貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第260話 お待ちしておりましたわ

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「もう間もなく宴が開かれます。どうぞ、馬車へお乗りください」
「ちょっと待ちな、こいつが普段着でいいなら私も着替えて……」
「お乗りください」
「え?いや、だから着替えてから……」
「早くお乗り下さい(にっこり)」
「あ、ああ……分かったよ」


謎のメイドの圧を受けてテンは着替える暇もなく、馬車の中へと乗り込む。ナイ達もその後に続き、全員が馬車に乗り込むとすぐに動き出す。

公爵家が用意してくれた馬車は快適で昨日にナイが乗ったアッシュ公爵の用意した馬車よりも乗り心地が良かった。また、同行していたメイドも美人揃いでナイ以外は全員が女性陣である。


(こうしてみると皆可愛いんだよな……)


ナイは改めて馬車の中を見渡し、全員が見目麗しい。もしも他の男性に見られたら嫉妬されそうな状況ではあるが、どうして自分だけが武装した状態で呼び出されたのか分からずにナイは疑問を抱く。


(それにしても武器と防具を持ってこいなんて何を考えているんだろう。まさか、腕試しがしたいとか言われないかな……)


今回の宴の主役であるドリスは前にナイが戦ったバッシュ王子の配下であり、巷では王子の右腕に等しいと言われている女性である。もしかしたら先日に敗北した王子の代わりに自分が仇を討つ、などと言い出さないのか不安もあった。


(でも、話した限りでは怒っているようには見えなかったし……けど、急に招待状を渡されるような間柄でもないのに)


ドリスとの接点はナイは殆どないため、噴水広場で出会った時はまさか話しかけられるとも思わなかった。それがまさか誕生日の招待状まで貰えるなど予想もできず、結局断る暇もなかった。

まあ、貴族の宴など滅多に参加できないので興味はあるのだが、どうして武装して呼び出されたのかナイには分からずじまいである。そうこう考えるうちに馬車は富豪区に入り、そして遂にドリスの屋敷へと辿り着く。


「宴の席は屋敷の中庭の方にて行われる予定です。こちらへどうぞ」
「うわぁっ……」
「すっご~い!!」


馬車を降りると真っ先にナイ達はブレア公爵家の屋敷を見て驚嘆する。フレア公爵の屋敷は先日にナイが訪れたアッシュ公爵の屋敷にも負けず劣らずの豪勢であり、建物の敷地に関してはアッシュ公爵の屋敷よりも勝っていた。

入口を抜けると左右に花壇が広がり、敷地内には噴水までも存在した。屋敷の前には黄金製の像が立っており、以前にバーリの屋敷で見かけた悪趣味な金の像よりもこちらの方が美しく綺麗に光り輝く女性が黄金で作りだされていた。その女性はドリスのように特徴的な髪の毛をしており、最初にそれを見たナイ達はドリスを模した像かと思った。


「これって、ドリスさんの像かな?」
「黄金で自分の像を作るなんて……意外と成金趣味?」
「それは心外ですわね、その像は私の御先祖様を模して作り出された像ですわよ」
「うわっ!?びっくりした!!」


黄金像の前にナイ達が集まると、建物の出入口の扉から大勢の使用人を連れてドリスが姿を現す。彼女はいつもの制服姿ではなく、ちゃんとしたドレスに着替えており、スカートを摘まんで挨拶を行う。


「皆様、ようこそお越しくださいました。テン様も来てくださって嬉しいですわ」
「あんたの所のメイドに脅されてこんな格好で来る事になったんだよ。責任とってくれるのかい?」
「あらあら、それは失礼しましたわ。でも、その姿もお似合いですわよ」
「言ってろ、小娘……大人をからかうんじゃないよ」


ドリスに対してテンは苦笑いを浮かべ、どうやら以前にテンの元でドリスが世話になっていたという話は事実らしく、二人は親し気に握手を行う。改めてドリスは他の者に顔を向け、挨拶を行う。


「ヒイロ、ミイナ、貴女達もちゃんと来てくれたのですね」
「は、はい!!」
「今日は美味しい物がたくさん食べられると聞いてたから来た」
「それは約束しますわ。今日のためにお父様は国中から一流の料理人を集めましたから、ご期待ください」
「お菓子もあるの!?」
「ええ、当然ですわ。そちらは外国から輸入した代物もありますからお楽しみください」
「本日はご招待ありがとうございます……あの、こちらをどうぞ。お祝いの品です」
「あらあら、何もそんなに気を遣わなくてもよろしかったのに……」


貴族ではあるがドリスは一般人のヒナやモモにも優しく接してくれ、ヒナが皆を代表してとりあえずはお礼の品を渡すと彼女は嬉しそうに受け取る。

ちなみにお礼の品の内容はナイが先日にアッシュ公爵に頼んで王都中からかき集めたお菓子の中でも人気が高く、貴族にも大好評の物を纏めている。この国ではこの手の贈り物は相手が子供や女性の場合に限って有効らしく、ドリスもお菓子好きなので喜んでくれた。
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