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王都での騒動
第170話 女主人は元女騎士
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「お、お前……何者だ!?冒険者か、それとも傭兵か!?」
「……強いて言うなら狩人です」
「か、狩人だと……ふざけてんのか!?」
自分の腕に痣を作り出したナイに対して男は恐怖し、その一方でナイの方は少しやり過ぎたかと思ったが、男の方は性懲りもなく腰に差している剣に手を伸ばす。
流石に武器を抜かれたらまずいと思ったナイは男が動き出す前に止めようかとしたが、ここで男の背後から大きな影が現れた。
「舐めやがって、本当にぶっ殺して……」
「おい、あんた……うちの店で何をしてるんだい?」
「えっ……う、うわぁっ!?」
男は後方から殺気を感じて振り返ると、そこには修羅のような表情を浮かべたテンの姿があり、彼女は剣に手を伸ばしている男を見て睨みつける。彼女のあまりの迫力に周囲の者達も静まり返り、ナイの方も下手をしたら赤毛熊を上回る威圧感を誇る彼女にたじろぐ。
テンの気迫に気圧された男は完全に酔いが冷めたのか表情を青ざめる。その様子を見たテンは腕を組み、恐ろしい表情を浮かべたまま顔を近づける。
「あんた、まさかとは思うけどうちの店でそいつを抜こうとしたんじゃないだろうね……?」
「ひいっ!?」
「いっておくが、冒険者だろうか警備兵だろうが将軍だろうが王様だろうが……うちの店で暴れるような真似をしたらただじゃ済まないよ!!」
「は、はひぃっ!!すいませんでしたぁっ!!」
あまりのテンの迫力に男は戦意を失い、人前で恥ずかしげもなく土下座を行う。ここで抵抗しようものならどうなるのか分からず、男の本能が敗北を促す。
命乞いでもするかのように土下座を行う男に対してテンはため息を吐き出し、二人の従業員に視線を向ける。ヒナは視線を向けられて身体を震わせるが、モモはテンに抱きついてきた。
「女将さん、怖かったよ~」
「お~よしよし、怖がらせて悪かったね~」
モモが抱きついてきた瞬間、テンは表情を一変させて彼女の頭を撫でまわす。その彼女の変わりようにナイも跪いている冒険者の男も呆気に取られるが、彼女はすぐに男に顔を向けると、険しい表情を浮かべる。
「あんた、うちの娘達に手を出したら許さないからね!!詫び金として有り金を全部置いてとっとと出て行きな!!」
「ひ、ひいいっ!?すいませんでしたぁああっ!!」
「あっ……」
男は財布を取り出すとテンに差し出し、一目散に駆け出す。その様子を見てテンは鼻を鳴らし、その一方でナイの方に視線を向けた。
「あんた、うちの娘達が世話になったようだね。お礼に今日の食事代はただにしてやるよ、何でも好きな物を頼みな」
「えっ……いいんですか?」
「ああ、気にしなくていいよ。それにしてもあんた……」
テンはナイの身体に視線を向け、何事か考える様に彼の身体を観察する。その彼女の態度にナイは戸惑うが、テンはナイに近寄ると身体をべたべたと触り始めた。
「ふむ、なるほど……これは驚いたね」
「え、あの……!?」
「お、女将さん?なにをしてるんですか?」
「ど、どうしたの~?」
急にナイの身体を触り始めたテンに他の二人も戸惑うが、彼女はナイの腕の筋肉に触れた際、納得したように頷く。触れてみて分かったが、ナイの筋肉は特殊な事に気付いた。
(こいつ、見た目は華奢だけど筋肉質が特殊だね。高レベルの冒険者でもこれほどの筋肉質を持っている人間はいない……相当に鍛えこまれているね)
触れただけでテンはナイの筋肉が普通ではない事に気付き、彼が普通の人間ではない事を悟る。恐らくは相当な修羅場を潜り抜けており、この年齢でここまでの肉体を作り上げた人物など彼女は知らない。
その一方でいきなり身体に触れてきたテンにナイは戸惑うが、彼女は満足したのかナイの両肩を掴むと、笑いかけた。
「あんた……良い筋肉を持っているね。レベルはいくつなんだい?」
「え?レベル……?」
「そこまでの筋肉を持っているという事は相当にレベルも上げてるんだろう?私の見立てじゃ……レベル40、いやレベル50近くはあるね」
「レ、レベル50!?」
「あんな子供が……!?」
「そんな馬鹿な……!!」
テンの言葉に周囲の客は動揺を隠せず、この世界においてレベル50まで辿り着ける人間は冒険者以外は滅多にいない。その冒険者でも50レベルにまで到達している人間は王都でも一握りであり、しかもナイのような子供がレベル50まで到達するなど普通ならば有り得ない話である。
実際の所はナイのレベルは50どころか1なのだが、その事を説明するとナイは自分が忌み子である事を明かさねばならずに困っていると、テンは何かを察したように謝った。
「ああ、悪い悪い。こんな場所でレベルを聞くなんて失礼だったね、まあ流石にレベル50は言いすぎたね……ほら、座りな」
「あ、はい……」
空いている席にナイを座らせるとテンはそのまま厨房へと戻り、この時にナイは彼女の後姿を見て呟く。
「あの人……とんでもなく強い」
