貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
280 / 1,110
王都での騒動

第271話 泥棒

しおりを挟む
――ドリスの誕生日に呼ばれてから数日後、時刻は深夜を迎えた頃にナイが宿泊している扉の前で怪しい人影が立っていた。その人物は黒装束を着込み、鍵穴に針金を差し込む。

黒装束の男は鍵穴に針金を差し込んでからしばらくすると、鍵が開く音が鳴り響く。そこから先は慎重に男は取っ手を掴み、出来る限り音を立てない様に扉を開く。

部屋の内部に侵入した男はベッドを確認し、膨らんだ毛布を見て部屋の主が眠り込んでいると判断する。それを確認した男は部屋の中を見渡し、壁に立てかけられている旋斧と反魔の盾を発見した。

こっそりと男は旋斧と反魔の盾に手を伸ばそうとした瞬間、部屋の窓から影が差し込み、窓から白い狼が覗き込んでいる事に気付く。


「ウォンッ!!」
「どひゃあっ!?」


男は狼を見て悲鳴を上げると、その直後に男の背後から気配もなく腕が伸びると、男の身体を後ろから捕らえる。男は驚いた表情を浮かべて振り返ると、そこには寝間着姿のナイの姿があった。


「お、お前っ……寝ていたんじゃなかったのか!?」
「寝てたよ。でも、がちゃがちゃうるさくて起きたんだよ……ふんっ!!」
「ぐええっ……!?」


ナイは男の首を絞めつけると、男は悲鳴を上げて逃れようとしたが、巨人族の如き怪力で締め付けられては成す術がなく、すぐに意識を失う。男を気絶させたナイはため息吐くと、窓の外に立っていたビャクに礼を告げる。


「ビャク、気を反らしてくれてありがとう」
「ウォンッ♪」
「な、何の騒ぎ!?」
「う~んっ……眠いよう~」
「たくっ、かい!?」


階段を駆け下りる音と廊下を駆け抜ける音が鳴り響き、ナイの部屋に従業員であるヒナとモモ、宿屋の女主人であるテンが駆けつけてきた。彼女はナイが男を取り押さえている姿を確認すると、テンはため息を吐き出す――





――その後、すぐに夜間巡回をしていた警備兵が駆けつけ、泥棒に入った男を拘束して事情聴取が行われた。その結果、男は最初からナイの私物を盗むために訪れた事を認めた。


「あんた……最近、ここらじゃ噂になっているぜ。なんでも王国騎士や王族と関り合いがある子供がいるとか……しかも、ミノタウロスを倒す凄い武器や、伝説の盾を持っているとか」
「たくっ……またかい、今月だけで何人目だい?」
「今回で5人目ですね……やっぱり、例の噂が広まり始めたせいね」
「…………」


男から事情を聞きだしたナイ達は頭を抱え、ここ最近はナイの部屋に泥棒に入る人間が増えていた。泥棒に入ろうとした人間んは全員は捕まえたが、ここ最近は毎夜を迎えると泥棒が入り込んでくる。

彼等を捕まえて話を聞くところ、どうやら先日のミノタウロスの一件や王族であるバッシュがナイの反魔の盾の所有を許可した事が密かに街中でも噂になっており、そしてナイの居場所を突き止めた泥棒達が宿屋に忍び込んで彼の武器と盾を盗み出そうとする。今の所は被害はないが、流石に毎日泥棒に入られては宿の信用問題に関わる。


「すいません、俺のせいで面倒事に巻き込んで……」
「そんな、ナイ君のせいじゃないよ!!ナイ君は何も悪い事をしてないのに……」
「そうね、モモの言う通りだわ……でも、こうも頻繁に泥棒に入られるとおちおちと休む事も出来ないわね」
「その通りだね、他の客が居たら大変な事になっていたよ」


一応はテン達も警備兵に頼んで宿屋周辺の見回りをしてもらったりしているが、それでも泥棒が宿屋に侵入する事を完全には防げない。

毎日の様に泥棒に入り込まれたら白猫亭の信用に関り、あの宿屋は何度も泥棒の侵入を許していると思われれば白猫亭の経営が危うい。そう考えたナイは自分が出て行くべきかと思った。


「これ以上は迷惑を掛けられません……明日、ここを発とうと思います。今までお世話になりました」
「ええっ!?そ、そんなの駄目だよぉっ!!」
「そうよ、ナイ君が責任を感じる必要はないわ。悪いのは全部あんな噂を信じて泥棒に入ろうとする奴等なんだから……」
「といっても、これ以上に泥棒に入られるのはうちとしても困るね……」


ナイが出ていく事を必死にモモとヒナは止めようとするが、経営者であるテンとしてはこれ以上の泥棒の被害は看過できない。女主人として彼女は客を守る立場ではあるが、流石にナイを目当てに泥棒が四六時中忍び込まれたら困る。

なんとか泥棒対策の手段を講じなければならず、これ以上に泥棒が入り込まない方法を考えねばならない。だが、そう簡単に良案が思いつくはずがなく、今日の所は全員がもう休む事にした――





――翌日の早朝、夜中に起こされたせいで全員が寝不足気味であり、とりあえずは食堂に集まって話し合いを行う。今回の話し合いにはヒイロとミイナも参加し、二人も相談に乗ってくれた。


「今日呼び出したのは他でもない、うちの客を狙って泥棒が入り込むのを防ぐ方法を考えるためだよ。あんたらも手を貸しな、こいつには色々と貸しがあるんだろう?」
「ナイさんのためなら全力で協力します!!」
「私も手伝う」


ヒイロとミイナも色々とナイには世話になっており、彼が泥棒に襲われない方法を共に考えてくれる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最強の職業は解体屋です! ゴミだと思っていたエクストラスキル『解体』が実は超有能でした

服田 晃和
ファンタジー
旧題:最強の職業は『解体屋』です!〜ゴミスキルだと思ってたエクストラスキル『解体』が実は最強のスキルでした〜 大学を卒業後建築会社に就職した普通の男。しかし待っていたのは設計や現場監督なんてカッコいい職業ではなく「解体作業」だった。来る日も来る日も使わなくなった廃ビルや、人が居なくなった廃屋を解体する日々。そんなある日いつものように廃屋を解体していた男は、大量のゴミに押しつぶされてしまい突然の死を迎える。  目が覚めるとそこには自称神様の金髪美少女が立っていた。その神様からは自分の世界に戻り輪廻転生を繰り返すか、できれば剣と魔法の世界に転生して欲しいとお願いされた俺。だったら、せめてサービスしてくれないとな。それと『魔法』は絶対に使えるようにしてくれよ!なんたってファンタジーの世界なんだから!  そうして俺が転生した世界は『職業』が全ての世界。それなのに俺の職業はよく分からない『解体屋』だって?貴族の子に生まれたのに、『魔導士』じゃなきゃ追放らしい。優秀な兄は勿論『魔導士』だってさ。  まぁでもそんな俺にだって、魔法が使えるんだ!えっ?神様の不手際で魔法が使えない?嘘だろ?家族に見放され悲しい人生が待っていると思った矢先。まさかの魔法も剣も極められる最強のチート職業でした!!  魔法を使えると思って転生したのに魔法を使う為にはモンスター討伐が必須!まずはスライムから行ってみよう!そんな男の楽しい冒険ファンタジー!

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

元勇者パーティーの雑用係だけど、実は最強だった〜無能と罵られ追放されたので、真の実力を隠してスローライフします〜

一ノ瀬 彩音
ファンタジー
元勇者パーティーで雑用係をしていたが、追放されてしまった。 しかし彼は本当は最強でしかも、真の実力を隠していた! 今は辺境の小さな村でひっそりと暮らしている。 そうしていると……? ※第3回HJ小説大賞一次通過作品です!

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

レベルが上がらずパーティから捨てられましたが、実は成長曲線が「勇者」でした

桐山じゃろ
ファンタジー
同い年の幼馴染で作ったパーティの中で、ラウトだけがレベル10から上がらなくなってしまった。パーティリーダーのセルパンはラウトに頼り切っている現状に気づかないまま、レベルが低いという理由だけでラウトをパーティから追放する。しかしその後、仲間のひとりはラウトについてきてくれたし、弱い魔物を倒しただけでレベルが上がり始めた。やがてラウトは精霊に寵愛されし最強の勇者となる。一方でラウトを捨てた元仲間たちは自業自得によるざまぁに遭ったりします。※小説家になろう、カクヨムにも同じものを公開しています。

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

処理中です...