152 / 1,110
逃れられぬ運命
第152話 赤毛熊を倒した者
しおりを挟む
ナイとビャクが屋敷の裏庭から抜け出し、正門の方へ辿り着こうとした時には屋敷の使用人と護衛の人間も集まっていた。彼等は正門の前にて群がり、訪問者を注意する。
「な、何なんだ君は!?いきなりやってきてあんな馬鹿でかい声を出すなんて……」
「近所迷惑だろう、早く帰りたまえっ!!」
「無礼は承知の上だ!!どうか、会わせてくれ!!」
どうやら訪問者は既に屋敷の中に入り込んでいるらしく、使用人と屋敷の護衛の男達に囲まれていた。先の一件で屋敷の正門の扉は魔物に破壊されており、簡単に侵入を許してしまったらしい。
大勢の大人に囲まれているせいでナイは相手の姿を確認できないが、声の感じからして若い男性である事は間違いなく、相手もナイの気配に気づいたのか大人達を掻き分けて遂に姿を現す。
「ん?そこにいるのは白狼種か!?」
「ちょっと君、何を勝手に……うわっ!?」
「な、何だ!?この力は……!?」
大人達を押し退けて姿を現したのは14か15才ぐらいの黒髪の少年であり、派手な金ぴかの鎧を身に纏い、背中には大剣を背負っていた。少年は屋敷の中に白狼種がいる事に気付き、その傍にいるナイを見て首を傾げる。
「……そこの君、その白狼種は君が飼っているのか?」
「え?えっと……まあ、そうですね」
「ウォンッ」
ナイの言葉にビャクは彼の頭の上に顎を置き、その姿を見て少年は感心したように頷く。
「あの白狼種を手懐けるとは……将来は立派な魔物使いになれるだろう。まあ、それはともかく聞きたいことがあるのだが、この屋敷に赤毛熊を倒した人間がいると聞いたんだが、本当か?」
「ええ、まあ……嘘じゃないですね」
少年の言葉にナイは頷くと、相手は驚いた表情を浮かべ、すぐに気を引き締め為す様に屋敷を見上げる。
「なるほど、やはり本当の話だったのか……それで、その人は今も屋敷にいるのかい?」
「え?いや、それは……」
「おい、君!!いい加減にしないか、勝手に中に入ってくるなんて何を考えているんだ!!」
「どこの誰だか知らないが、さっさと出て行け!!ここを誰の屋敷だと思っている!?」
「……仕方ないな」
ここにきて屋敷の使用人と護衛が少年を追い出そうとしたが、彼等に対して少年は胸元に手を伸ばすと、ペンダントを取り出す。そのペンダントには家紋が刻まれており、彼はそれを見せつけると周囲の人間の態度が変わる。
「僕の父とここの屋敷の主人は昔からの付き合いだ。勝手に入った事は詫びるが、どうしても確認したいことがある」
「こ、この家紋は……!?」
「まさか、貴族様の!?」
少年がペンダントを取り出した瞬間に周囲の人間の態度が代わり、彼等は慌てて平伏する。その様子を見てナイはどういう事なのかと思ったが、少年はペンダントを戻すとため息を吐き出す。
どうやらドルトンと縁がある貴族の息子らしく、少年は屋敷を見上げた後、緊張した面持ちで背中の大剣に視線を向ける。少年の大剣はよくよく見ると鷲のような紋様が刻まれており、こちらの紋様は先ほど取り出したペンダントにも刻まれていた。
「僕の名前はコウ、ホーク伯爵家の次男だ」
「伯爵……!?」
「どうしても確認したいことがあってここへ来た。どうか許してくれ」
「い、いえいえ!!まさかご貴族様とは知らず、無礼な態度を……」
「す、すぐに主人を呼んできます!!」
「いや、良いんだ。それよりもここに赤毛熊を倒した人間が滞在していると聞いている。その人に会わせて貰いたい」
「えっ……」
伯爵家の次男である事を明かしたコウという名の少年は使用人たちに赤毛熊を倒した人物の事を尋ねると、彼等には何の話か分からず、戸惑いの表情を浮かべる。その態度にコウは不思議に思うが、ここでナイが仕方なく名乗り上げる。
「あの……赤毛熊を倒した人を探しているんですよね?」
「そうだ、君は知っているのか?」
「知っているも何も……赤毛熊を倒したのは僕です」
「……は?」
ナイの言葉にコウは呆気に取られ、最初は彼はナイが冗談でも言っているのかと思ったが、すぐに苦笑いを浮かべて優しく諭す。
「いや、悪いがそういう冗談に付き合っている暇はないんだ。君は赤毛熊がどんな化物か知っているかい?とても君のような子供に倒せる相手では……」
「知っています。嫌という程……よく知っています」
「……冗談じゃないのか?」
コウはナイが嘘を吐いているようには見えず、動揺したように彼は後退る。コウの目から見てもナイはただの普通の少年にしか見えないが、白狼種が懐いているという時点で普通の子供ではない事は明白だった。
だが、赤毛熊のような化物を子供のナイが倒したと言われても信じられず、コウの想像では赤毛熊を倒したのは大人の剣士だと思い込んでいた。しかし、実際に会ってみれば自分よりも少し年下ぐらいの子供が現れ、とても信じられるはずがない。
「な、何なんだ君は!?いきなりやってきてあんな馬鹿でかい声を出すなんて……」
「近所迷惑だろう、早く帰りたまえっ!!」
「無礼は承知の上だ!!どうか、会わせてくれ!!」
どうやら訪問者は既に屋敷の中に入り込んでいるらしく、使用人と屋敷の護衛の男達に囲まれていた。先の一件で屋敷の正門の扉は魔物に破壊されており、簡単に侵入を許してしまったらしい。
大勢の大人に囲まれているせいでナイは相手の姿を確認できないが、声の感じからして若い男性である事は間違いなく、相手もナイの気配に気づいたのか大人達を掻き分けて遂に姿を現す。
