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忌み子と呼ばれた少年
第82話 手段は選ばない
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「ドルトンさん……」
「すまん、ナイ……お前がこれを使って赤毛熊に戦うというのなら、渡す事は出来ない。残念だが諦めてくれ」
「……そうですか」
ドルトンの言葉を聞いたナイは彼がそのような反応する事は予想していたため、特に驚きはしなかった。ドルトンは自分のためを思って薬を渡さない事は理解しているのでナイが彼を恨むわけがない。
アルの仇を討ちたいというナイの気持ちはドルトンも理解できる。彼も自分が戦う力があれば親友の仇を討とうとしただろう。だが、親友の息子を危険に晒す事などドルトンにはできなかった。
「すまない……本当にすまない」
「気にしないでください。ドルトンさんは何も悪くありません」
「ナイ、気休めかもしれんが希望を捨てるな。いつか必ず、お前の代わりに赤毛熊を倒す冒険者が現れる……だから無茶だけはしないでくれ」
「ドルトンさん」
最後にドルトンはナイを抱き寄せ、今更ながらに彼が大きくなった事を実感する。自分を抱きしめてくれたドルトンに対してナイも抱きしめ返し、心の中で罪悪感を抱く。
(ごめんなさい、ドルトンさん……その約束は守れません)
この時にナイは心の中でドルトンに謝罪し、彼が離れると改めて頭を下げる。ドルトンは何とも言えない表情を浮かべながら馬車へ乗り込み、別れの挨拶を告げた。
「さらばだ、ナイ……今度、ここへ来るときはもっと手土産を用意しておこう」
「ありがとうございます、ドルトンさんもお元気で……」
「ああ、またな」
ドルトンが馬車に乗り込むと商団は村を離れ、その様子をナイは見送る。この際にナイは懐に手を伸ばすと、赤色の液体が入った小瓶を取り出す。
「ごめんなさい、ドルトンさん」
ナイは抱きしめられた際、ドルトンから強化薬を盗み出していた。親しい人から盗みを働くなど間違った行為である事はナイも自覚しているが、それでもナイにはこの強化薬が必要不可欠だった。
赤毛熊を倒すために二年間も身体を鍛え続けた。魔物を倒して経験石も破壊し、多数の技能も覚えた。しかし、どれだけ体を鍛えようと確実に赤毛熊を倒すという自信だけは身に着く事ができない。
かつてナイは赤毛熊と戦った時、手も足も出なかった。そのせいでナイはどれだけ身体を鍛えて技能を覚えても不安を消す事ができなかった。失敗すれば命はない、だが養父の仇を討ちたい。そう考えたナイはかつてホブゴブリンから村を守る際、自分を強くした強化薬を思い出す。
強化薬を使用すれば子供の頃のナイでもゴブリンを圧倒し、ホブゴブリンを追い詰める力を手に入れた。そして今の自分ならば強化薬を使えば更に強くなれるのではないか、そう考えたナイはドルトンに強化薬を頼む。
(ごめんなさい、ドルトンさん……でも、必ず爺ちゃんの仇を討ちます)
生きて戻れたならばしっかりとドルトンに謝罪する事を決め、ナイは強化薬を握りしめる。これで全ての準備は整い、後は赤毛熊に挑むだけであった――
――赤毛熊と戦う準備を整え、その日の晩にナイはアルの墓の前で座り込む。アルの墓には花が添えられており、この花を添えたのはナイではなかった。
「また新しい花が添えられている……ゴマンが来てたんだな」
本人は隠したがっているが、ナイはゴマンが外に出向く時に綺麗な花を見つけたらアルの墓に添えている事は知っていた。ゴマンとアルは凄く仲が良かったとは言えないが、アルの死に際に立ち会ったゴマンは定期的に墓参りを行っていた。
ゴマンは昔からアルに悪ガキ扱いされてお仕置きもされていたが、それは逆に言えば自分が村長の息子だというのに関わらず、遠慮しないで自分に接してくれる彼に懐いていた節もあった。そういう点ではナイも同様であり、彼が村長の息子だろうと関係なくアルとナイの親子はゴマンと接する。
村にはナイ以外にも子供達はいるが、ゴマンに大して気軽に接する事ができるのはナイだけである。他の子供達はゴマンが村長の息子であるために気を遣うのだが、その気配りがゴマンからすれば他人行儀みたいで嫌だった。だからこそゴマンは心が許せる相手はアルとナイだけだったのかもしれない。
(爺ちゃん、ゴマンも頑張ってるよ。でも、ゴマンの夢を叶えるにはあいつが邪魔なんだ)
ゴマンは村に残っている本当の理由は赤毛熊や他の魔物の脅威から村を守るためである。この村には若い男は少なく、戦える人材も限られている。
最近はより一層に魔物も数を増やし、村を守るために人手が必要だった。そのため、ゴマンも村を離れる事ができず、いつまでも冒険者になる夢を叶えられなかった。しかし、彼の夢を叶えさせるためにもナイは最大の脅威である赤毛熊を倒す事を誓う。
