貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第158話 帰還、そして新たな旅へ……

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――全ての準備を整えた後、ナイは夜中に街を出発する事にした。流石に深夜を迎えると人気も少なく、今の内ならばナイが屋敷から抜け出しても他の人間に見つかる可能性は低かった。


「じゃあ、ドルトンさん……しばらくお別れになると思います」
「うむ……もしもこの近くへ訪れる事があったら、必ず顔を見せるのだぞ」
「はい、分かりました。じゃあ……行ってきます」
「ウォンッ」


ナイはドルトンと最後に抱擁した後、ビャクの背中に乗り込んで街道を駆け出す。その様子をドルトンは寂し気な表情で見送るが、いつの日かまた会える事を信じて送り出す。


「アルよ、お主は良い息子を持ったな……羨ましいよ」


今は亡きアルの事を思い浮かべ、ドルトンは彼の息子が立派に育ったことを嬉しく思う一方、自分もナイのような息子が欲しかったと思う――




――その後、ナイはビャクと共に街を抜け出すと村へと向かい、そして夜が明ける頃には故郷へと辿り着いた。村の様子は思っていた以上に酷く、三か月前よりも荒れていた。

村の中央には村人達の墓が建てられており、これらはドルトンが村人の事を不憫に思って作ったと聞いていた。墓の中にはゴマンの墓もあり、ナイは彼の墓の前で両手を合わせる。


「ゴマン……もう少しだけ、この盾は借りておくよ。でも、必ず返しに来るからね」
「クゥ~ンッ……」


ナイはゴマンから受け取った盾を握りしめ、いつの日かここへ戻って来た時に彼に盾を返す事を約束する。そしてナイは自分の家へと戻り、アルの墓の前に立つ。


「爺ちゃん……ただいま」


アルの墓にナイは自分が戻って来たことを伝えると、笑顔を浮かべる。すると、天国のアルもなんとなくだが笑いかけてきたような気がした。

しばらくの間はナイは墓の前でこれまでの出来事を話しかけていたが、やがてナイはある事を思い出したように荒れ果てた家に視線を向け、ある事を思い出す。


「そういえばここにあったよな……まだ残っているかな」


自分が不在の間に誰かが忍び込んでいない事を祈りながらナイは家へと戻り、かつてアルが赤毛熊を倒すために作り出した武器を探し出す。


「あった、良かった。盗まれてなかったか……」


ナイが手にしたのはミスリルで構成された槍であり、これはアルが死ぬ前に最後に作り出した武器である。このミスリルの槍を使ってアルは赤毛熊に対抗しようとしていた。

ミスリル製の武器は鋼鉄を上回る強度を誇り、この武器ならば赤毛熊を倒せると信じてアルは作り出した。だが、ナイは槍を使い慣れていないので結局は旋斧で赤毛熊を倒したが、この槍もアルの形見である事に違いはなく、持っていく事にした。


「槍か、僕に使いこなせるかな……あっ!?」


ナイは槍を握りしめようとすると、長らく放置していたせいか、あるいは接合部分が緩んでいたのか槍の刃の部分だけが取れてしまう。それを見たナイは慌てて拾い上げるが、この時に槍の形状を見てナイはある事を思いつく。


「そうだ、これ……もしかしたら使えるかもしれない」
「ウォンッ?」


自分が身に付けている盾にナイは視線を向け、拾い上げたミスリルの刃を手にしたナイはある事を思いつく。使い慣れない槍よりも自分が思いついた武器の方が役立つと思い、ミスリルの刃も回収しておく。

最後にナイは家の中から残っていたまだ使えそうな道具を回収し、最後にアルの墓の前で報告を行う。恐らくは当分の間は村へ戻ってこれないと考え、ナイはアルに誓う。


「爺ちゃん、僕はもっと強くなるよ。どんな相手にも負けないぐらいに強くなって……何時の日かまたここへ戻ってくるからね」


ナイはアルの墓の前で旋斧を抜くと、片腕のみで掲げる。かつてはこの旋斧を持ち上げる事も出来なかったナイだが、様々な戦闘を経てナイは強くなり、もう既にアルを越える力を身に付けていた。

それでもナイは強くなり続ける事を誓い、必ずこの村へ戻る時は今よりも強くなることを誓う。そして相棒のビャクと共にナイは旅立つ。


「行こう、ビャク!!」
「ウォオオンッ!!」


ビャクの背中に乗り込んだナイは村を離れ、草原へと駆け出す。ここから先は自分達が自由に行動できるとなると見慣れた景色も新鮮に感じられ、ナイは期待感を抱いた――
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