貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第236話 かつての強敵

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「ビャク!!」
「ウォオオオンッ!!」


ゴブリンメイジが少年に向けて魔法を放つ前にナイはビャクに声を掛けると、即座にビャクは鳴き声を上げた。その結果、魔物の群れはビャクの方に振り返り、自分達よりも大きくて恐ろしい風貌の白狼種を見て驚愕した。

よりたくましく成長したビャクは力の弱い魔物なら見るだけで怯えて動けなくなり、特にファングの方は同じ狼型の魔獣であるが故、格の違いを思い知らされる。ビャクの咆哮を耳にしたファングたちの動きが止まり、その間にナイは少年の元へ向かう。


(助けないと!!)


ナイはゴブリンメイジを乗せたファングが止まっている隙に接近し、彼は左腕に装着した反魔の盾に視線を向け、盾の内側に仕込んだ仕掛み武器を放つ。


「このっ!!」
「ギャアアッ!?」
「うわっ!?」


反魔の盾の内側にはボーガンと酷似した武器が内蔵され、その仕込み武器にはナイの養父のアルが作り上げたミスリル製の刃が収納されている。矢の代わりに発射された刃はゴブリンメイジの腕に的中し、杖を落とす。


(魔法が使えなければこいつは強くない!!)


ゴブリンメイジの事はナイもよく知っており、魔法を使えない状態に追い込めば敵ではない。ここでナイは両足に剛力を発動させ、筋力を強化させた状態で跳躍を行う。


「はあああっ!!」
『ギャアアッ!?』
「うわっ!?」


魔物の群れに突っ込んだナイは旋斧を振りかざし、次々とゴブリン達を蹴散らす。数秒後には群れの半分がやられ、その様子を見ていた少年は呆気に取られた表情を浮かべる。

生き残った魔物達はナイには勝てないと判断したのか逃げ始め、その中には片腕を負傷したゴブリンメイジの姿もあった。


「グギィッ……!!」
「逃がすか!!」


逃げようとするゴブリンメイジに対してナイは足元に落ちていた石を拾い上げると、「投擲」の技能を生かして全力で投げつける。逃げようとしたゴブリンメイジの後頭部に石がめり込み、白目を剥いて地面に倒れた。


「アガァッ!?」
「ガウッ!?」


ゴブリンメイジを乗せていたファングは唐突に背中から崩れ落ちたゴブリンメイジに戸惑い、他のゴブリン達も呆気に取られた。しかし、すぐにナイ達の姿を見ると恐怖の表情を浮かべて逃走する。


「「「ギィイイイッ!?」」」
「「「ガアアッ!?」」」
「ウォオンッ!!」


逃げ惑う魔物の群れに対してビャクが即座に追跡を行い、後の敵はビャクに任せてナイは魔物に襲われていた少年の元へ向かう。


「君、大丈夫?」
「あ、ああ……助かったよ」
「こんな所で一人でいると危ないよ?」


腰が抜けたのか倒れ込んでいる少年にナイは手を伸ばすと、少年は苦笑いを浮かべながらその手を掴み、立ち上がらせてもらう。


「ありがとう。本当に助かったよ……それにしても君、もしかして冒険者なのか?」
「いや、そういうのじゃないけど……」
「それにさっきの白狼種、あれは君が使役しているのかい?」
「友達、いや家族みたいなものかな」
「クゥ~ンッ……」


会話の際中にビャクが戻り、口元を赤く濡らした状態だった。どうやら逃げた魔物を始末してきたらしく、あちこちにゴブリンとファングの死骸が倒れていた。

見逃しても問題はなかったのだが、ビャクにとっては良い運動になったらしく、満足そうに尻尾を振る。ゴブリンメイジがどうしてこんな場所に存在したのかは気になるが、少年が襲われる前に討伐できたのは幸いだった。


「白狼種か、珍しいな。実物を見るのは初めてだよ」
「クゥンッ?」
「あれ、ビャクが怖くないの?」
「怖い?どうして?君に懐いているという事は人にも慣れているんだろう?それよりも、もう少しだけ近くで見ていいかい?」


少年は血塗れのビャクを見ても怖がる素振りはなく、それどころか興味深そうに近付いて観察を行う。その少年の態度にナイとビャクは戸惑うが、ここでナイはゴブリンメイジが落とした杖を拾い上げる。


(この杖……何処から手に入れたんだろう)


ゴブリンメイジが所持していた杖は火属性の魔石が取り付けられており、魔石も杖も簡単に手に入る代物ではないため、人間から奪った物なのは間違いない。

どこかで魔術師が襲われて杖を奪われたと考えるのが妥当だが、問題なのはゴブリンメイジが王都の付近で現れたなどという情報はナイも聞いた事がない。そもそも王都の付近でゴブリンを見かけたのも初めてであり、嫌な予感を抱く。


(こういう時の予感は外れた事がないんだよな……)


ナイは杖を回収して改めて少年に振り返り、どうして彼が魔物の群れに襲われる経緯に至ったのかを問い質す。
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