貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第270話 欲しかった物は……

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「だああっ!!」
「あぐぅっ!?」
「危ない!?」
「ちっ、仕方ないね!!あんたら、こいつを頼むよ!!」
「「「はぁっ!?」」」


闘技台からナイはリンダごと飛び込むと、それを見ていたドリスは悲鳴を上げ、テンは隣に立っているバッシュの護衛役の騎士達に旋斧を放り込む。騎士達は投げつけられた旋斧を受け止めようとしたが、あまりの重量に持ちきれずに倒れ込んだ。

テンはナイとリンダが地面に衝突する寸前に割り込み、二人の身体を支え込む。結果的には二人は地面に叩きつけられるのは耐え切れたが、テンが代わりに二人分の体重を受け止めた状態で地面に倒れ込む。


「つぅっ……大丈夫かい、二人とも?」
「いててっ……た、助かりました」
「くぅっ……は、早く離れてください。そこは胸で……あんっ」
「わあっ!?ごめんなさい!!」


ナイはリンダともつれ込む形でテンの上に倒れ込み、この際にリンダの胸にナイは顔を突っ込む形となり、慌てて離れる。リンダは男性と身体を絡めて倒れた事に恥ずかしく思い、頬を赤らめながらも立ち上がる。しかし、すぐに身体に痛みを覚えて彼女は腕を抑える。


「うっ……」
「リンダ!?怪我は!?」
「平気です……痛っ!?」
「馬鹿を言うんじゃないよ、どれ見せてみな」


テンはリンダの腕を掴むとナイの頭突きを受けた掌を確認し、眉をしかめる。先ほどのナイの突進でリンダの左手は完全に骨折しており、すぐに治療しなければならない状態だった。


「こいつは酷いね。ナイ、あんたのせいで怪我をしたんだから治してやりな。それぐらいの魔力は残ってるんだろう?」
「あ、はい……」
「へ、平気です!!離してください!?」
「何を恥ずかしがってんだい、このまま放置すればもう二度と腕は使い物にならなくなるんだよ?」


自分を倒した相手に治療などリンダとしては屈辱でしかないが、彼女の腕の治療は一刻も争い、テンは無理やりに抑えつける。リンダは振りほどこうとしたがびくともせず、もしかしたら剛力を発動したナイにも匹敵するテンの握力に戸惑う。

一方でナイの方は頭を抑えながらもリンダの元に近付き、回復魔法を施す。ナイの方も大分魔力を消耗しているが、どうにか応急処置程度の回復は出来た。


「これで動かせるぐらいには回復したはずです……後は薬を使って治療した方が良いと思います」
「ん?しっかり治してやらないのかい?」
「流石に魔力がもう……」
「……あ、ありがとうございます」


リンダは治療が終わると自分の腕の痛みが嘘のように引いていき、複雑な感情を抱きながらも一応は礼を言う。だが、ナイの方も頭を抑え、流石に今日は魔力を使いすぎた。


(思っていたより跳躍で体力を使いすぎたな……流石に休まないと)


回復魔法を利用すると魔力と一緒に体力も同時に奪われるため、流石にリンダが完璧に治すまでの治療は行えなかった。その様子を見届けてドリスは安堵すると、改めてナイに頭を下げる。


「怪我の治療、ありがとうございます。それでは約束通り、賞品をお選びください」
「え?賞品?」
「あんた、忘れたのかい?試合に勝てばあそこにある賞品が好きなだけ貰えるんだよ」


テンは賞品が並べられている台座を指差し、ここでナイはリンダとの戦闘に夢中で賞品を貰える事をすっかりと忘れていた。リンダは申し訳なさそうにドリスに頭を下げる。


「申し訳ございません、ドリス様……不覚を取りました」
「いいえ、結構ですわ。中々良い試合でしたわよ、さあナイさんも遠慮せずにお受け取り下さい」
「賞品か……」
「ナイ、あの水晶製の腕輪が欲しい」
「こら、こんな時に限ってねだるんじゃないよ!!決めるのはナイだよ!!」


ミイナは賞品の中にある水晶で構成された腕輪を指差し、そんな彼女にテンが呆れた声を上げる。だが、ナイとしては実は最初に賞品を見た時に気になる物があった。

ドリスが商品を発表した時にナイはリンダに挑んででも手に入れたかった物、それは並べられた賞品の中で唯一異質な代物であった。


「これ、貰ってもいいですか?」
「それは……え、ええ、構いませんわ」
「あと、こっちの腕輪も」
「わぁいっ」


ナイが選んだ物を見て招待客は驚き、ドリス自身も驚きを隠せない。何しろナイが選んだ賞品は美術品や宝石などではなく、ましてや武器や防具の類でもない。どちらかというと骨董品の類である。ついでにミイナが欲しがった腕輪も貰って彼女に渡すと、小さな子供のように喜ぶ。

腕輪の他に選んだのは反魔の盾のような円盤型の大きな皿であり、大きさを確認したナイは硬度を確かめ、満足そうに頷く――





――後日、ナイは王都の外に出向くとビャクと共に草原へ駆け出し、試合の賞品として受け取った大皿を投げつける。


「それ、ビャク取ってこい!!」
「ウォンッ♪」


ビャクはフリスビーの要領で投げ込まれた大皿を咥え、嬉しそうにナイの元へ運び込む。最近は二人で遊ぶ時間も減ったため、ナイはビャクの機嫌を取るためにこの大皿を選んだのだった――




※久々のビャクの登場です。

ビャク「ワゥンッ(ほんま久しぶりやな)」


(´・ω・`)パ-ン   ←ビャク 
  ⊂彡☆))Д`)) ←カタナヅキ
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