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王都での騒動
第228話 第一王子バッシュ
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(どうするべきか……この様子では説得は難しい、かといって無理やり取り上げれば私が他の者に恨まれてしまう。しかし、だからといって返すわけにも……)
リンは頭を下げ続けるナイを見て頭を悩め、ここで彼の願いを拒否すればテンを始めに他の者から非難されるだろう。だからといってナイに盾を返却すれば上の人間から責め立てられる。
彼女はドリスの事を恨ましく思い、立場的にはドリスもナイから盾を回収する事を指示する人間である。しかし、直接的に上から命令を受けていない彼女はリンを責めて彼女を追い込む。
(ドリスめ……私に全部責任を押し付けるつもりか?いや、この女がそんな姑息な手は使わない。きっと善意からだろう)
ドリスの性格はよく知っており、彼女というよりは彼女の家系の人間は「義」を重んじる。今回のドリスの行動も彼女から見ればナイの言い分が正しいと思っての判断であり、決してそこにはリンを嵌めようとする悪意はない。
だが、悪意がなくともドリスの行為によってリンは追い詰められている事に違いはなく、このままではリンだけが責任を問い詰められる形となる。それだけは避けねばならず、リンはどうしようかと悩んでいると、ここで扉が開かれた。
「……入るぞ」
「あん?いったい誰だい……うおっ!?」
「あ、貴方は!?」
「どうしてここに……?」
「えっ?」
唐突に開け放たれた扉にテン達は疑問を抱いて振り返ると、そこには黒髪の青年が経っていた。正確に言えば美青年という方が正しく、この国の第二王子であるリノと容姿が似た青年が部屋の中に入ってきた。
青年はオウソウと同じように金狼騎士団の鎧を身に付けているが、青年の身に付けている鎧の方には胸元の部分に「狼」を想像させる紋様が刻まれており、狼の目元の部分には黒水晶が埋め込まれていた。彼を見た途端に部屋の中にいた騎士達は跪き、テンでさえも冷や汗を流しながら膝を着く。
「バッシュ様……お戻りになられていたのですか?」
「事前に連絡して下さればお迎えに上がりましたのに……」
「ああ、先ほど帰ってきたばかりだ」
円卓に座っていたリンとドリスも慌てて青年に敬礼を行う。その態度を見てナイは彼が二人よりも偉い立場の人間だと知る。
(バッシュ……そうだ、思い出した!!確か、この国の第一王子の名前だ!!)
ナイは以前に第二王子のリノと遭遇した事はあったが、実際に彼と出会った時は甲冑で顔を隠しており、中身を見る事は出来なかった。だが、今回は現れた第一王子の顔をはっきりと見る事が出来た。
バッシュは実の弟であるリノと同様に一見は女性のように整った顔立ちをしており、リノ以上に髪の毛が長い。しかし、彼こそがこの国の第一王子にして次期王位継承者である。
彼は黒狼騎士団の団長を務め、副団長のドリスからすれば上司に当たる。そして王子であるが故にリンも態度を改め、オウソウに至っては額を床にこすりつける程に頭を下げていた。
「お前達、話し合いを行うにしても声をもう少し抑えた方が良い。外からでも聞こえていたぞ」
「こ、これは失礼しました。以後、気を付けますわ」
「申し訳ございません」
「しかし、だいたいの事情は把握した。一応は事前に部下から報告を受けていたが、反魔の盾を持ち込んだというのはこの少年の事だな?」
「え、あの……」
バッシュは床の上で呆然と自分を見上げるナイに視線を向け、いきなり顎を掴む。その行為にナイは戸惑うが、バッシュはナイに視線を向け、その顔をまじまじと覗き込む。
「ふむ……瞳の奥に強い意志を感じる」
「瞳……?」
ナイはバッシュの行動に戸惑うが、すぐに彼はナイから手を離すと机の上に置かれている反魔の盾を手にする。彼は黙って反魔の盾を見つめると、やがて感嘆の声を漏らす。
「素晴らしい……これがあの伝説の騎士、ゴルドに譲渡されたという反魔の盾か。100年以上も前に作り上げられた物だと聞いているが、綺麗に磨かれているな。よく手入れをされているようだが、これは君がやったのか?」
「あ、はい。爺ちゃん、いや養父から武器の手入れだけは怠るなと言われていたので……」
「ほう、それは良い心掛けだ。父親もいい教育をしている」
バッシュの言葉にナイは頷き、実際に養父のアルが生きていた時は武器や道具の手入れを怠らない様にしろとよく注意されていた。元鍛冶師であるが故かアルは自分の道具の手入れだけは毎日のように行い、それを息子のナイにも徹底的に躾けていた。
反魔の盾が綺麗に手入れされている事にバッシュは満足そうに頷き、改めてナイに振り返ると、彼は反魔の盾を差し出す。その行為に他の者達は驚くが、ナイはバッシュが盾を返してくれるのかと思った時、バッシュが語り掛ける。
「これを持て」
「え?あ、はい……」
「王子様!?いったい何を……」
「黙っていろ」
