貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第141話 獣化

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「ガロ、ナイと白狼種もいるぞ!!」
「ちっ……こんな所にいやがったのか」


ビャクに乗り込むナイの姿を見てゴンザレスはガロに注意すると、ガロの方はナイを見て気に入らなそうな表情を浮かべる。彼としては別にナイの力がなくても自分達だけでどうにかできると思っていたが、ここである事を思いつく。

ガロの師匠でもあるマホはナイの事を弟子にしたがっているが、ここで彼と自分の格の違いを見せつける好機だと判断して笑みを浮かべた。そんなことを考えている内に倒れた重装備のホブゴブリン達も起き上がる。


「グギィッ……!!」
「グギャアアッ!!」
「ガロ、こいつら起きたぞ……まだ俺達には気づいていないようだ」
「はっ、雑魚が……おい、手を出すんじゃないぞ!!こいつらは俺がやる!!」
「えっ?」


ナイに向けてガロは怒鳴りつけると、彼は両手の双剣を握りしめてホブゴブリン達と向かい合う。ホブゴブリン達はガロの姿は認識できないが、彼の声が聞こえた方向に視線を向ける。


「「グギギッ……!!」」
「ふん、流石に気付いたか……だが、てめえ等なんぞ姿を見られてようと敵じゃねえんだよ!!」
「ガロ、何をしている!?」


ガロは自らの手で魔除けの護符に手を伸ばすと、あろう事か引き剥がす。その結果、ガロは結界が解かれた事で魔物達の視界に映し出されるようになり、魔物達からすれば唐突に何もない場所からガロが姿を現したように見えた。


「グギィッ!?」
「ギギィッ!?」
「ガアアッ……!!」


魔物達からすればいきなり現れたガロに戸惑うが、すぐに敵が現れたと判断して体勢を整える。だが、そんな彼等に対してガロは魔除けの護符を捨てると、双剣を構えて獰猛な表情を浮かべる。


「久々に使うとするか……がぁあああっ!!」
「ガロ!?まさか、お前……獣化をするつもりか!?」
「獣化?」
「ウォンッ!?」


ガロは獣のような咆哮を放つと彼の身体に異変が発生し、徐々に髪の毛が伸び始める。それだけではなく、ガロは前のめりになると徐々に犬歯が伸びていき、まるで牙のように変化した。

獣人族は獣と人間の特徴を併せ持つ種族ではあるが、現在のガロは人間よりも獣の性質が強まっており、双剣を逆手に構えて動き出す。


「うがぁあああっ!!」
「グギャアッ!?」
「ギィイイイッ!?」
「ギャインッ!?」


凄まじい速度でガロは駆け出すと、次々と敵に目掛けて剣を振り払い、目にも止まらぬ速さで切り裂いていく。その速度はナイが昨日に遭遇したコボルト亜種にも匹敵するか、それ以上の速度だった。


(何だ、この動き……人の動きじゃない!?)


ガロの変化にナイは動揺を隠せず、現在のガロはまるで人間というよりも獣その物に変化したようであり、四つん這いの状態で移動を行う。

両手に手にした双剣をまるで肉食獣の爪のように扱い、次々と敵を屠る姿は正に獣その物だった。ゴンザレスは先ほどガロに「獣化」という言葉を使っていたが、正に言葉通りに今現在のガロは獣と化していた。


(何て早さだ、こんな速い動きをする人間なんて見た事がない……けど、様子がおかしい?)


周囲に存在する魔物達に対してガロは無差別に切り裂き、その様子を見ていたナイは違和感を覚えた。


「があああっ!!」
「ギャウッ!?」
「ギィアッ!?」
「グギャアアアッ!?」
「ガロ、もういい!!止めろ、それ以上は駄目だ!!」


一方的に魔物を蹂躙するガロの姿を見てゴンザレスが声をかけるが、その声が届いていないのかガロは更に速度を加速させ、魔物を斬りつけていく。まるで理性を失った獣の様に暴れるガロを見てナイは危険を感じとる。


(なんだかやばい気がする……離れた方が良い)


今の状態のガロに近付くと何をされるか分からず、ナイはビャクに下がるように指示を出す。当初の予定ではナイ達の役目は魔物の大群を搔き乱し、統率者を引きずり出す作戦だった。

既にナイ達の活躍によって魔物の大群の3分の1近くは倒されており、成果としては十分だった。後は待機しているマホに任せるべきなのだが、ガロはゴンザレスのいう事を聞かずに暴れまわる。


「があああっ!!」
「止めろ、ガロ!!正気に戻れ!!」
「ビャク!!ここから離れろ、急いで!!」
「ウォンッ!?」


ナイが背中を叩きながらビャクに注意すると、ビャクは慌てて魔物の大群から離れようと背を向ける。しかし、それに反応したようにガロはビャクに視線を向けると、彼の背後に向けて跳躍を行う。


「逃げるなぁっ!!」
「うわっ!?」
「ギャウンッ!?」
「ナイ!?ガロ、止めろ!!味方だぞ!!」


もう敵と味方の区別もつかないのか、ガロはナイが乗り込んでいるビャクに向けて跳び込み、空中から双剣を振り下ろす。その攻撃に対してナイは旋斧で防ぐが、思いもよらぬ攻撃の重さにナイを乗せていたビャクは地面に倒れてしまう。
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