貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第155話 噂の少年

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「――すまんのう、儂がお主の事をギルドマスターに伝えたせいでこんな事になってしまって……」
「いえ、まあ、気にしないでください」
「ナイ、すまない……だが、状況報告のためにお前の事も一応は伝える必要があったのだ」


ドルトンの屋敷にマホが訪れると、ナイは彼女達からどうして自分の事が街中で噂になっている理由を知る。先日、マホは街に侵入した魔物の討伐の報告も兼ねて冒険者ギルドに立ち寄ったのが全ての始まりだった。

マホは冒険者ギルドのギルドマスターに対し、自分と弟子たちが街に侵入した魔物の大群の対処を行った事を告げる。緊急事態だったので街中にて広域魔法を発動させた件に関しても謝罪を行う。


『急を要する事態とはいえ、街中で広域魔法を使用した件に関しては謝ろう。建物が壊れた住民には迷惑をかけたのう』
『いえいえ、貴方様が来てくれなければ街はどうなっていた事か……どうかお気になさらずに』


広域魔法の影響で壊れた建物に関しては状況的に考えても事故として判断され、マホは責任を負わずに済むようにギルドマスターが取り計らってくれた。だが、建物に暮らしていた住民には悪い事をしたと思い、マホはしばらくは街に滞在して街の警備の手伝いを行う。


『いましばらくの間は儂と弟子たちもこの街に滞在しよう。もしもこの街の冒険者だけでは手に負えん相手が現れた場合、遠慮なく儂等を頼ってくれて構わん』
『それは心強い!!マホ魔導士とそのお弟子さん方ならば我々としても心強いです!!』
『それと……これは別件なのじゃが、実は半年前に姿を消した赤毛熊の件に関して報告もせねばならん』
『赤毛熊?』


マホはドルトンから半年前にナイが赤毛熊を討伐した一件を聞いており、その件に関してギルドマスターに報告を行う。赤毛熊の討伐依頼は冒険者ギルドにも多数届けられており、赤毛熊が既に死んだ事を伝えなければギルドは存在しない赤毛熊の捜索のために冒険者を無為に派遣しなければならない。

既に赤毛熊が半年前に冒険者でもなければ成人もしていない少年に敗れたと聞かされれたギルドマスターは最初は信じられななかったが、マホが嘘を言う理由はない。魔導士の名に誓って彼女はもう赤毛熊の脅威は去った事を伝える。


『で、では……本当にそのナイという名前の少年が赤毛熊を討伐したというのですか?』
『うむ、間違いない。実際に儂自身もその力を確認しておる。確かにあれだけの力を持っていれば赤毛熊を倒せたであろう』
『信じられない、そんな子供がこの街にいたとは……』
『一応は注意しておくが、この件は内密に頼む。無暗に他の人間に知らせてはならぬぞ?』
『は、はい……分かりました』


一応はマホはギルドマスターにナイの事は他の人間に口止めする様に伝えたが、この時に誤算だったのは街の冒険者の反応だった。彼等からすれば自分達では討伐できなかった赤毛熊を冒険者でもない人間が倒した事を知って動揺が走る。


『赤毛熊が討伐されただと!?いったい誰の仕業だ!!』
『あの化物を倒しただと……そんな事、あり得るはずがない』
『ギルドマスターによるとまだ若い剣士らしいぞ。さっき、部屋の中で盗み聞きした時に聞いたんだ!!』
『いったい誰なんだ……この街に住んでいるのか!?』


冒険者達は自分達でさえ成し遂げられなかった赤毛熊を討伐したという少年に興味を抱き、中には本格的に捜索を行う者もいた。そしてこの時に冒険者だけではなく、先日にナイの元に訪れたコウもその噂を知る。


『あの赤毛熊を倒した剣士がこの街に滞在している!?それは本当の話ですか!?』
『は、はい……おっしゃる通りでございます』


偶々この街に立ち寄っていたコウは冒険者の噂を聞き、その真偽を確かめるためにギルドマスターの元へ訪れた。彼は貴族であるため、ギルドマスターも丁重に扱わなければならず、コウに詳細を伝えた。


『その剣士に会ってみたい、何処にいるのか分かるのか?』
『そ、それは……』
『頼む、どうか教えてくれ!!』
『わ、分かりました。そこまでおっしゃるのであれば……』


相手が貴族の子息であるとなるとギルドマスターも無下には扱う事は出来ず、彼の迫力に押されてギルドマスターはマホから聞いていたナイの居場所を伝えてしまう。

この時に運が悪い事に貴族が冒険者ギルドにわざわざ訪れた事を知り、彼等の話を盗み聞きする冒険者が多数存在した事だった。更にコウは外見が目立つため、冒険者ギルドに来た時点で貴族だと見抜かれた。

その後はコウはドルトンの屋敷に訪れた際、実を言えば冒険者達も彼の様子を伺っていた。そしてコウは堂々と屋敷の中に入り込み、この時に彼は大声で赤毛熊を倒した剣士が屋敷の中にいる事を話してしまった。そのせいで冒険者達は本当にこの街に赤毛熊を倒した剣士がいると知り、現在では街中に噂になっていた。
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