貧弱の英雄

カタナヅキ

文字の大きさ
上 下
127 / 1,110
逃れられぬ運命

第127話 魔除けの護符と魔導士

しおりを挟む
――屋敷の中にマホ達を迎え入れると、ドルトンはすぐに地下倉庫に避難していた者達を呼び寄せて屋敷の広間に全員を集める。皆が不安そうな表情を浮かべる中、まずはマホは自分が連れてきた者達の説明を行う。


「皆の者、紹介が遅れたな。この者らは儂が指導している弟子たちじゃ、ほれ名前を教えんか」
「どうも、初めまして……エルマと言います」
「ゴンザレスだ」
「……ちっ、ガロだ」


マホが自己紹介を行わせると、エルフの女性はエルマ、巨人族の男性はゴンザレス、そして獣人族の少年はガロという名前だと告げる。

ナイは3人を見てマホの弟子と聞いて驚き、3人とも共通点が全く見られない。いったいマホの元でどんな指導を受けているのか気になったが、今はマホがここへ訪れた理由の方が知りたかった。


「マホ老師、本日はどうしてこちらに?まさか、我々を助けに来てくれたのですか?」
「うむ、半分は正解じゃな。冒険者ギルドの方にてお主がまだ避難していないと聞いてな、急いでここまで来たのじゃ」
「おお、そうでしたか!!わざわざこんな危険な場所まで足を運んでくださるとは……ん?今、半分と言いましたか?」
「うむ、ここへ来たのはお主達を助けるためだけではない。別の理由と意図があって儂等はここへ来た」


ドルトンの質問にマホは答えると、彼女はエルマに視線を向ける。エルマは頷いて彼女は懐に手を伸ばすと、何やら紋様が記された札のような物を取り出す。


「ドルトンよ、これをお主に渡しておこう」
「これは……魔除けの護符ですか?」
「魔除けの……護符?」


エルマから渡された物を見てドルトンは驚き、気になったナイはこの札にどんな効果があるのかと尋ねようとした時、先にマホが答えてくれた。


「この護符は魔物を寄せ付けない結界を生み出す。この札を屋敷の四方に貼っておいたからな。もう屋敷の外にいる魔物共はこの屋敷に近付く事も出来ぬ」
「結界?」
「分かりやすく言えばこの護符を張り付けた場所は魔物共は認識が出来ん。いや、目では見えても全く気にしなくなるといった方が正しいかのう。護符を張り付けた場所は魔物達は近づく事もできなくなる。つまり、この屋敷にはもう外から魔物が入り込んでくる事はないという事じゃ」
「「「おおっ!!」」」


マホの説明を聞いて広間に集まった人間達は歓喜し、魔物が寄り付かないというだけでも朗報だった。これで屋敷の安全は確保されたとマホは説明してくれたが、ナイとしてはこんな札で魔物が寄り付かないと言われても信じられない。

しかし、マホの事を知っているドルトンからすれば彼女の言葉を疑う理由はなく、彼は心底安堵した表情で受け取った護符を有難く頂戴する。その様子を見てマホは頷き、彼を慰める様に肩に手を握る。


「よくここまで耐えたな……後は儂等が何とかしよう。お主等の安全は儂が保証しよう」
「あ、ありがとうございます……本当にありがとうございます」
「お、おいおい……本当にこんな紙切れで魔物が近寄ってこないのか?俺にはどうも信じられないが……」
「イーシャン!!無礼な事を言うな、この御方は魔導士だぞ!!」
「魔導士?」


ナイと同様にイーシャンも護符の効果を聞いても素直に信じられず、口を挟むとドルトンは彼を叱りつける。一方でまた新たな単語が出てきた事にナイは戸惑うと、ゴンザレスが説明してくれた。


「魔導士とは国に認められた魔術師だけに贈られる称号だ。この国には魔導士は3人しかいない……その中でもマホ老師は最年長の魔導士だ」
「これ、最年長は余計じゃぞ」
「魔導士……」


魔導士とは国から認められる程の偉い魔術師である事をナイは理解し、そんな魔導士の称号を持つ彼女が用意した道具ならば信用できる。

だが、ナイが気になったのは彼女の言い方だと魔物は魔除けの護符が張り出された場所には近づけないという点だった。既に屋敷の中にはビャクが存在し、もしも魔除けの護符が張り出されたのならばビャクも影響を受けているのではないかとナイは心配する。


「あの、それってビャクは大丈夫なんですか?」
「安心せい、あの白狼種は屋敷の中にいる限りは魔除けの護符の影響は受けん」
「あ、そうですか……よかった」
「この屋敷の安全は儂が約束しよう。皆も今日は疲れたじゃろう、今日の所は休んで明日から本格的にこの状況を脱する話し合いをしようではないか」
「結界があるとはいえ、念のために見張りは俺達が行う。だから安心して休んでくれ」
「何があっても私達が守りますのでご安心ください」
「ふん……」


屋敷の守護はマホの弟子たちが行う事を告げると、やっと屋敷内の人間達は心の底から安心して身体を休められるため、すぐに全員が広間から抜け出す。だが、ナイの方は色々と気になる事があって広間へと残った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

処理中です...