貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第248話 貴族らしからぬ性格

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「ほう……この少年がミノタウロスを倒した子か?」
「はい!!確認を取った所、たった一人でミノタウロスを倒したそうです!!」
「あの魔人を一人で倒すとは……しかもまだ成人にも達していないのではないか?」
「あ、あの……」


眼帯の男改め「アッシュ」はナイの元に移動すると、ここでナイはアッシュの背の高さに驚く。彼の身長は2メートル近くあるテンよりも大きく、右目を眼帯で覆っており、鎧を身に付けている事から貴族というよりも国の将軍を想像させる恰好をしていた。

年齢は恐らくは30代前半ぐらいだと思われ、その背中にはナイの旋斧のように大きな手斧を二つも背負っていた。相対するだけでナイは圧倒され、先日に戦ったバッシュよりも気迫を感じさせる男だった。


「おっと、自己紹介が遅れたな。俺の名前はアッシュだ、君の名前を聞いてもいいか?」
「あ、はい……ナイ、と言います」
「ナイ、か。いい名前だな」


アッシュはナイの名前を聞くと親し気に両肩を掴み、貴族らしかぬ態度で彼を迎え入れる。その態度にナイは戸惑い、自分はどうして呼び出されたのかを問う。


「あの……どうして僕はここへ連れて来られたんでしょうか?」
「ん?ああ、その事か……実は君には直接に礼を言いたくてここへ呼び出したんだ」
「え、お礼……それだけのために?」
「何だ、そんなに意外か?」


自分が呼び出された理由がお礼を言いたいためだというアッシュの言葉にナイは混乱し、無理やりに兵士に連れて来られたため、ナイはアッシュが自分を呼び出した理由は何事か文句を言われるかと思ったのだが、全く正反対の返答に戸惑いを隠せない。

ここまで案内した隊長も兵士達もアッシュの言葉が意外だったのか動揺し、特にナイを無理やりに連れて行こうとした兵士は焦った表情を浮かべる。


「君を呼び出したのは闘技場に移送中のミノタウロスを始末してくれた事のお礼を言うためだ。君の活躍のお陰で大切な王都の民を傷つけず、被害を最小限に抑える事が出来た。本当に助かった……ありがとう」
「は、はあっ……」
「それにしてもまさかミノタウロスを街中に解き放つとは……おい、すぐに冒険者を手配していた者を呼び出せ!!冒険者ギルドの方にも問い合わせろ、ミノタウロスという凶悪な魔物の警護を銅級冒険者に任せるなど何事だ!!」
「す、すぐに連れてまいります!!」


アッシュの怒鳴り声に兵士達は震え上がり、彼の気迫にナイも無意識に背筋を正す。それほどまでにアッシュの気迫は凄まじく、とても貴族とは思えない。


(この人……テンさんと雰囲気が似てる。きっと凄い武人なんだ)


元々はこの国の最強の女騎士として君臨していたテンと同じぐらいの気迫をアッシュは纏い、ナイは本能的に彼も優れた武人である事を見抜く。アッシュは配下に命令を与えると、改めてナイへと向き直り、彼が何も装備していない事に気付く。


「ん?武器は持っていないのか?報告によれば奇怪な形をした剣でミノタウロスの首を切り裂いたと聞いているが……」
「あ、屋敷に入る前に装備は預けたので……」
「そうか、ならすぐに持ってこさせよう。おい、誰か彼の装備を持ってこい!!」
「え?し、しかし……」
「いいから早く持ってこい!!」
「は、はい!!」


アッシュはナイに装備を返す様に命じると、彼の傍に立っていた兵士は戸惑う。いくら当主の命令とはいえ、屋敷の中に外部から訪れた人間の武器を持ち込ませるなど不用心過ぎる。しかし、アッシュが怒鳴りつけると兵士達は即座に馬車からナイの装備を取り出そうとした。


「ぐぐっ……な、何だこの武器は!?」
「お、重い……!?」
「どうなってるんだ……!?」


しかし、兵士達はナイの装備を運び込む際、最も重量がある旋斧は数名がかりで運び込み、それを見ていたアッシュは興味深そうに兵士達が持ち込んだ旋斧を覗く。


「ほう、これは……ただの剣ではないな、もしかしたら魔剣の類か?」
「魔剣?」
「何だ、違うのか?この剣と呼ぶにはいびつな形、それにこの色合い……魔法金属だな」


旋斧を見てアッシュは魔剣であるのか尋ねるが、ナイは魔剣と聞いて真っ先に思い浮かんだのはヒイロが所持している「烈火」と呼ばれる剣だった。

ヒイロが所持する魔剣「烈火」は刀身に炎を纏う事が出来るが、彼女の魔剣と違ってナイの旋斧はこれまでに炎を纏った事はない。

しかし、先日のガーゴイル亜種との戦闘の際、ナイの旋斧はガーゴイル亜種が放とうとした紫の炎を吸収して刃が発熱したように赤く染まった。その時の旋斧の威力は凄まじく、ガーゴイル亜種を一撃で打ち倒した。


(もしかして旋斧も魔剣なのかな……?)


旋斧が普通の武器ではない事は間違いなく、桁外れの硬度や魔法の炎を吸収する事を考えても旋斧が魔剣の類である可能性は十分にあった。
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