貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
183 / 1,110
王都での騒動

第182話 成金趣味

しおりを挟む
バーリの屋敷の中はドルトンの屋敷と比べても内装は派手であり、大量の芸術品が置かれていた。壁には所狭しと絵画が立てかけられており、ナイ達は美術館にでも迷い込んだのかと錯覚するほどである。

玄関ホールの中央には黄金に輝く石像が存在し、恐らくは女神像だと思われた。こちらの像だけでもどれほどの価値があるのか分からないが、何故か女神像の傍には恐ろしい形相をした魔物の石像も存在した。


「何よ、ここ……」
「わあっ……す、凄いね」
「見るからに成金趣味ですね……私、何度か仕事で貴族の屋敷に入った事がありますが、ここまでの屋敷は初めてです」
「何か、趣味が悪いな……」
「お前等……頼むから他の兵士の前では絶対に喋るなよ」


屋敷の内装を見てナイ達は呆れてしまい、そんな彼等にモウタツは注意すると、ここで屋敷の使用人と思われる女性が現れた。


「……ご用件は何でしょうか?」
「あ、ああ……バーリさんに貢物、いや……贈り物を届けにきた。どうか主人に会わせてくれ」
「申し訳ありませんが、バーリ様は男性の方とは会いません。ここから先は私が案内しますが、よろしいですか?」
「お、おいおい……それは困るな。俺は頭からバーリさんに直々に贈り物を渡すように命じられているんだ」
「そうは申されましても……男性の方を連れて行ったら私が怒られてしまいます。下手をしたら……」


モウタツは女性の使用人に抗議するが、使用人の方は身体を震わせ、顔色を青くさせる。どうやらバーリの「お仕置き」とやらを恐れているらしく、少し可哀想に思えた。

だが、ここでモウタツと離れるのは得策ではなく、もしも彼が離れている間に裏切ってしまえば計画は台無しになってしまう。そこでナイはヒイロに視線を向け、彼女にモウタツの見張りを任せる。


「ヒイロさん、モウタツの傍から離れないで……」
「えっ!?ですが……」
「大丈夫、二人は僕が守ります」
「……わ、分かりました。信じていますよ」


ナイの言葉にヒイロは仕方なく従い、この状況で文句を言えば逆に怪しまれてしまう。モウタツの事はヒイロに任せ、ナイはヒナとモモと一緒に使用人の後に付いていく。


「二人とも……いざという時は俺の後ろに隠れてください。何が起きようと二人は守りますから」
「男の子ね……頼りになるじゃない」
「う、うん……格好いいよ。でも、その恰好で言われるとちょっと変な感じだね」
「…………」


ヒナとモモはナイの今の格好で男らしい事を言われても違和感を拭えず、その一方でナイも早く着替えたいと思った。バーリと出会うまでは我慢するしかない。


「ちっ、分かったよ。なら、俺達はここで待たせてもらう。そいつらはあんたに任せる……それでいいんだろ?」
「はい、申し訳ございません……では、参りましょうか」
「3人とも、気を付けて……」


使用人はモウタツの返事を聞いて安堵すると、ナイ達を連れてバーリの私室へと向かう。この途中でナイは何度か通路に置かれている魔物の姿をした石像を見かけて疑問を抱く。


(何だろう、この石像……何か変な感じがする)


異様なまでに巧妙に作り出された魔物の石像を見てナイは違和感を拭えず、どうにもバーリの趣味が分からない。成金趣味の癖に魔物の石像だけは不気味過ぎて見ていて気分が落ち着かない。

美術品にしては異様な雰囲気を放つ石像は屋敷の至るところに存在し、それに対してナイはどうにも落ち着かず、早くバーリを捕まえてミイナを見つけ出したいと思った。そして考えている間にも使用人は目的地へと辿り着く。


「こちらにバーリ様がおられます。ここから先は貴方達だけが入って下さい」
「え?でも……」
「バーリ様、あの御方からの贈り物が届きました」
『んんっ!?贈り物だと……昨日も来たばかりなのに随分と羽振りがいいな』


使用人がノックを行うと扉の内側から声が響き、勢いよく扉が開かれる。部屋の中から現れたのは小太りの中年男性だった。その姿を見てナイ達は表情を引きつらせる。


「ほうほう、これはこれは……随分と若いのを送り込んできたな!!見た所、3人とも未成年ではないか!?アッシュの奴め、中々気の利いたの贈り物をしてくれたな!!」
「あ、あの……」
「おおっ、すまんすまん。怯える事はないぞ!!儂は優しいからな……ささっ、中に入ってくれ」


バーリという男は身長は150センチ程度しか存在せず、かなり太った男性だった。最初に見た時はナイはオークかと思ったが、すぐに彼がバーリだと知る。

先ほどヒナは屋敷の内装を見て成金趣味が作った屋敷なのかと言ったが、その言葉通りにバーリの外見もかなりひどく、全ての指には様々な宝石の付いた指輪を嵌め込み、耳にはピアスまで取り付けている。首には紫色の宝石のペンダントも掲げていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...