「すまん、ナイ……お前がこれを使って赤毛熊に戦うというのなら、渡す事は出来ない。残念だが諦めてくれ」
「……そうですか」
ドルトンの言葉を聞いたナイは彼がそのような反応する事は予想していたため、特に驚きはしなかった。ドルトンは自分のためを思って薬を渡さない事は理解しているのでナイが彼を恨むわけがない。
アルの仇を討ちたいというナイの気持ちはドルトンも理解できる。彼も自分が戦う力があれば親友の仇を討とうとしただろう。だが、親友の息子を危険に晒す事などドルトンにはできなかった。
「すまない……本当にすまない」
「気にしないでください。ドルトンさんは何も悪くありません」
「ナイ、気休めかもしれんが希望を捨てるな。いつか必ず、お前の代わりに赤毛熊を倒す冒険者が現れる……だから無茶だけはしないでくれ」
「ドルトンさん」
最後にドルトンはナイを抱き寄せ、今更ながらに彼が大きくなった事を実感する。自分を抱きしめてくれたドルトンに対してナイも抱きしめ返し、心の中で罪悪感を抱く。
(ごめんなさい、ドルトンさん……その約束は守れません)
この時にナイは心の中でドルトンに謝罪し、彼が離れると改めて頭を下げる。ドルトンは何とも言えない表情を浮かべながら馬車へ乗り込み、別れの挨拶を告げた。
「さらばだ、ナイ……今度、ここへ来るときはもっと手土産を用意しておこう」
「ありがとうございます、ドルトンさんもお元気で……」
「ああ、またな」
ドルトンが馬車に乗り込むと商団は村を離れ、その様子をナイは見送る。この際にナイは懐に手を伸ばすと、赤色の液体が入った小瓶を取り出す。
「ごめんなさい、ドルトンさん」
ナイは抱きしめられた際、ドルトンから強化薬を盗み出していた。親しい人から盗みを働くなど間違った行為である事はナイも自覚しているが、それでもナイにはこの強化薬が必要不可欠だった。
赤毛熊を倒すために二年間も身体を鍛え続けた。魔物を倒して経験石も破壊し、多数の技能も覚えた。しかし、どれだけ体を鍛えようと確実に赤毛熊を倒すという自信だけは身に着く事ができない。
かつてナイは赤毛熊と戦った時、手も足も出なかった。そのせいでナイはどれだけ身体を鍛えて技能を覚えても不安を消す事ができなかった。失敗すれば命はない、だが養父の仇を討ちたい。そう考えたナイはかつてホブゴブリンから村を守る際、自分を強くした強化薬を思い出す。
強化薬を使用すれば子供の頃のナイでもゴブリンを圧倒し、ホブゴブリンを追い詰める力を手に入れた。そして今の自分ならば強化薬を使えば更に強くなれるのではないか、そう考えたナイはドルトンに強化薬を頼む。
(ごめんなさい、ドルトンさん……でも、必ず爺ちゃんの仇を討ちます)
生きて戻れたならばしっかりとドルトンに謝罪する事を決め、ナイは強化薬を握りしめる。これで全ての準備は整い、後は赤毛熊に挑むだけであった――
――赤毛熊と戦う準備を整え、その日の晩にナイはアルの墓の前で座り込む。アルの墓には花が添えられており、この花を添えたのはナイではなかった。
「また新しい花が添えられている……ゴマンが来てたんだな」
本人は隠したがっているが、ナイはゴマンが外に出向く時に綺麗な花を見つけたらアルの墓に添えている事は知っていた。ゴマンとアルは凄く仲が良かったとは言えないが、アルの死に際に立ち会ったゴマンは定期的に墓参りを行っていた。
ゴマンは昔からアルに悪ガキ扱いされてお仕置きもされていたが、それは逆に言えば自分が村長の息子だというのに関わらず、遠慮しないで自分に接してくれる彼に懐いていた節もあった。そういう点ではナイも同様であり、彼が村長の息子だろうと関係なくアルとナイの親子はゴマンと接する。
村にはナイ以外にも子供達はいるが、ゴマンに大して気軽に接する事ができるのはナイだけである。他の子供達はゴマンが村長の息子であるために気を遣うのだが、その気配りがゴマンからすれば他人行儀みたいで嫌だった。だからこそゴマンは心が許せる相手はアルとナイだけだったのかもしれない。
(爺ちゃん、ゴマンも頑張ってるよ。でも、ゴマンの夢を叶えるにはあいつが邪魔なんだ)
ゴマンは村に残っている本当の理由は赤毛熊や他の魔物の脅威から村を守るためである。この村には若い男は少なく、戦える人材も限られている。
最近はより一層に魔物も数を増やし、村を守るために人手が必要だった。そのため、ゴマンも村を離れる事ができず、いつまでも冒険者になる夢を叶えられなかった。しかし、彼の夢を叶えさせるためにもナイは最大の脅威である赤毛熊を倒す事を誓う。
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