「当たり前よ、女将さんはこの国で一番強い女騎士だったんだから」
「えっ……?」
ナイの呟きに近くにいたヒナが反応し、彼女はテンが宿屋を経営する前は国に仕える騎士であった事を明かす――
「……強いて言うなら狩人です」
「か、狩人だと……ふざけてんのか!?」
自分の腕に痣を作り出したナイに対して男は恐怖し、その一方でナイの方は少しやり過ぎたかと思ったが、男の方は性懲りもなく腰に差している剣に手を伸ばす。
流石に武器を抜かれたらまずいと思ったナイは男が動き出す前に止めようかとしたが、ここで男の背後から大きな影が現れた。
「舐めやがって、本当にぶっ殺して……」
「おい、あんた……うちの店で何をしてるんだい?」
「えっ……う、うわぁっ!?」
男は後方から殺気を感じて振り返ると、そこには修羅のような表情を浮かべたテンの姿があり、彼女は剣に手を伸ばしている男を見て睨みつける。彼女のあまりの迫力に周囲の者達も静まり返り、ナイの方も下手をしたら赤毛熊を上回る威圧感を誇る彼女にたじろぐ。
テンの気迫に気圧された男は完全に酔いが冷めたのか表情を青ざめる。その様子を見たテンは腕を組み、恐ろしい表情を浮かべたまま顔を近づける。
「あんた、まさかとは思うけどうちの店でそいつを抜こうとしたんじゃないだろうね……?」
「ひいっ!?」
「いっておくが、冒険者だろうか警備兵だろうが将軍だろうが王様だろうが……うちの店で暴れるような真似をしたらただじゃ済まないよ!!」
「は、はひぃっ!!すいませんでしたぁっ!!」
あまりのテンの迫力に男は戦意を失い、人前で恥ずかしげもなく土下座を行う。ここで抵抗しようものならどうなるのか分からず、男の本能が敗北を促す。
命乞いでもするかのように土下座を行う男に対してテンはため息を吐き出し、二人の従業員に視線を向ける。ヒナは視線を向けられて身体を震わせるが、モモはテンに抱きついてきた。
「女将さん、怖かったよ~」
「お~よしよし、怖がらせて悪かったね~」
モモが抱きついてきた瞬間、テンは表情を一変させて彼女の頭を撫でまわす。その彼女の変わりようにナイも跪いている冒険者の男も呆気に取られるが、彼女はすぐに男に顔を向けると、険しい表情を浮かべる。
「あんた、うちの娘達に手を出したら許さないからね!!詫び金として有り金を全部置いてとっとと出て行きな!!」
「ひ、ひいいっ!?すいませんでしたぁああっ!!」
「あっ……」
男は財布を取り出すとテンに差し出し、一目散に駆け出す。その様子を見てテンは鼻を鳴らし、その一方でナイの方に視線を向けた。
「あんた、うちの娘達が世話になったようだね。お礼に今日の食事代はただにしてやるよ、何でも好きな物を頼みな」
「えっ……いいんですか?」
「ああ、気にしなくていいよ。それにしてもあんた……」
テンはナイの身体に視線を向け、何事か考える様に彼の身体を観察する。その彼女の態度にナイは戸惑うが、テンはナイに近寄ると身体をべたべたと触り始めた。
「ふむ、なるほど……これは驚いたね」
「え、あの……!?」
「お、女将さん?なにをしてるんですか?」
「ど、どうしたの~?」
急にナイの身体を触り始めたテンに他の二人も戸惑うが、彼女はナイの腕の筋肉に触れた際、納得したように頷く。触れてみて分かったが、ナイの筋肉は特殊な事に気付いた。
(こいつ、見た目は華奢だけど筋肉質が特殊だね。高レベルの冒険者でもこれほどの筋肉質を持っている人間はいない……相当に鍛えこまれているね)
触れただけでテンはナイの筋肉が普通ではない事に気付き、彼が普通の人間ではない事を悟る。恐らくは相当な修羅場を潜り抜けており、この年齢でここまでの肉体を作り上げた人物など彼女は知らない。
その一方でいきなり身体に触れてきたテンにナイは戸惑うが、彼女は満足したのかナイの両肩を掴むと、笑いかけた。
「あんた……良い筋肉を持っているね。レベルはいくつなんだい?」
「え?レベル……?」
「そこまでの筋肉を持っているという事は相当にレベルも上げてるんだろう?私の見立てじゃ……レベル40、いやレベル50近くはあるね」
「レ、レベル50!?」
「あんな子供が……!?」
「そんな馬鹿な……!!」
テンの言葉に周囲の客は動揺を隠せず、この世界においてレベル50まで辿り着ける人間は冒険者以外は滅多にいない。その冒険者でも50レベルにまで到達している人間は王都でも一握りであり、しかもナイのような子供がレベル50まで到達するなど普通ならば有り得ない話である。
実際の所はナイのレベルは50どころか1なのだが、その事を説明するとナイは自分が忌み子である事を明かさねばならずに困っていると、テンは何かを察したように謝った。
「ああ、悪い悪い。こんな場所でレベルを聞くなんて失礼だったね、まあ流石にレベル50は言いすぎたね……ほら、座りな」
「あ、はい……」
空いている席にナイを座らせるとテンはそのまま厨房へと戻り、この時にナイは彼女の後姿を見て呟く。
「あの人……とんでもなく強い」
「当たり前よ、女将さんはこの国で一番強い女騎士だったんだから」
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