オウソウはバッシュの行動を見て信じられない声を上げるが、彼が睨みつけると顔色を青くさせて黙り込む。ナイは不思議に思いながらも反魔の盾を受け取ろうとしたが、何故か王子は手放そうとしない。
リンは頭を下げ続けるナイを見て頭を悩め、ここで彼の願いを拒否すればテンを始めに他の者から非難されるだろう。だからといってナイに盾を返却すれば上の人間から責め立てられる。
彼女はドリスの事を恨ましく思い、立場的にはドリスもナイから盾を回収する事を指示する人間である。しかし、直接的に上から命令を受けていない彼女はリンを責めて彼女を追い込む。
(ドリスめ……私に全部責任を押し付けるつもりか?いや、この女がそんな姑息な手は使わない。きっと善意からだろう)
ドリスの性格はよく知っており、彼女というよりは彼女の家系の人間は「義」を重んじる。今回のドリスの行動も彼女から見ればナイの言い分が正しいと思っての判断であり、決してそこにはリンを嵌めようとする悪意はない。
だが、悪意がなくともドリスの行為によってリンは追い詰められている事に違いはなく、このままではリンだけが責任を問い詰められる形となる。それだけは避けねばならず、リンはどうしようかと悩んでいると、ここで扉が開かれた。
「……入るぞ」
「あん?いったい誰だい……うおっ!?」
「あ、貴方は!?」
「どうしてここに……?」
「えっ?」
唐突に開け放たれた扉にテン達は疑問を抱いて振り返ると、そこには黒髪の青年が経っていた。正確に言えば美青年という方が正しく、この国の第二王子であるリノと容姿が似た青年が部屋の中に入ってきた。
青年はオウソウと同じように金狼騎士団の鎧を身に付けているが、青年の身に付けている鎧の方には胸元の部分に「狼」を想像させる紋様が刻まれており、狼の目元の部分には黒水晶が埋め込まれていた。彼を見た途端に部屋の中にいた騎士達は跪き、テンでさえも冷や汗を流しながら膝を着く。
「バッシュ様……お戻りになられていたのですか?」
「事前に連絡して下さればお迎えに上がりましたのに……」
「ああ、先ほど帰ってきたばかりだ」
円卓に座っていたリンとドリスも慌てて青年に敬礼を行う。その態度を見てナイは彼が二人よりも偉い立場の人間だと知る。
(バッシュ……そうだ、思い出した!!確か、この国の第一王子の名前だ!!)
ナイは以前に第二王子のリノと遭遇した事はあったが、実際に彼と出会った時は甲冑で顔を隠しており、中身を見る事は出来なかった。だが、今回は現れた第一王子の顔をはっきりと見る事が出来た。
バッシュは実の弟であるリノと同様に一見は女性のように整った顔立ちをしており、リノ以上に髪の毛が長い。しかし、彼こそがこの国の第一王子にして次期王位継承者である。
彼は黒狼騎士団の団長を務め、副団長のドリスからすれば上司に当たる。そして王子であるが故にリンも態度を改め、オウソウに至っては額を床にこすりつける程に頭を下げていた。
「お前達、話し合いを行うにしても声をもう少し抑えた方が良い。外からでも聞こえていたぞ」
「こ、これは失礼しました。以後、気を付けますわ」
「申し訳ございません」
「しかし、だいたいの事情は把握した。一応は事前に部下から報告を受けていたが、反魔の盾を持ち込んだというのはこの少年の事だな?」
「え、あの……」
バッシュは床の上で呆然と自分を見上げるナイに視線を向け、いきなり顎を掴む。その行為にナイは戸惑うが、バッシュはナイに視線を向け、その顔をまじまじと覗き込む。
「ふむ……瞳の奥に強い意志を感じる」
「瞳……?」
ナイはバッシュの行動に戸惑うが、すぐに彼はナイから手を離すと机の上に置かれている反魔の盾を手にする。彼は黙って反魔の盾を見つめると、やがて感嘆の声を漏らす。
「素晴らしい……これがあの伝説の騎士、ゴルドに譲渡されたという反魔の盾か。100年以上も前に作り上げられた物だと聞いているが、綺麗に磨かれているな。よく手入れをされているようだが、これは君がやったのか?」
「あ、はい。爺ちゃん、いや養父から武器の手入れだけは怠るなと言われていたので……」
「ほう、それは良い心掛けだ。父親もいい教育をしている」
バッシュの言葉にナイは頷き、実際に養父のアルが生きていた時は武器や道具の手入れを怠らない様にしろとよく注意されていた。元鍛冶師であるが故かアルは自分の道具の手入れだけは毎日のように行い、それを息子のナイにも徹底的に躾けていた。
反魔の盾が綺麗に手入れされている事にバッシュは満足そうに頷き、改めてナイに振り返ると、彼は反魔の盾を差し出す。その行為に他の者達は驚くが、ナイはバッシュが盾を返してくれるのかと思った時、バッシュが語り掛ける。
「これを持て」
「え?あ、はい……」
「王子様!?いったい何を……」
「黙っていろ」
オウソウはバッシュの行動を見て信じられない声を上げるが、彼が睨みつけると顔色を青くさせて黙り込む。ナイは不思議に思いながらも反魔の盾を受け取ろうとしたが、何故か王子は手放そうとしない。
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