば役立つだろう。
「あの、王子様……本当によろしいのですか?魔法は手加減など出来ませんよ?」
「人間が相手となれば大怪我を負わせてしまうかもしれません。止めておいた方が……」
「大丈夫だ。それに君達の方こそ気を付けた方が良い……彼は僕の兄上をも退ける力を持っているんだよ」
「バ、バッシュ様を!?」
「まさか、あの噂の少年!?」
アルトに呼び集められた魔術兵はナイと戦う事に戸惑っていたが、アルトはナイがバッシュを破った少年だと告げると彼等の態度は一変する。
魔法の場合は加減は難しく、普通の人間相手ならば大怪我を負わせる危険性もある。しかし、相手はバッシュを打ち倒す程の実力者と知ると魔術兵は気を引き締める。
「遠慮は無用だ、戦う時は本気で戦った方が良い。これはお互いに良い訓練になるだろうしね」
「わ、分かりました……ご指導、よろしくお願いします!!」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「まあ、安心してくれ。怪我を負った時に備えて回復薬の準備は出来ている。万が一の場合に備えて医者も呼んでおいたよ」
「たくっ、面倒だな……王子様、約束は守って下さいよ。今夜は王子様の奢りですからね」
今回の実験には以前にナイの治療を行ってくれたイシという名前の医者も同行しており、彼もアルトに呼び出されたらしい。職務中にも関わらずにイシは欠伸をしながら地べたに座り込んでいた。
「イシ、君は相変わらずだね。仮にも僕は王子だよ?」
「へいへい、分かってますよ。怪我をした時はちゃんとやりますって」
「全く、仕方ないな……じゃあ、ナイ君。怪我をした時は彼がなんとかしてくれるから安心して戦ってくれ」
「全然安心できないんだけど……」
イシの不真面目な態度を見て本当に大丈夫かと思いながらもナイは旋斧と反魔の盾を身に付け、魔術兵と向かい合う。まずは魔術兵の中でも一番の年長者と思われる男性が前に出てきた。
「ではまずは儂が相手をしよう。よろしいですな、王子様?」
「ああ、勿論だ」
「……例の約束、忘れてないでしょうな?」
「約束?」
ナイの前に現れたのは杖を抱えた老人であり、彼はアルトに顔を向けると何事か話し込む。その様子を見てナイは不思議に思うと、ヒイロが耳打ちを行う。
「あの御方、実は元々は宮廷魔術師だったんです。でも、最近になって魔術兵に降格させられたんです」
「え、どうして?」
「勤務中に酒を飲んでそれを上司に見られて降格させられた。だけど、元々は宮廷魔術師を務めるぐらいの実力者……気を付けた方が良い」
ヒイロの隣に立っていたミイナも口を挟み、二人の話を聞いたナイは相手が宮廷魔術師級の実力者だと知る。ナイが知っている魔術師といえばマホぐらいしか存在せず、彼女は魔物の大群を広域魔法と呼ばれる魔法で吹き飛ばした事を思い出す。
魔導士であるマホの実力を知っているナイは彼女の一つ下の位の宮廷魔術師でもあった老人に警戒を抱き、油断できない相手だと判断する。流石に彼がマホ程の実力を持っているとは思えないが、それでも今回集まった魔術兵の中では一番の実力者である事は間違いない。
「ナイ君、彼等はこの城に仕える魔術兵だ。一人一人が別々の属性の砲撃魔法を扱えるから、彼等の魔法を受けて武器に魔力を吸収できるか試してくれ」
「ええっ!?」
「お、王子!!いくらなんでもそれは危険過ぎるのでは!?」
「失敗したら大変な事になりそう」
アルトは事前に兵士の訓練場に魔法が扱える兵士を呼び出し、ナイに彼等の相手をさせようとした。ちなみに魔術兵とは王国に仕える魔術師の中でも一番位が低く、彼等の上には「宮廷魔術師」その更に上が「魔導士」である。
魔導士が一番高い位だが、この魔導士の位に就いているのはナイも世話になったマホ魔導士と、他に2名しか存在しない。宮廷魔術師に関しては10名ほど存在するが、魔術兵は30人程度である。意外にも少ないように思えるが、そもそも魔法を扱える人間自体が滅多にいない。
