貧弱の英雄

カタナヅキ

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逃れられぬ運命

第104話 剛腕の剣士

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「逃がすかぁっ!!」
「ギィイイッ!?」
「ギィアッ!?」
「ギギィッ!?」


ゴブリンの群れに追いつくとナイは剣を振りかざし、次々と切り裂いていく。聖属性の魔力を身に付けたナイの身体能力は三か月前の比ではなく、今の彼はゴブリンを遥かに上回る脚力を身に付けていた。


「だああっ!!」
「ギィアアッ!?」


最後のゴブリンの首を切り落とすと、ナイはやっと立ち止まり、流石に息を切らす。これで彼に襲い掛かってきたゴブリンは全て倒したが、決しては安心はできない。

ナイは長剣に視線を向けると、先ほどの戦闘だけで刃毀れを起こしている事に気付き、この調子では武器が持たない。やはり旋斧などのような硬度と耐久力が高い武器でなければナイの腕力には耐え切れなかった。


(剣が壊れる前にドルトンさんを見つけないと……あと少しだ!!)


ゴブリンを追いかける最中にドルトンの屋敷までもう少しで辿りつける。剣を鞘に戻してナイは向かおうとしたが、先ほどまで息切れしていたのにすぐに身体が楽になっている事に気付いた。


(もしかして……自然回復の技能が復活した?)


あれほど激しく動いたのにナイはすぐに体力が戻った事に気付き、彼が身に付けている「自然回復」の技能が効果を発揮したらしい。もしかしたら聖属性の魔力のお陰でより肉体の回復力も強まっている可能性もあるが、今のナイには都合がいい。


「ドルトンさん、無事だといいんだけど……」


ナイはドルトンの屋敷がある方向に向けて駆け抜け、遂に屋敷を視界に収める。ドルトンの屋敷はこの街の中でもかなり大きく、貴族が暮らす屋敷にも見劣りはしない。

屋敷の周囲は鉄柵で囲まれており、魔物でも簡単には侵入できないはずだった。だが、ナイが辿り着いた時には出入口の扉の方では武装したホブゴブリン達の姿が存在し、無理やりに門を突破しようとしていた。


「グギィイイッ!!」
「グギャギャッ!!」
「や、やばい!!このままだと門が破られるぞ!?」
「くそ、この化物が……!!」


門の前には数体のホブゴブリンが存在し、何処から調達してきたのか彼等は丸太を持ちだしていた。数匹がかりで丸太を持ち込んだホブゴブリンたちは鉄柵の門に向けて叩き込み、門を破壊しようとしていた。

商会の護衛と思われる人間達は必死にそれを止めようとするが、矢や槍を突き出しても武装しているホブゴブリン達を食い止める事はできず、彼等は助けを求める。


「も、もう駄目だ!!」
「誰か、助けてくれ!!」
「死にたくねえよっ!!」
『グギィイイイッ!!』


ホブゴブリン達は門を破壊するために全員で丸太を持って駆け出し、その光景を確認したナイは長剣を握りしめると、ホブゴブリン達に目掛けて「跳躍」を行う。


(頼む、発動してくれ!!)


跳躍の技能を発動する事を祈りながらナイは飛び上がると、勢いよく加速した状態でナイはホブゴブリン達の頭上に迫り、彼等が手にしている丸太に目掛けて剣を放つ。


「やあああっ!!」
『グギャッ……!?』


上空から聞こえてきた声にホブゴブリン達は驚いて振り返ると、そこには長剣を振りかざすナイの姿が存在した。彼等は危険を察知して避けようとしたが、ナイが放った長剣の刃は丸太へと食い込み、見事に切り裂く。

丸太を真っ二つに切り裂かれたホブゴブリンたちはバランスを崩して倒れる。この際に切り裂かれた丸太の下敷きになった個体も存在し、必死に丸太を払いのけようとする。


「グギィッ!?」
「グギャアアッ!?」
「グギギッ……!!」
「ふうっ……間に合ったか」


ナイは「自然回復」に続いて「跳躍」の技能も復活を果たし、丸太を破壊する事に成功した。一方で邪魔をされたホブゴブリン達は怒り心頭でナイと向き合う。


『グギィイイッ!!』
「うるさいっ!!」
『グギャッ……!?』


威嚇を放つホブゴブリン達に対してナイは臆しもせずに怒鳴り返すと、その反応にホブゴブリン達は戸惑い、普通の人間の子供ならば威嚇するだけで自分達を恐れるはずだった。

しかし、彼等が前にしたのはただの子供ではない。それどころか恩師であるドルトンの屋敷に無理やりに侵入しようとしてきたホブゴブリン達に対してナイは強い敵意を抱く。そんな彼を見て屋敷の中に居た人間達は戸惑う。


「な、何だ!?子供?子供がどうしてこんな場所に……」
「君!!ここは危ないぞ!!早く逃げるんだ!!」
「待てよ、あの子何処かで見覚えがないか?確か、前に見かけた様な……」


ホブゴブリンの群れと対峙したナイを見て屋敷の中に人間達は慌てふためくが、その中にはナイの顔に見覚えがある者も存在した。だが、今は悠長に話している暇はなく、ナイは自分の長剣を見て眉をしかめた。

長剣はこれまでの道中の戦闘と、先ほどの丸太を切り裂いた時に限界を迎え、もう刃が完全に使い物にならなくなっていた。これ以上の使用は危険だと判断したナイは長剣を放り捨てると、ここで彼は地面に落ちたに視線を向けた。




※次回予告「皆、丸太は持ったな!?」
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