貧弱の英雄

カタナヅキ

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忌み子と呼ばれた少年

第85話 技能「気配感知」

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――ビャクに乗り込み、遂に深淵の森へと辿り着いたナイは早速だが探索を行う。赤毛熊の姿を探しながらも常に周囲の警戒を怠らず、ビャクの方も嗅覚を頼りに赤毛熊の捜索を行う。


「ビャク、何かに気付いたらすぐに知らせるんだぞ」
「ウォンッ」


ナイの言葉にビャクは頷き、地面を嗅ぎながら彼は先に進む。その様子を確認しながらもナイはこの二年の間に覚えた新技能の「気配感知」を発動させた。


『気配感知――敵意を抱く生物の気配を感知できるようになる』


こちらの能力は赤毛熊から逃げ切った後に最初に覚えた技能であり、この技能さえ身に付けていればナイは赤毛熊の接近に気付き、身を隠す事や逃走する事ができたはずだった。

狩人を目指しているのならばどうしてもっと早くにこの技能を身に付けて置かなかったのかと後悔したが、今はこの気配感知を頼りに周囲の生物の気配を探す。


(前に来た時よりも生き物の気配が少ない……赤毛熊のせいか)


以前に深淵の森に訪れた時よりも生物の気配が減っている事に気付いたナイは赤毛熊のせいだと判断し、山から下りてこの森に住み着いた赤毛熊のせいで森の生態系に異常が発生していた。

たった1匹の魔物のせいで森全体の生態系が狂わされた事に気付き、ナイは改めて自分がとんでもない相手に挑もうとしているのを意識する。だが、ここまで来た以上は引き返せず、気配を探りながら歩いてるとビャクが反応を示す。


「グルルルッ……!!」
「ビャク、何かいるのか?」


ビャクの異変に気付いたナイは話しかけると、ビャクは僅かに頷く素振りを見せ、前方に視線を向ける。ナイも意識を集中させて前方に存在する気配を感知すると、気配の大きさから動物ではなく、魔物だと気付いた。


(まさか赤毛熊か……いや、違う)


赤毛熊程の魔物ならば気配も強く、ビャクが反応する前にナイも気づくはずだった。しかし、現れた敵の正体は赤毛熊などではなく、灰色の毛皮に覆われた狼の群れだった。


「ガアアッ……!!」
「グルルルッ……!!」
「ガウガウッ!!」
「こいつらは……ファングか」
「ウォオンッ!!」


姿を現したのは「ファング」と呼ばれる狼型の魔獣だと発覚し、即座にファングの群れはナイ達を取り囲む。その様子を見てビャクは唸り声をあげ、一方でナイは背中の旋斧に手を伸ばすが、すぐに思い直したように手を離す。

ファングは狼型の魔獣ではあるが白狼種とは違い、常に群れで行動を行う。普通の狼よりも足が早くて牙も鋭い。二年前のナイならば厄介な敵だったが、今のナイにとっては脅威ではない。


「面倒だな……来い、相手をしてやる」
「ガアッ……!?」
「グルルルッ……!!」


旋斧をわざわざ使うまでもないと判断したナイは腰に装着した短剣を左手を引き抜き、逆手に持ち返る。この彼の姿にファングは警戒し、一方でナイは右手を懐に伸ばして刺剣を取り出す。


「ふんっ!!」
「ギャンッ……!?」
「ガアッ!?」


刺剣を掴んだナイはファングの1匹に目掛けて放り込むと、見事に顔面に的中させ、額を貫かれたファングは一撃で絶命した。仲間が倒れた姿を見て他のファングは動揺するが、すぐに怒りを露にして一斉に襲い掛かった。


「「「ガアアアッ!!」」」
「ウォンッ!!」
「ふうっ……来いっ!!」


集中するようにナイは今度は右手にも普通の短剣を握りしめると、ビャクも彼を守るために迫りくるファングに対して迎撃態勢を整える。

ファングの群れはナイを標的に定め、別々の方向から近づき、飛び掛かってきた。それに対してナイは両手に構えた短剣を利用し、確実に一匹ずつ仕留めていく。


「ふんっ!!」
「ギャウッ!?」
「ウォンッ!!」
「ガハァッ!?」


ナイが飛び込んできたファングの一匹を躱し、回避する際にファングの頭部に目掛けて刃を振り下す。それと同時にビャクは別方向からナイに向けて飛び掛かってきたファングを後ろ脚で蹴り飛ばし、近くの樹木に叩き込む。


「ガアアッ!!」
「舐めんなっ!!」
「ギャインッ!?」


後方から噛みつこうとしてきたファングに対してナイは振り返りざまに肘を顔面に叩き込む。顔面を打ちぬかれたファングは顔が陥没するほどの衝撃を受け、地面に倒れた。

ナイが鍛えてきたのは武器術だけではなく、肉体の方も毎日の訓練で磨かれていた。しかもファングを倒す毎にナイは経験値を獲得し、レベルも上がっていく。そして彼は最後の一匹になったファングを見て短剣を元に戻す。


「お前で……最後だ!!」
「ッ――!?」


最後の一匹に対してはナイは踏み込むのと同時に旋斧に手を伸ばし、全力の一撃を放つ。岩をも粉砕するナイの攻撃を受けたファングの肉体は吹き飛び、地面に血が広がる。ファングの返り血を浴びたナイは顔色一つ変えずに冷静に旋斧を背中に戻す。
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