「今回の実験はナイ君にとってもいい経験になると思うんだ。これだけの数の魔術師と戦う機会なんてそうはないだろう?もしも彼等の攻撃を受け切ればナイ君が魔術師と戦う時に役立つと思うんだ」
「う~ん……そもそもそんな機会があるかどうか」
「でも、訓練の一環と思えば悪く無いかもしれない。私達も魔術師と戦う訓練はよくやっている」
「そうですね、ナイさんにとっても良い経験になるかもしれません」
一般人であるナイが魔術師と戦う日が来るのかどうかはともかく、経験を積むという事は悪くはなかった。もしかしたら魔術師と戦う事態になった時、事前に訓練を受けておけば役立つだろう。
「あの、王子様……本当によろしいのですか?魔法は手加減など出来ませんよ?」
「人間が相手となれば大怪我を負わせてしまうかもしれません。止めておいた方が……」
「大丈夫だ。それに君達の方こそ気を付けた方が良い……彼は僕の兄上をも退ける力を持っているんだよ」
「バ、バッシュ様を!?」
「まさか、あの噂の少年!?」
アルトに呼び集められた魔術兵はナイと戦う事に戸惑っていたが、アルトはナイがバッシュを破った少年だと告げると彼等の態度は一変する。
魔法の場合は加減は難しく、普通の人間相手ならば大怪我を負わせる危険性もある。しかし、相手はバッシュを打ち倒す程の実力者と知ると魔術兵は気を引き締める。
「遠慮は無用だ、戦う時は本気で戦った方が良い。これはお互いに良い訓練になるだろうしね」
「わ、分かりました……ご指導、よろしくお願いします!!」
「あ、はい。こちらこそよろしくお願いします」
「まあ、安心してくれ。怪我を負った時に備えて回復薬の準備は出来ている。万が一の場合に備えて医者も呼んでおいたよ」
「たくっ、面倒だな……王子様、約束は守って下さいよ。今夜は王子様の奢りですからね」
今回の実験には以前にナイの治療を行ってくれたイシという名前の医者も同行しており、彼もアルトに呼び出されたらしい。職務中にも関わらずにイシは欠伸をしながら地べたに座り込んでいた。
「イシ、君は相変わらずだね。仮にも僕は王子だよ?」
「へいへい、分かってますよ。怪我をした時はちゃんとやりますって」
「全く、仕方ないな……じゃあ、ナイ君。怪我をした時は彼がなんとかしてくれるから安心して戦ってくれ」
「全然安心できないんだけど……」
イシの不真面目な態度を見て本当に大丈夫かと思いながらもナイは旋斧と反魔の盾を身に付け、魔術兵と向かい合う。まずは魔術兵の中でも一番の年長者と思われる男性が前に出てきた。
「ではまずは儂が相手をしよう。よろしいですな、王子様?」
「ああ、勿論だ」
「……例の約束、忘れてないでしょうな?」
「約束?」
ナイの前に現れたのは杖を抱えた老人であり、彼はアルトに顔を向けると何事か話し込む。その様子を見てナイは不思議に思うと、ヒイロが耳打ちを行う。
「あの御方、実は元々は宮廷魔術師だったんです。でも、最近になって魔術兵に降格させられたんです」
「え、どうして?」
「勤務中に酒を飲んでそれを上司に見られて降格させられた。だけど、元々は宮廷魔術師を務めるぐらいの実力者……気を付けた方が良い」
ヒイロの隣に立っていたミイナも口を挟み、二人の話を聞いたナイは相手が宮廷魔術師級の実力者だと知る。ナイが知っている魔術師といえばマホぐらいしか存在せず、彼女は魔物の大群を広域魔法と呼ばれる魔法で吹き飛ばした事を思い出す。
魔導士であるマホの実力を知っているナイは彼女の一つ下の位の宮廷魔術師でもあった老人に警戒を抱き、油断できない相手だと判断する。流石に彼がマホ程の実力を持っているとは思えないが、それでも今回集まった魔術兵の中では一番の実力者である事は間違いない。
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