貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
138 / 1,110
逃れられぬ運命

第138話 魔物の統率者

しおりを挟む
「恐らく、この魔物の大群の中間に統率者が存在する。その魔物を倒せば指揮系統が乱れ、進行を止める事が出来るじゃろう。もしかしたら次の群れの主の座を賭けて争い合うかもしれん」
「えっ……そんな事まで分かるんですか?」
「老師の言葉なら信じられる」
「ええ、老師が間違えるはずがありません」
「それで、俺達はどうすればいいんだ?」


マホの言葉を聞いてナイは驚くが、他の三人の弟子たちは彼女の言葉を疑わず、自分達はどうするべきかを尋ねる。三人に対してマホは頷き、彼女はナイに振り返る。


「ナイ、お主にも力を貸してもらうぞ。それとお主に懐いている白狼種の力も借りたいのだが……」
「ビャクの?あれ、そういえばビャクは何処にいるんだろう?」
「ああ、ビャクの奴なら餌を食ってるぞ。あいつのせいで屋敷の食料も底をつきかけているが……」
「ウォンッ!!」


話の際中に何処からかビャクが駆けつけ、その口元には大きなソーセージを咥えていた。どうやら食事中だったらしく、ナイはそんな彼を見て口元に指を向けて静かにするように促す。


「しっ……魔物に気付かれちゃうでしょ」
「クゥ~ンッ……」
「ほう、本当にお主にはよく懐いておるのう。ならば都合がいい、そのビャクに儂等を乗せてくれんか?」
「ウォンッ?」
「それはいいですけど……何処へ行くんですか?」


マホの言葉を聞いてビャクは首を傾げると、ナイはビャクに乗って何処へ行くつもりなのかを尋ねる。すると、老師はある方向を指差す。


「魔物どもが北側へ向かっているのであれば、そこを待ち伏せして統率者を仕留める。だが、そのためには誰かが魔物の進行を食い止めなければならん。その役目をお主等に任せたい」
「お主等という事は……」
「おい、まさかこのガキも加えるつもりか!?俺は反対だぞ!!」
「ガロ、今は文句を言っている場合ではない。それにこの作戦には先回りする必要がある。ビャクを手懐けているナイの力は必要不可欠じゃ」


マホが考えた作戦にはナイに懐いているビャクの力を借りて先回りする必要があり、どうしてもナイの力は必要だった。その事に対してガロは不満を抱くが、今は彼に気を遣う暇はない。マホは皆に作戦を伝えると、すぐに行動を開始した――






――作戦の準備を整え、まずはナイはマホをビャクに乗せて移動を開始する。魔物の大群の進行方向に存在する大きな建物に彼女を運び出し、そこでマホは待ち伏せを行う。


「あの……ゴブリンは屋根を移動してきますけど、こんな場所に一人でいて大丈夫ですか?」
「安心せい、お主が去った後に儂は魔除けの結界を張る。そうすれば魔物が儂に気付く事はないし、魔法の準備も行える。むしろ、儂の心配よりもお主自身の心配をした方がいいぞ」
「クゥ~ンッ……」


目的地に辿り着くとナイはマホを背中に抱えて建物の屋根の上に移動し、彼女をその場に置いて自分は他の弟子たちと共に別の場所で待機を行う。

今回の作戦の要はマホであり、彼女は大群が建物の前を横切った時に親玉を魔法で仕留めるつもりだった。だが、魔物が密集している状態では親玉だけを狙いにくく、ここで彼女は弟子たちとナイの力を借りる事にした。

マホが作戦を介する場所に選んだのは十字路であり、魔物の大群は必ず十字路を突っ切るはずだった。この時に魔物の群れが十字路に到達した際、マホの弟子とナイは魔物の注意を引く。

魔物の群れが十字路に到達した時、正面と側面の通路からナイ達が攻撃を仕掛け、魔物の大半の注意を引く。攻撃を受ければ必ず魔物の大群も乱れ、その時に群れの主が指揮を執ろうとするはずだった。



――マホの狙いは弟子たちとナイに魔物の群れの注意を引かせ、その間に彼女が群れの主を仕留める。主を失えば魔物の大群は混乱を引き起こし、進行は食い止められるだろう。



この作戦はかなり危険を伴うが、それも承知の上でマホはナイ達に「魔除けの護符」を渡す。窮地に陥った時はこの護符を使用すれば魔物からまるで透明人間のように存在感を感じられず、逃れることは難しくない。



「さてと……ビャク、僕達はここで待機だ」
「ウォンッ!!」
「今回は敵を無理に倒す必要はないから、無茶をしたら駄目だぞ。合図を出したら全速力で逃げ出すんだぞ」
「クゥ~ンッ……」


ナイとビャクは十字路の左側に移動を行い、正面にはエルマが待ち構え、反対側の右側にはゴンザレスとガロが待ち受ける。エルマが正面に待機するのは彼女が唯一の弓の使い手であり、遠距離から狙撃できるため、一番危険な位置を任せられた。

ちなみにエルマはマホの一番弟子らしく、彼女が扱う魔法は「魔弓術」と呼ばれ、物体に魔力を宿して攻撃を行うという「付与魔術」の一種らしい。エルマが魔物の群れを確認した後、彼女が合図を行えばナイ達も動き、それまでの間は魔物に見つからない様に路地裏に身を隠す。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた

きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました! 「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」 魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。 魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。 信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。 悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。 かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。 ※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。 ※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

「クズスキルの偽者は必要無い!」と公爵家を追放されたので、かけがえのない仲間と共に最高の国を作ります

古河夜空
ファンタジー
「お前をルートベルク公爵家から追放する――」それはあまりにも突然の出来事だった。 一五歳の誕生日を明日に控えたレオンは、公爵家を追放されてしまう。魔を制する者“神託の御子”と期待されていた、ルートベルク公爵の息子レオンだったが、『継承』という役立たずのスキルしか得ることができず、神託の御子としての片鱗を示すことが出来なかったため追放されてしまう。 一人、逃げる様に王都を出て行くレオンだが、公爵家の汚点たる彼を亡き者にしようとする、ルートベルク公爵の魔の手が迫っていた。「絶対に生き延びてやる……ッ!」レオンは己の力を全て使い、知恵を絞り、公爵の魔の手から逃れんがために走る。生き延びるため、公爵達を見返すため、自分を信じてくれる者のため。 どれだけ窮地に立たされようとも、秘めた想いを曲げない少年の周りには、人、エルフ、ドワーフ、そして魔族、種族の垣根を越えたかけがえの無い仲間達が集い―― これは、追放された少年が最高の国を作りあげる物語。 ※他サイト様でも掲載しております。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...