貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第241話 女の子とおでかけ

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「モモ、明日は時間が空いてたら街を案内してくれないかな?仕事で忙しいなら無理にとは言わないけど……」
「えっ!?それって……も、もしかして、でぇと!?」
「でぇと……?」
「あ、でぇとというのはね。男の子と女の子が二人だけで遊んだり、いちゃついたりする事なんだってヒナちゃんが言ってたよ」
「へえ、そんな言葉があるのか……」
「そ、それよりも私と本当に行きたいの?」


モモは恥ずかしそうに表情を赤らめ、どうして街を案内してもらうだけでそんな反応をするのかとナイは思ったが、とりあえずはモモに頼む。


「うん、モモならこの街の事も詳しそうだし、お願いしていいかな?」
「う、うん!!そういう事なら明日は休める様に女将さんに頼んでくるよ!!多分、大丈夫だから!!だって、この店にわざわざ泊まる人もいないから仕事もあんまりないもんね!!」
「それは宿屋として致命的なんじゃ……?」


白猫亭は宿屋ではあるが、基本的にはここに宿泊する人間は殆どいない。理由としては外観がボロボロで廃屋と間違われる事、常連客の殆どがテンの料理目当てに食堂だけを訪ねに来ることが主な原因である。

この宿屋にナイが泊まってからは一度も他の客は訪れた事はなく、やはり外観のせいでこの宿屋が営業しているとは思われていないのだろう。改装すればいいのだが、テンの意向で宿屋が改装される事はない。

ちなみに彼女が改装を頑なに行わない理由はこの宿屋は彼女の恩人からの貰い物であり、その恩人の思い出がある場所なので宿屋を改築したくないという理由である。


「じゃあ、女将さんに聞いてくるね!!ここで待ってて、すぐに聞いてくるから!!」
「あ、うん……よ、よろしく」


モモは嬉しそうに女将の元へ駆け出し、その様子を見てナイはどうして彼女がそんなに必死なのだろうと思いながらも部屋の中で待つ事にした――





――翌日、ナイは正午を迎えると城下町に存在する噴水広場に待機していた。モモが女将に相談した結果、午前中の間に仕事を終わらせる事を条件に彼女は午後の休みを得られた。

ちなみに従業員が白猫亭は二人しかいないため、誰かが休む場合は他の人間に負担が大きくなる。なので新しい人間を雇えばいいのではないかと思うが、経営の問題もあって金銭的な余裕がなく、他の人間を雇えないという。

だからこそモモも本当は一日は休みを取りたかったが、結局は仕事を片付けてから半休を取る事になった。そしてナイは一足先に噴水広場に待機し、彼女が訪れるのを待つ。


「モモ、遅いな……仕事が忙しいのかな?」


モモを待ちながらもナイは噴水広場にて周囲の様子を伺い、不意に広場の方にある掲示板に気付く。少し気になってナイは掲示板を覗き込むと、王都の全域の地図が記されている事に気付く。


「へえ、これが王都の地図か……やっぱり王都は広いな」


王都は大きく分けて四つの地区に分かれており、東西南北にそれぞれ分かれているわけではなく、北東、北西、南東、南西の4つに分かれている事が判明した。

北東は「富豪区」と呼ばれ、主に貴族などの上流階級の人間が暮らしているらしく、北西は「工場区」と呼ばれ、こちらはまだナイが訪れていない区域である。

現在のナイがいる場所は南西の「一般区」であり、主に一般住民が暮らす区域である。そして隣の南東には「商業区」と記されており、これからナイが訪れる予定の区域だった。


(確か、商業区には色々な店があるんだったよな。たくさんの商人が集まって作り出した場所とか言ってたけど……)


これからナイがモモと訪れる商業区は商人が経営する店が全域を占めており、この王都の一番観光名所でもある。モモがよく訪れるお菓子屋もこの商業区に存在するらしく、今日は色々と彼女に案内してもらう予定だった。


「ふうっ、それにしても王都は本当に人が多いな……」


他の街と比べても王都は活気に満ち溢れており、人気が多い。噴水広場のベンチにてナイは座りながら様子を伺っていると、ここで彼は兵士の姿を見かける。


(ん?何だろう、あれ……)


ナイは噴水広場の方に大きな馬車が移動する姿を確認し、最初は商団かと思ったが、どうにも様子がおかしい。馬車が運んでいるのは檻であり、その中には見た事もない魔獣が閉じ込められていた。


「お、おい見ろよあれ……」
「信じられねえ……ミノタウロスじゃねえか!?」
「ミノタウロスだと!?あのの!?」
「おい、見世物じゃないんだぞ!!じろじろと見るな!!」


檻の中に閉じ込められている魔獣を見てナイ以外の人々も動揺し、その反応に気付いた馬車の御者と商団の護衛と思われる冒険者達が注意を行う。

ちなみにナイが見ただけで商団の護衛を行っているのが冒険者だと気付いたのかというと、彼等の格好が統一されていないからだった。冒険者達は基本的には兵士と違って動きやすい恰好をしており、この国の兵士の装備を身に付けてはいないからである。
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