貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

閑話 〈第一王子と第二王子の苦労〉

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――第一王子であるバッシュは他の兄弟の中でも最も知名度が高く、次期国王の器だと言われている。彼自身も幼少期から自分が王位に就くと自負しており、将来のために日々勉学や鍛錬を怠らない。

彼が率いる黒狼騎士団は国内においては父親である国王の猛虎騎士団を除けば最強の騎士団と噂されている。他の弟たちの騎士団の中では最も数が多く、優秀な武人も多い。特に副団長のドリスは公爵家の令嬢でありながら魔法の才も優れており、また槍の名人でもある。


「バッシュ様、例の少年の事ですけど……彼を勧誘しないのですか?」
「少年……ナイの事か?」


ある日、王城の一室にてバッシュは書類仕事を行っていると自分の補佐を行うドリスから話しかけられた。ドリスの口から少年という単語が出てきてバッシュが真っ先に思いついたのはナイだった。


「先日のバッシュ様とナイ君の試合、見事でしたわ。彼の実力は本物ですわ」
「ああ、それはよく分かっている。だが、ナイの年齢は14才だ……あと1年、早く生まれていれば気兼ねなく勧誘出来たんだがな」
「彼が成人に達していないから勧誘しないと?」
「我が騎士団は成人年齢を迎えた者しか団員には加えない。これは騎士団を結成した時に決めた事だ」
「それはそうかもしれませんが……」


バッシュとしてはナイの実力は認めているが、如何せん彼の場合は年齢が若すぎた。黒狼騎士団は成人年齢を迎えた人間しか入る事を許さないという規則がある。これは騎士団を結成する時にバッシュとドリスが決めた事である。

仮にナイが15才だったならばバッシュも迷うことなく彼を団員に勧誘しただろう。黒狼騎士団の団員と比べてもナイの実力は高く、恐らくだが彼の相手を出来るとすれば黒狼騎士団内でも数名程度しかいない。


「まあ、焦る事はない。幸い、テン指導官によるとナイはこの王都でしばらくの間は暮らす様だ。仕事探しのために訪れたそうだが、未だに仕事を見つかっていない辺りは職に悩んでいるのだろう」
「ですけど、あくまでも噂ですが第三王子様がナイさんと接触したという情報が届いています」
「……何だと?」


第三王子の事をドリスが口にするとバッシュは腕を止め、眉をしかめる。彼は昔から末の弟である第三王子とは馬が合わず、苦手意識を抱いていた。


「事実確認は取れていないのか?」
「ええ、王子様によると外出した際に変わった武器を持った少年と白狼種と出会ったそうです。その少年の特徴がナイさんと一致しているようなのでほぼ間違いないでしょう。そもそも白狼種を従える少年など彼ぐらいしかいませんし……」
「そうか……また勝手に外に出たのか、あの愚か者め」
「それにこちらも噂ですが、銀狼騎士団の副団長……リンが部下に命じてナイさんの素性を調査しているという報告が届いてます。彼女もきっとナイさんの事が気になっているようですわ」
「リンもか……」


自分の弟である第三王子と銀狼騎士団の副団長もナイの事を気にしている事を知り、バッシュはため息を吐き出す。騎士団を結成時に成人年齢を迎えた者しか団員に加えないという規則を作った事に彼は初めて後悔した――





――第二王子であるリノは半年前に国王からの命令を受け、ゴブリンキングの調査のために王都を去った。最近は魔物が急激の増加しており、特にゴブリン種による被害が多発していた。

国の学者はゴブリンキングの復活の予兆だと判断し、早急に調査を行い、ゴブリンキングの存在を確認する必要があると報告を行う。この報告に対して国王は第二王子のリノが率いる銀狼騎士団に調査を命じる。

銀狼騎士団の副団長であるリンは王都へ残り、団長であるリノとは別行動を取っているのは理由がある。それは王都にリンが残る事で彼女と連絡を取り合い、時には役目の交代を行う。

実際の所、銀狼騎士団の副団長であるリンの方が団長であるリノよりも実力は高く評価され、彼女は黒狼騎士団の副団長であるドリスと共に「王国の双璧」という異名を持っている。本人たちはこの異名はあまり気に行っていないが、国内においても実力者として名が通っている。

この国の大将軍を務めるのは「ロラン」という男性であり、国王の直属の騎士団の団長を兼任している。しかし、現在の彼は国境の警備を任され、王都から離れていた。そのために緊急事態に備えて王都にはリンとドリスが待機しなければならない。

半年前にリノはナイが世話になっていたイチノという街に辿り着き、ゴブリンキングの調査を行う。しかし、調査の結果はこの街を襲ったのはゴブリンキングではなく、ゴブリンメイジだと判明してここでの調査を打ち切って別の地方へ赴く。


「ふうっ……ここも外れであったか」
「リノ様、本日はもう休まれた方がよろしいです。ここ最近は碌に眠ってもいないではないですか」


とある街の宿屋の一室にてリノは疲れた様子で王国の地図を確認し、自分達がこれまでに訪れた地を確認していた。この半年の間にリノは王国が管理する領地の各地を渡り、ゴブリンキングの情報を集めようとした。だが、結果は芳しくはない。

確かに王国各地ではゴブリン種による被害は多発していたが、肝心のゴブリンキングは発見しておらず、それどころか情報さえも掴めていない。もう王国の領地は殆ど調査したが、この半年の間にゴブリンキングの情報は一つも得られていない。


「やはり、学者の言葉など当てになりません。ゴブリンキングが出現したなどとただの虚言ではないでしょうか?」
「いや……どうだろうな」


リノに同行していた配下の騎士達は半年の間に何も情報が掴めていない事からゴブリンキングなど存在せず、そもそもゴブリンキングなどただの学者の妄言ではないかと疑う者も多い。

しかし、何故かリノはこの半年の間に調査で何の成果も得られていないにも関わらず、ゴブリンキングが存在しないとは思えなかった。ここまで調査したのに何の情報も得られていない事に逆に彼は不審を抱く。


(一度、王都に引き返すべきか……いや、念のためにもう一度あの街を調べてみるか)


リノはかつてゴブリンメイジが魔物の大群を率いて襲い掛かったイチノの街の事を思い出し、彼は王都に引き返す前にもう一度だけあの街に赴く事を決めた。


「明日、イチノへ向けて発つ。それまでの間、ゆっくりと身体を休める様に」
「はっ!!」


騎士達はリノの言葉に従い、どんなに今回の調査に疑念を抱いていようと団長であるリノの命令ならば彼等は従うだけであった――





――だが、この後に彼等の身に恐るべき出来事が起きる事を彼等は知る由もなかった。
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