貧弱の英雄

カタナヅキ

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王都での騒動

第202話 修行の成果「魔操術」

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(――右腕に魔力を集中するんだ)


旅立ちの前にマホから教わった「魔操術」の事を思い出したナイは目を閉じて集中すると、体内に宿る自分の魔力を感じとる。ナイは聖属性の適性が高く、聖属性の本質は「身体機能」を強化する魔力である。

回復魔法を発動させる際、他者に魔力を送り込む。その行為によって魔力を送り込まれた人間の自然治癒力を強化させて怪我を治す。これが回復魔法の原理であり、ならばどうして回復魔法は自分自身の肉体を治せないのか、それは単純に回復魔法は他者に魔力を分け与える技術でしかないからだった。

ナイは自分の中に宿る魔力を感じ取り、それを怪我をした箇所に送り込む。右腕に魔力を集中させ、活性化させる事で自分の肉体の自然治癒力を強化させ、怪我を治す。この時にナイは「自然回復」の技能も備えているため、通常の人間よりも自然治癒力が非常に強い。しかも普段からよく怪我をするので自然回復の技能は他の技能よりも発達している。


(要領は剛力を発動させる時と同じだ。難しく考える必要はない)


剛力などの技能を発動する際もナイは無意識に聖属性の魔力を使用し、筋力を強化させている。そして今回の場合は魔力で強化させるのは筋力ではなく、肉体の「再生機能」である。


(よし、痛みが引いてきた。次に骨の罅と、腫れを引けば……)


ナイの右腕が回復魔法を発動した時と同じように光り輝き、右腕の怪我は跡形もなく消えてしまう。ナイは目を開くとそこにはいつも通りの右腕が存在し、僅か10秒足らずで怪我を治す事に成功した。


「よし、治った」
「えっ……えっ!?」
「嘘っ!?あんなに腫れてたのに……」
「な、何だと!?馬鹿な、どういう事だ!?」
「ギャギャッ……!?」


部屋の中の全員がナイの声を聞いて振り返ると、そこには右腕を完治させたナイの姿が存在し、何事もなかったように退魔刀を持ち上げる。それを見た誰もがは信じられない表情を浮かべ、その一方でナイはガーゴイルに睨みつける。

怪我の治療のために魔力は消耗したが、それでも戦う事には問題なく、改めてナイはガーゴイルと向き合う。相手が石像の化物であろうと、ナイは一年以上も前に自分の身の丈を越える巨岩を破壊し続けた実績がある。


(思い出すんだ、修行してきた日々を……)


鋼鉄のような硬度を誇る赤毛熊を倒すため、ナイは毎日旋斧で岩を破壊する修行を行い、一撃で巨岩を破壊するだけの攻撃力を手にした。ガーゴイルが石像の化物だとしたら岩を破壊するナイに破壊できないはずがない。


「二人とも、下がって」
「う、うん……」
「大丈夫なの……?」
「く、くそっ……ガーゴイル!!そいつを殺せ!!」
『ギャアアアッ!!』


ヒナとモモを下がらせるとナイは退魔刀を構え、それを見たバーリはガーゴイルに命令する。その声に反応する様にガーゴイルは駆け出すと、それに対してナイは退魔刀を両手で握り締めて上段に構えた。

この時にナイは子供の頃に岩に向けて旋斧を叩き込む日々を思い出し、あの頃よりもナイは筋力を身に付け、剛力の技能も強化されていた。今ならば巨岩どころか鉄の塊だろうと叩き斬る事が出来る気がした。



(――ぶっ壊す!!)



相手を石像の化物だろうと構わず、ナイは子供の時のように巨岩に対して全力で剣を振り回す。その結果、ナイの放った退魔刀の刃はガーゴイルの頭部に食い込み、そのまま肉体を一刀両断した。


「円斧!!」
『アガァッ……!?』


上半身と下半身を真っ二つに切り裂かれたガーゴイルは何が起きたのか分からず、二つに分かれた肉体は床に倒れ込む。この時にガーゴイルの腹の部分に埋め込まれていた紫色の魔石も真っ二つに切り裂かれ、光を失う――





※今回は短めですが、ここまでにしておきます。
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