貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
296 / 1,110
旋斧の秘密

第287話 アルトの実験

しおりを挟む
――研究室から出たナイ達は実験のために人が少ない場所を探し、城内に存在する兵士の訓練場に訪れる。アルトは兵士に頼んで実験を行う事を伝えると、訓練の指導を行っていた兵士の隊長は承諾してくれた。


「すまないね、急に無理を言って……」
「いえ、お気になさらずに……ですが、王子様もお気を付けください。また失敗して大怪我を負われるような事があれば国王様もご心配します」
「ああ、気を付けるよ」


兵士の言葉にアルトは苦笑いを浮かべながら実験を開始する。今回は大勢の兵士達に見守られる中で実験を行う事になり、ナイは緊張しながらもアルトの指示に従う。


「よし、まずは魔法攻撃を吸収できるかどうかを確かめよう。ナイ君、準備はいいかい?」
「うん……あ、はい」


人目があるので流石にナイもアルトに敬語を使わなければならず、流石に王子とため口で話すと彼の威厳に関わる。ナイの確認を取るとアルトはヒイロに声を掛けた。


「ヒイロ、魔法剣を発動させてくれ。まずは付与魔法を施した物体の魔力は本当に吸収できないのかを確かめたい」
「分かりました……では、火炎剣!!」
『おおっ!!』


アルトの言葉にヒイロは即座に魔法剣を発動させると、彼女の手にした烈火に炎が灯り、この炎はヒイロの火属性の魔力を烈火が吸い上げて刀身に炎の魔力を纏っているに過ぎない。

ちなみに魔法で作り出した炎は普通の水では消す事はできず、魔力を送り込むのを辞めない限りは決して消えない。自分で作り出した魔法は自分の肉体を傷つける事はなく、ヒイロが自分の魔法剣で火傷を負う事もない。


「よし、ではまずは刃を重ね合わせてくれ。何か変化を感じたらすぐに教えてくれ!!」
「分かりました。ナイさん、温度は弱めてはいますが気を付けてください」
「うん、分かった」


ヒイロは刃に纏った炎の温度まで調整できるらしく、火力を弱めた状態の烈火にナイは旋斧を伸ばすと、お互いに刃を重ね合わせる。しばらくはその状態を維持するが、生憎と旋斧に変化はない。


「どうだい、ナイ君。ヒイロの魔法剣で生み出した炎は吸収できそうかい?」
「う~ん……多分、この状態だと無理だと思います」
「そうか、なら次の実験だ。ヒイロ、あの的に魔力を切り離して攻撃してくれ」
「あれですね?分かりました、やってみます」


火炎剣を維持した状態のヒイロにアルトは兵士が訓練の際に利用する巻き藁を指差すと、ヒイロは意識を集中させるように烈火を構え、刃を振りかざす。


「火炎刃!!」
「うわっ!?」
「おおっ……相変わらず、凄い威力」


10メートルほど離れた場所からヒイロは烈火を振りかざすと、刀身に纏っていた炎が放たれ、火炎の刃と化して巻き藁を破壊する。巻き藁は粉々に砕け散り、更に燃え尽きてしまう。

ヒイロの魔法剣は刀身に炎を纏うだけではなく、その炎を切り離して攻撃を行う事もできるようだった。もしもこの技を最初にヒイロがナイと出会った時に放っていればもしかしたらナイは敗北していたかもしれない。


「ふうっ……やはり、距離が離れ過ぎていると威力が落ちますね」
「あれで威力が落ちているの?凄いな……流石は王国騎士」
「い、いえ、別にそれほどでもありませんよ」
「ふむ、ヒイロも大分腕を上げたね」


ナイが褒めるとヒイロは照れくさそうな表情を浮かべるが、そんな彼女に対してアルトも褒め称えるが、次の彼の言葉に度肝を抜かれる。


「それなら次はナイ君に向けてさっきのを放ってくれ」
「えっ!?」
「王子……本気?」
「本気だとも、ナイ君も構わないよね?」


アルトの言葉にヒイロは驚愕の表情を浮かべ、ミイナも信じられない顔を浮かべるが、彼は真剣な表情を浮かべてナイに振り返る。ナイは先ほど巻き藁を焼き尽くした火炎刃の威力を思い出し、もしも直撃すれば無事では済まない。


「魔法剣の状態では魔力を吸収する事は出来ないのは判明した。だけど、剣から切り離した魔力なら吸収できる可能性も高い。それを確かめるにはどうしても必要な事なんだ」
「で、でもナイさんを狙うなんて……」
「旋斧を地面に置いて火炎刃を放って魔力を吸収するか確かめるのは駄目?」
「いや、魔剣の類は人が触れた状態でしか能力を発揮しない事もある。だからどうしてもナイ君が所持した状態でないと駄目なんだ」
「……分かった、やってみるよ」


旋斧を手放した状態で魔法の攻撃を当てたとしても魔力を上手く吸収するかは分からず、どうしてもナイの手元がある状態で攻撃を行う必要があった。そうしなければ旋斧の能力は確かめきれず、ナイは冷や汗を流しながらも頷く。

ヒイロの正面にナイは移動すると、とりあえずは旋斧を上段に構えた。その様子を見てヒイロは焦った表情を浮かべるが、彼女はアルトとナイに視線を向け、覚悟を決めた様に烈火に炎を宿す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

処理中です...