「ん?そこにいるのは白狼種か!?」
「ちょっと君、何を勝手に……うわっ!?」
「な、何だ!?この力は……!?」
大人達を押し退けて姿を現したのは14か15才ぐらいの黒髪の少年であり、派手な金ぴかの鎧を身に纏い、背中には大剣を背負っていた。少年は屋敷の中に白狼種がいる事に気付き、その傍にいるナイを見て首を傾げる。
「……そこの君、その白狼種は君が飼っているのか?」
「え?えっと……まあ、そうですね」
「ウォンッ」
ナイの言葉にビャクは彼の頭の上に顎を置き、その姿を見て少年は感心したように頷く。
「あの白狼種を手懐けるとは……将来は立派な魔物使いになれるだろう。まあ、それはともかく聞きたいことがあるのだが、この屋敷に赤毛熊を倒した人間がいると聞いたんだが、本当か?」
「ええ、まあ……嘘じゃないですね」
少年の言葉にナイは頷くと、相手は驚いた表情を浮かべ、すぐに気を引き締め為す様に屋敷を見上げる。
「なるほど、やはり本当の話だったのか……それで、その人は今も屋敷にいるのかい?」
「え?いや、それは……」
「おい、君!!いい加減にしないか、勝手に中に入ってくるなんて何を考えているんだ!!」
「どこの誰だか知らないが、さっさと出て行け!!ここを誰の屋敷だと思っている!?」
「……仕方ないな」
ここにきて屋敷の使用人と護衛が少年を追い出そうとしたが、彼等に対して少年は胸元に手を伸ばすと、ペンダントを取り出す。そのペンダントには家紋が刻まれており、彼はそれを見せつけると周囲の人間の態度が変わる。
「僕の父とここの屋敷の主人は昔からの付き合いだ。勝手に入った事は詫びるが、どうしても確認したいことがある」
「こ、この家紋は……!?」
「まさか、貴族様の!?」
少年がペンダントを取り出した瞬間に周囲の人間の態度が代わり、彼等は慌てて平伏する。その様子を見てナイはどういう事なのかと思ったが、少年はペンダントを戻すとため息を吐き出す。
どうやらドルトンと縁がある貴族の息子らしく、少年は屋敷を見上げた後、緊張した面持ちで背中の大剣に視線を向ける。少年の大剣はよくよく見ると鷲のような紋様が刻まれており、こちらの紋様は先ほど取り出したペンダントにも刻まれていた。
「僕の名前はコウ、ホーク伯爵家の次男だ」
「伯爵……!?」
「どうしても確認したいことがあってここへ来た。どうか許してくれ」
「い、いえいえ!!まさかご貴族様とは知らず、無礼な態度を……」
「す、すぐに主人を呼んできます!!」
「いや、良いんだ。それよりもここに赤毛熊を倒した人間が滞在していると聞いている。その人に会わせて貰いたい」
「えっ……」
伯爵家の次男である事を明かしたコウという名の少年は使用人たちに赤毛熊を倒した人物の事を尋ねると、彼等には何の話か分からず、戸惑いの表情を浮かべる。その態度にコウは不思議に思うが、ここでナイが仕方なく名乗り上げる。
「あの……赤毛熊を倒した人を探しているんですよね?」
「そうだ、君は知っているのか?」
「知っているも何も……赤毛熊を倒したのは僕です」
「……は?」
ナイの言葉にコウは呆気に取られ、最初は彼はナイが冗談でも言っているのかと思ったが、すぐに苦笑いを浮かべて優しく諭す。
「いや、悪いがそういう冗談に付き合っている暇はないんだ。君は赤毛熊がどんな化物か知っているかい?とても君のような子供に倒せる相手では……」
「知っています。嫌という程……よく知っています」
「……冗談じゃないのか?」
コウはナイが嘘を吐いているようには見えず、動揺したように彼は後退る。コウの目から見てもナイはただの普通の少年にしか見えないが、白狼種が懐いているという時点で普通の子供ではない事は明白だった。
だが、赤毛熊のような化物を子供のナイが倒したと言われても信じられず、コウの想像では赤毛熊を倒したのは大人の剣士だと思い込んでいた。しかし、実際に会ってみれば自分よりも少し年下ぐらいの子供が現れ、とても信じられるはずがない。
2
お気に入りに追加
58
あなたにおすすめの小説
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。
sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。
目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。
「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」
これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。
なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります
古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。
一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。
一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。
どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。
※他サイト様でも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる