貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
258 / 1,110
王都での騒動

第252話 腕相撲の結果は……

しおりを挟む
(聖属性の魔力は身体機能を強化させる……力が欲しい時は筋力、怪我を治したい時や肉体を休めたいときは再生、後は悪霊などの魔物を浄化する時にも使われるとは聞いていたけど、この人の場合は筋力を強化しているのか)


陽光教会に世話になっていた時にナイは聖属性の魔力の本質は教わっており、そして魔操術の基礎はマホから授かった。アッシュは驚くべき事にナイと同じく魔操術の使い手だった。

彼の場合は魔操術を利用して筋力を強化しており、それはナイの「剛力」の技能と全く同じ効果を発揮している。素の身体能力はアッシュがナイよりも上回り、その状態で剛力と同じ能力を扱えるならばならばナイに勝ち目はない。


「これで終わりだぁああっ!!」
「くぅっ……うおおおおっ!!」


しかし、アッシュが力を込めた瞬間にナイは声を張り上げ、逆に彼の腕を押し返す。その光景を見た使用人たちは信じられない声を上げる。


「なっ!?有り得ない……!!」
「あ、あの状態から……押し返した!?」
「そんな馬鹿なっ!?」


アッシュもまさか自分が渾身の力を込めたのにも関わらず、ナイが押し返してきた事に彼は戸惑う。その一方でナイは全身に聖属性の魔力を巡らせ、腕の筋力だけではなく、全身の筋力を強化させていた。

原理としては全身の筋力を剛力で強化させている事に等しく、この状態のナイは強化薬を飲み込んだ時と同じ状態である。腕力だけを強化するのではなく、全身の筋力を強化させる。腕力で敵わないのであれば全身の筋力を総動員させ、全力で押し返す。


「うおおおっ!!」
「ぐううっ!?」
「つ、机に罅が!?」
「馬鹿な、大理石製だぞ!?」


二人の押し合う力で大理石製の机に罅が入り、このままでは壊れるかと思われた時、ナイが一気にアッシュの腕を押し込む。そして遂にアッシュの腕が机に押し込まれようとした瞬間、机が砕けてしまう。


「うわぁっ!?」
「ぬあっ!?」


机が崩壊するのと同時に二人は倒れ込み、この際にアッシュの腕が床に叩きつけられる形となる。彼は自分の腕が床に押し込まれた光景を見て信じられない表情を浮かべた。


「な、なんとっ……」
「あいててっ……」
「だ、大丈夫ですか!?御二人とも怪我は!?」


使用人たちが駆けつけ、二人を抱え起こすとこの時にナイは全身に激痛が走り、苦痛の表情を浮かべた。毎回全身の筋力を魔操術で強化する時は筋肉痛を引き起こし、身体の負担が大きい。

両者共に魔力を消耗したせいでふらふらであり、アッシュは自分の右腕に視線を向け、叩きつけられた手の甲が赤く腫れている事に気付く。それを見た彼は苦笑いを浮かべ、反対の腕を伸ばす。


「良い勝負だった……君の勝ちだ」
「ど、どうも……」


ナイは差し出された左手に自分も手を伸ばすが、先ほどの「全身強化」の影響で筋肉痛に襲われ、身体を動かすだけでもきつい。それでもどうにか握手を行うと、アッシュはナイに告げる。


「次は腕相撲ではなく、本気で君と戦ってみたい物だ」
「えっ……?」
「はっ、ははっ、ふははははっ!!」


アッシュはナイの力を確かめると、満足そうに彼の肩を掴んで笑い声を上げた。その様子を他の使用人たちは苦笑いを浮かべ、一方でナイの方は身体が痛くて今にも倒れそうだった――





――それからしばらく時間が経過すると、ナイは大量のお菓子をお土産にもらって白猫亭に辿り着く。アッシュの配下達は王都中の菓子屋を駆け巡り、本当にお菓子を買い集めてきたらしい。

土産物は先に馬車で白猫亭に運んでもらった後、ナイは兵士の肩を借りながら白猫亭に辿り着くと、そこには困り顔のテンと大量のお菓子が運び込まれて嬉しそうな表情を浮かべるヒイロとモモが立っていた。


「あ、お帰りナイ君!!これ見て、凄いよ!!」
「話は聞いているわ、アッシュ公爵からお詫びの品としてお菓子を買って貰ったんでしょう?どれもこれも有名な菓子屋の品物ばかりだわ!!」
「やれやれ……あんたってやつはどうしてこうも騒ぎを起こすんだい。公爵に連れて行かれと聞いて心配してたってのに……」
「す、すいません……」


大量のお菓子が運び込まれてヒナとモモは喜んでいたが、テンとしてはナイがアッシュ公爵に連れて行かれて度肝を抜かし、しかも大量のお菓子を土産に帰ってきた事に呆れた表情を浮かべる。

ナイはどうにか建物の中に入ると、この時に彼の様子を見てナイが非常に疲れている様子に気付き、すぐにテンはモモに声をかけた。


「モモ、そいつを回復させてやりな。どうやらまた無茶をしたようだね」
「ええっ!?どうしたのナイ君!?」
「まさか、アッシュ公爵に何かされたの!?」
「色々とあって……」


モモはナイが疲労している事に気付くと、慌てて彼の身体に触れて魔力を分け与える。モモから魔力を受け取った事でナイは大分身体の痛みが引いて楽になるが、この時にテンはナイに話しかける。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

お花畑な母親が正当な跡取りである兄を差し置いて俺を跡取りにしようとしている。誰か助けて……

karon
ファンタジー
我が家にはおまけがいる。それは俺の兄、しかし兄はすべてに置いて俺に勝っており、俺は凡人以下。兄を差し置いて俺が跡取りになったら俺は詰む。何とかこの状況から逃げ出したい。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

処理中です...